第141話 それぞれの思惑



「なるほど・・僕が勉強している間にそんなことになっているのですね。 でも、中国ってどうなるんでしょうね。 まぁ普通の人には関係ないでしょうけど」

ケン君が聞いてきた。

「あぁ、俺にもわからないよ。 国という枠組みがなくなった分、みんな自由に動くんじゃないか? より複雑化するかもな・・う~ん・・」

俺も明確に答えることができない。

そんなことよりもディアボロスだ。

「ケン君、この魔族のディアボロスだが、俺たちを喰ってレベルを上げようとしているみたいなんだ」

「はい、でも逆に考えれば、この魔族を倒せば僕たちもレベルが上がるってことですよね?」

俺は驚いた。

まさかそんな考え方をするとは思ってもみなかった。

「い、いや、ケン君・・」

「フフ・・わかっていますよ。 僕はそんなことは決してしません。 あの魔素を感じたら怖いです。 でも、そう考える帰還者もいるでしょうね」

「どうだろうねぇ・・余程のバカじゃないと近づこうと思わないだろう」

俺はケン君に返事をしながら考えていた。

まさかそんな奴はいるはずはないと。


「でもまぁ、ケン君たちが普通に過ごせていたのは良かったよ。 また何かあったらよろしく頼むよ」

「もちろんです。 任せてください。 それにテツさん・・僕たちにもいろいろと相談してくださいね。 これでも結構レベルはある方だと思いますよ」

ケン君が力強く答えてくれた。

「ありがとう。 そうだね・・俺も逆ならそういうだろうね。 ごめん子供扱いしていて・・ただ、君たちには死んでほしくないんだ」

「それは僕たちだって同じですよ。 テツさんに死んでほしくありません。 もしそんなことになったら・・大暴れしてやりますよ」

ケン君が物騒な発言をする。

「あはは・・そうなればディストピアだよ」

「テツさん、リカも同じ気持ちですよ。 また何かあったら教えてくださいね」

ケン君はそういうと電話を切った。


ありがとうケン君。

俺はとても温かい気持ちになる。

俺と同時に召喚された人たちで生き残りだ。

俺を含めてたった3人が俺の知り合いだ。

クララにしてもデイビッドにしても、帰還者というのはわかるが召喚された時間が違う。

俺は電話の後そんなことを考えみた。

そう思えば、ブレイザブリクの召喚術式・・無茶苦茶だよな。

召喚術士って・・絶対消耗品扱いだよな。

・・・

やっぱあの国はクソだ。

結局、ブレイザブリクの腐れ具合を再確認するだけだった。


<ディアボロス>


ピスターチオを吸収して満足したのだろう。

上機嫌で歩いている。

別に行き先はない。

この感覚・・内側から新しい力が沸き起こってくるようだ。

受けた傷ももはやない。

だが、傷がある感覚がある。

あのテツとかいう帰還者。

魔王の加護があったのだろう。

私の記憶に残るものだ。

まずはあの者を消し去らねば、この不快な感情は消えることはないだろう。

焦っているわけではないし、恐れているわけでもない。

なのにこの不快感・・気に入らんな。

・・・

万が一はないだろうが、後一人も帰還者を取り込めば、もはや怖いものはない。

魔王ですら対等に戦えるかもしれない。

私が力をつけて帰還したあかつきには、魔族を我が傘下に・・いや、魔族自体を滅ぼしてもいい。

私が新しいルールを作るのだ。

人間界に逃げ込み・・いや逃げたのではない。

移住したのだ。

そこで時間をかけてゆっくりと強くなる予定だったが、時間ばかり過ぎていく。

そんな時に帰還者が現れた。

これは私に運が向いて来たと考えるべきだろう。

フフフ・・自然と笑いが込み上げてくるな。

だが油断は禁物だ。

絶対という言葉はない。

今の私を脅かす存在はないだろうが。


ディアボロスはニヤニヤしながら歩みを進める。

まだテツのところに移動するわけではない。



<サラ>


デイビッドと分かれたサラ。

デイビッド・・生きていた。

航空機の爆発だけで死ぬはずはないと思っていた。

しかし、情報が全く入らない。

死ぬはずがないと思っていただけで自信がなかった。

考えないようにしていた。

そしてその自分に気づいていたが、気づかないようにしていた。

でも、デイビッドの顔と言葉を聞いて生き返った気がする。


もう大丈夫。

デイビッドに指摘されて改めて思う。

確かに今の政府のいいように使われている。

別に嫌なわけじゃない。

けれども本当に人々の意思を反映しているのかしら?

私にはよくわからない。

だけど、わかることもある。

接する人が嫌な気持ちにならないこと。

これだけを心掛けていれば、道に迷うこともないと思う。


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