第116話 クララ



限りなく時間が圧縮された中を俺は移動する。

・・・

確かこの辺りで感じたのだが。

そう思って俺は辺りを探る。

ふむ・・明らかに路地裏に誰かいる。

それも堂々と。

相手は動く気配はない。

むしろ俺が来るのを待っているような感じだ。

気づかれているのだろうか?

それはわからないが、俺はゆっくりといかにも怪しい路地裏に向かって歩いて行く。

建物の角を曲がる。

俺は少し驚いた。

同時に超加速を解除。

後のことを考えて、もし敵なら再度超加速を使って対処するためだ。

女の人が1人立っている。

周りには衣服が静かに横たわっていた。

女の人がゆっくりと俺の方を見る。

微笑んでいるようだ。


「あなた・・いい匂いがするわね」

は?

匂い?

俺には一瞬何を言っているのかわからなかったが、この女は間違いなく怪しい。

だがこの女が人を喰ったのか?

見た目はものすごい美人かつ可愛いい。

出るところは出て腰の辺りはクビれている。

足も長い。

モデルとはまた違った身体のラインだ。

一言・・ゴックン! 

素晴らしい。

思いっ切り胸に頭をうずめて、ギューッとしたい。

だが格言にある。

きれいな花には棘がある。

いや、そんな棘、いくら刺さってもいいと思えるような女性だ。

俺は一瞬でそんなことを考えていた。


女の人がゆっくりと俺に足を向けて歩き出す。

俺は思わず一歩下がってしまった。

「フフ・・そんなに怖がらなくても食べたりしないわよ」

女の人が微笑みながら近づいてくる。

俺の前3mくらい前にやってきた。

近くでみるとますますグラマーで美人だ。

日本人ではありえないラインだな。

また身長もそれほど高くない。

俺の目線くらいだろう。

女の人が俺の目を見て言う。

「可愛いのね。 あなた、帰還者でしょ?」

俺はその一言で妙な妄想が吹き飛んだ。

俺の変化を感じ取ったのだろう、女の人がにっこりと笑う。

「怖いわねぇ・・私もそうなのよ。 よろしくね」

女の人はそう言いながら近づいてくる。

俺と握手できる距離まできて、手を差し出していた。

俺は無意識にその差し出された手に応える。


握手をした瞬間にバチッと静電気のような抵抗を感じた。

俺は思わず手を引っ込める。

「クッ!」

女の人は不思議そうに自分の手を見つめて言う。

「ごめんなさいね。 あなたの魔素を感じてどんな人か判断しようと思ったのだけれど・・弾かれたわ」

俺は黙って女の人を見ている。

「警戒しないで・・って、無理ね。 いきなり私が仕掛けたものだから・・でも、本当に誤解しないでね。 あなたに危害を加えるつもりはないわ」

女の人が優しい口調で言葉を出していた。

俺は手を降ろして聞いてみる。

「ここに・・ここに人がいなかったかな?」

俺の言葉に女の人がゆっくりと振り返り、地面にある服を見てまた俺の方を見る。

「えぇ、居たわよ」

「そうか・・俺の目が間違えていなければ、あの服だけがあるのが不思議なんだが・・」

俺の言葉に女の人は笑う。

「あなたの目は間違えていないわよ。 私がクズを掃除したのよ」

異世界に転移していない俺なら驚いて動けなかっただろう。

だが、そういう能力やスキルがあることはわかっていたし、別にどうということはない。

気持のいいものではないが。

「そうか・・で、何で食ったんだ?」

「アハハ・・だから言ってるじゃない、掃除をしたのよ」

「掃除って・・」

「私ね、クズの匂いがわかるのよ。 あなたはとてもいい匂いがするわ。 そんなことよりも、あなたの魔素を私が吸収できないなんて・・どういうことかしら?」

女の人が少し首をかしげて不思議そうな顔をしている。


おい!

いい顔してるな。

普通に出会ってたら一撃で俺は落ちるぞ。

女の人が目を少し見開いて俺に言う。

「あ、ごめんなさいね。 私はクララっていうの。 よろしくね」

クララはまた手を差し伸べてきた。

きれいな手だ・・って、そうじゃないだろ!

俺は少しだけ迷ったが、手を差し出した。

クララの手を握る。

線の細い、柔らかい手だ。

今度は弾かれなかった。

「俺はテツっていうんだ」

一応自分を紹介する。

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