第117話 接近



クララは手を離すと聞いてくる。

「テツは何をしていたの?」

クララを見ているとそれほど悪い奴でもないのかもしれないと思えてくる。

「俺は・・」

クララの質問に素直に答えてしまった。

いきなり人が消えて行く感覚の調査に行っていること。

・・・

・・

「なるほどねぇ・・わかったわ。 私も一緒に行ってあげる」

クララが微笑みながら言う。

「は?」

俺は驚いた。

何言ってるんだこの女。

「クララ・・いったい何言ってるんだ?」

「だから一緒に行ってあげるって言ってるのよ。 邪魔かしら?」

いやいや邪魔どころか、俺の理性が危ない。

その胸だけじゃなく美尻ヒップも触れてしまうかもしれない。

俺がそんなことをチラッと頭の中で思うとクララが言う。

「テツ、私に触るときは許可を取ってね。 あなたの手がなくなっても知らないわよ・・って、そういえばテツの手は弾かれていたわね」

クララがそう言って俺の手を取る。

そして自分のスキルを発動したのだろう。

またバチッと俺の手が弾かれた。

この女、人の思考回路が読めるのか?

そういうスキルなのか?

俺はドキッとしながらクララを見る。


「う~ん・・テツの身体は私のスキルでは吸収できないみたいね」

クララが軽く言う。

「きゅ、吸収? クララ、いったい何やってんだよ」

「そうよ・・でもいいじゃない、吸収できないんだから。 それよりもあなたクラスは何?」

「そ、それよりもって・・」

俺は言葉が追い付かない。

この女、いったい何考えているんだ?

「テツ、あなたのクラスは? あ、私はスターゲイザーなのよ」

「スターゲイザー? 占星術師とかの?」

「そう、よく知ってるわね。 あ、でもあのクズどもを掃除する能力はリッチから教えてもらったものだけどね」

「リッチ?」

俺には衝撃の言葉ばかりだ。

リッチって、アンデッド系だよな?

聞いたことある程度で接触したことはない。

確かどこかの孤島に死の国があるという程度の認識だ。

太古からずっとそこはそういう国という認識だし誰も干渉しなかったと思う。


クララは俺の反応を他所よそに歩き出す。

「さぁテツ、行きましょう。 移動しながらいろいろと話してあげるわ」

俺はよく相手もわからないまま、クララが同行してくれることになった。

大丈夫か?

そういう感情さえ起こって来なかった。



<テンジン>


テンジンは広い平原に立っていた。

そして動けないでいる。

まだ視認できないが、確実に危機が迫ってきているのがわかる。

相手は確実に自分を捉えている。

逃げても無駄だろう。

それよりも近づいてくるまでに何か対策を練らなければいけない。

「これは・・拙者、死ぬかもしれんな」

テンジンはつぶやく。

だが悲壮感はない。

自然な流れと受け取っている感じだ。

「しかしこの近づいてくる脅威・・サラやテツ殿に知らせてやりたいものだが・・仕方ない」

テンジンは静かに気を練っていた。


<ディアボロス>


ワクチンことディアボロスの魔素を混入された液体を打たれた普通の人々では、ディアボロスを満たすことはできなかった。

数を吸収すれば可能かと思っていたが、思惑が違ったようだ。

ディアボロスはミシチェンコを吸収したことで、帰還者なら自分のレベルアップに役立つだろうと考え、安全を優先しながら帰還者の存在を探っていた。

すると遠くで強い魔素を感じた。

テンジンがチベットを離れロシア領域付近を散策していた時だ。

ディアボロスはゆっくりと近づいて行く。

テンジンを自分の索敵範囲内に捉えると、相手に微かにわかるように自分の存在を知らせる。

テンジンはディアボロスの網に引っかかってしまっていた。

同時に逃げることも無意味だと悟らせる不気味な魔素をディアボロスは放っていた。

またディアボロスは相手と同じくらいのレベルだと感じさせる操作も怠らずに行う。

格段にレベルが違えば、相手は一目散に逃げるに決まっている。

そうさせないように慎重に接近していた。


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