第195話 武藤さん?
<テツ>
俺はフローラの去った後をしばらく眺めていた。
赤い槍は拾い上げ、俺のアイテムボックスに収納する。
「いったい何だったのだろう・・フローラの存在が希薄に感じる。 本当にいたのかどうかもわからないような・・」
俺は妙な喪失感を感じていた。
倒れている人を見る。
「ふむ・・問題ないようだな。 このまま放置でいいだろう」
俺はそう思い、来た道を歩いて戻って行く。
柵を飛び越えて着地。
!
驚いた。
「よう、佐藤さんじゃねぇか」
武藤がいきなり声をかけてきた。
俺も完全に油断・・ではないが、警戒をしていなかった。
武藤の存在に気づくことができなかった。
「む、武藤さん・・じゃないですか?」
「まぁそう構えることもあるまい。 もう俺たちではあんたに手出しできないしな」
武藤がニヤニヤしながら言う。
「・・・」
俺は無言だ。
「佐藤さん、こんな時間に公園に用があるのかい?」
武藤が探るように話してくる。
俺は少し考えていた。
どうせこの男のことだ。
隠し通せるものでもない。
それに俺たち帰還者の存在も知っている。
まぁある程度話しても問題はないだろう。
「えぇ・・ちょっと・・というか、俺たちを狙っていた奴を誘導したんですよ」
「ほぅ・・そういえば、一緒にいた女の子だったかな? どこに行ったんだい?」
武藤が聞く。
なるほど、よく見ているじゃないか。
「あ、あの子ですね・・帰りましたよ、向こうの世界に」
「は? 向こうの世界?」
武藤が驚くのではなく、現状が把握できない顔をしていた。
「えぇ、彼女はこちらの世界の人間ではありません。 たまたま用があってこちらに来ていたのです。 その用が済んだので帰りました」
俺の回答に武藤が片手で自分の髪をぐしゃぐしゃといじる。
「はぁ・・俺も大概のことは受け入れれるつもりだし、佐藤さんが嘘を言っているとは思っていない。 あんたの能力を見せられたんだ、信じられないことが起こっているのはわかる・・だがね、こちらの世界じゃないって・・どんな空想なんだよ・・俺の人生観がおかしくなってくるよ」
武藤の最後の方の言葉はほとんど愚痴だった。
「まぁ信じられないのも無理はないですが・・そうだ。 これ見てください」
俺はそう言って、アイテムボックスから赤い槍を取り出す。
「これを持ってきてくれたのです」
!!
「さ、佐藤・・今、どこからその槍を出した?」
武藤が驚いている。
「あ、あぁ・・これですか・・こうやってアイテムボックスっていう見えない倉庫のようなものを持っているんですよ」
俺は何度か赤い槍を取り出したり入れたりして見せた。
・・・
・・
武藤はもう何も言わなくなっていた。
俺もこれが狙いだ。
自分の常識を遥かに超えるものを見せられると、余計な思考が停止する。
武藤も例外ではあるまい。
変に情報を小出しにするよりも、強烈なインパクトを与えておけば、フローラのことなど詮索されることはないだろう。
そういうところまでは俺も考えることができた。
もしそれ以上のことを武藤が考えつくのなら、それは俺の手に余る。
そう思っていたが、案外予想通りになりそうだ。
「さ、佐藤・・さんよ・・もう、俺にはわからんよ。 これって現実なんだよな?」
武藤がつぶやくように言葉を出す。
俺はゆっくりとうなずいていた。
「わかったよ・・道理で大きな力が働くわけだ。 俺たちのようなものでは触れることすら危ういということだな」
武藤はそう言うと笑う。
「佐藤さん、まぁ信用しろといっても無理だろうが、もし一般レベルで何かあったら、俺のところに来てもらっていい。 力になれると思うぜ」
武藤はそう言うと、俺の前からゆっくりと去って行く。
俺も素直に帰路についた。
◇
<神崎とクソウたち>
テツとフローラが出発してすぐ、クソウが神崎のところを訪れていた。
「おはよう、神崎君」
クソウは気さくに話しかける。
「お、おはようございます、クソウ閣下」
神崎はやや緊張をしていた。
「いやいや、そんなに緊張することないよ。 神崎君」
クソウが神崎に声をかけ、横にいる山本を見る。
「はい」
山本が軽く返事をし、神崎に近づいて行く。
机の上にそれほど厚くはない資料を置いた。
「神崎君、これがレールガンの全容だ」
山本の書類を神崎が手に取ってページをめくる。
・・・
・・
しばらくページを眺めていたが、神崎の身体が震えているのがわかる。
神崎がパッとクソウを見て話しかける。
「閣下・・これは本当ですか?」
「うむ」
神崎はそのまま山本を見る。
山本は真剣な顔でうなずく。
「神崎君、その資料にあるのは事実だ。 それにその資料は5部しか作っていない」
山本のその言葉でわかる。
クソウ以外の政治家などにはほとんど機密事項なのだろう。
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