第152話 偶然



「わかりました。 で、いつ出発すればいいのですか?」

俺は覚悟を決めて答える。

「うむ。 準備が出来次第頼む」

クソウが頭を下げた。

マジか。

このおっさんが素直に頭を下げるとは・・こりゃ何かあるな。

山本がすぐに話を変わる。

「佐藤君、いつも悪いね。 詳細な情報は移動しながら確認してくれるといい。 神崎君が一緒に行くのでよろしく頼む」

神崎が軽く頭を下げる。

「佐藤さん、一緒ですが、よろしくお願いします」

神崎はそう言うとチラっとクララの方を見た。

クララは相変わらず眠そうだ。


デイビッドが声をかけてくる。

「サトウ、サラが亡くなったと公に公表されている。 それもペンタゴンの中でだ。 あの国が自国の弱い部分を見せるはずはない。 何かあるに違いないが、サラをよろしく頼む。 彼女は自分より強い者の言うことなら聞くと思うよ」

デイビッドはここでお留守番のようだ。

俺はゆっくりとうなずくと席を立つ。

「ではクソウさん、用意をしてきますね」

俺の背中をクソウたちが見送っていた。

デイビッドがクソウに近づく。

「クソウ閣下、少し佐藤にお話ししてきてもよろしいですか?」

デイビッドの言葉にクソウはうなずく。

デイビッドがテツの後を追う。


デイビッドが出ていた部屋ではクソウが山本を見て言う。

「山本君、どうやら我々の時代が来たようだね」

「閣下、それはまだわかりません」

「フッフッフ・・まぁ力は見せないに越したことはないが、それにしても運というのはあるのだろうね。 私も神の存在を信じたくなったよ」

クソウはそういうと椅子に深く座り直す。

「それから神崎君、よろしく頼むよ」

「はい」

神崎は返事をすると部屋を出て行く。


クソウの言う運。

テツたちのアメリカ行きと並行して、ケンやリカたちの修学旅行の代わりの研修が催されると言う。

クソウが計画してことではない。

自然とそうなっていた。

なんと言うことだ。

アメリカに帰還者が意図せずに集まっているではないか。

これを何か起こらないと思わない方がおかしい。

そしてその中で優位を保つのは我が国だ。


今までの情報から、ドイツやアメリカ、イギリスの帰還者よりも佐藤の方が優れている。

それはそのまま国家の力となる。

それに佐藤は無茶をするような人間ではない。

それが諸外国に余計に圧力をかけることになるだろう。

さて、これからの世界地図は激変するだろうか。

どうなるのかわからないが、我が国が不利になることはない。

クソウはそう思うとコーヒを飲んでいた。

山本は静かにクソウの横で立っている。


<テツ>


時間は7時15分。

俺はホテルの部屋に帰って来ていた。

出発準備といっても、用意するものなどほとんどない。

ただ着替えの服や洗面道具などを持っていくだけだ。

まぁアイテムボックスに全部入るが。

「おっと、ケン君たちに連絡だけは入れておこう。 また何かあったら嫌われてしまう」

俺はブツブツとつぶやきながらケン君にメールを送った。


ケン君からすぐに返信があった。

は、早いな。

高校生って凄いな。

俺は感心しながら文字を読む。

・・・

!!

ほんとか?

俺は急いでケン君に電話をする。


『はい、ケンです』

『ケン君、本当かい?』

『えぇ、本当ですよ。 今日出発するんですよ。 奇遇ですね』

『そりゃ奇遇だけど・・何だかなぁ・・都合良すぎるというか、怖い感じがするよ』

『何言ってるんですかテツさん。 また僕たちを置いて一人でアメリカに行くつもりだったんでしょ? 今度は向こうで会えますね』

ケン君のメールには、今日から研修旅行でアメリカに行くとあった。

学校の授業の一環らしい。

『ケン君・・まぁ学校の授業では勝手な行動はできないだろうけど・・』

俺が言葉に詰まるとケン君が明るく話してくる。

『いえいえ、自由行動時間はたっぷりありますので、よろしくお願いします』

・・・

俺はかなり不安になる。

行き先もどうやら近い場所らしい。

『うん・・まぁ無茶しないでくれよ』

俺はそう声をかけるが、同じ言葉をケン君から返される。

『テツさんこそ無茶しないでくださいね。 リカに怒られますよ』

後は他愛ない会話をして俺たちは電話を切った。


それにしても、なぜこのタイミングで俺たち帰還者がアメリカに集まろうとしているのだろうか。

俺の考え過ぎなのかもしれない。

しかし、神の意思なのかもと疑いたくなる。

ディアボロスのような存在をどうにかしろと言われているのだろうか。

まさかな。

俺は頭を軽く振ると、部屋のチェックをして外へ出た。

クララが既に待ってくれていた。

俺たちはそのまま神崎の案内で空港へ向かう。


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