第114話 知らない間に危機を乗り切る
<ディアボロス>
ディアボロスは誰もいない街を歩いていた。
まだロシア領内のようだ。
辺りを見渡す。
左手を握りしめて確認する。
「ふむ・・力は少し強くなったようだ。 だが、ダメだ」
ディアボロスにもわかっていた。
食事としての魔素の吸収。
これは問題ない。
もう食べなくても十分という感じだ。
だが、自分のレベルを上げるための吸収。
計算では数を増やせば問題ないだろうと考えていた。
実際は、ダメなようだ。
「こんなことを繰り返しても強くはなれないだろう。 やはり魔素の強い魔物や生物でないと無理なのか・・こちらの世界にはそんなものはいないし、召喚もできない」
ディアボロスは歩きながら考えていた。
・・・
・・
!!
そうだ!
奴等、帰還者を利用すればいい。
ミシチェンコは私のために役立ってくれた。
量より質だ。
思い立てばすぐに実行。
さて、どうやって奴等と接触しおびき寄せるかだが・・。
ディアボロスはニヤッと口を歪めると満足そうにうなずいていた。
◇
<サラ>
サラはワシントンにいた。
国務長官の会議が終わるまで、事務所で待機している。
事務所内をウロウロとして落ち着かない。
当然だ。
あの人の狩られる感覚をまた感じた。
ジッとしていられない。
元来、正義感が強いのだろう。
自分の実力や周囲の状況を顧みず、危険だとわかっていても飛び込んでいくきらいがある。
デイビッドがいれば冷静に一言助言をくれたりして歯止めがかかっていた。
だが今はそれがない。
サラ自身で答えを出さなければいけない。
自分が危ういのはわかっている。
だが、わかっているのとできるのが違うことはよくわからないようだ。
あっちへ行ったりこっちへ行ったりと事務所の中をサラはウロウロし続けている。
・・・
事務所のドアが開く。
!
サラがドアの方を見て早足で近づいて行った。
「お、おぉ、サラさんか・・どうしたのかね、それほど慌てて・・」
国務長官が驚いていた。
SPも一歩前に出ようとしたが、サラの動きの方が速い。
「国務長官、お話があります」
国務長官は片手を挙げてSPを制止する。
「サラさん、まぁ座り給え」
国務長官がそう言って席につく。
サラはそれにつられるように国務長官の前に座った。
サラは座るまで待てないような感じだ。
座りながら話しかける。
「国務長官、実は人が大量に亡くなっているのです・・」
いきなりの内容に国務長官はサラの顔を見つめてしまった。
言葉が浮かんで来ない。
「サラさん、いったい人が大量に亡くなるとはどういうことなのですか?」
国務長官はまるで子供を相手にするような感じでサラの言うことを聞いていく。
・・・
・・
サラは今の気持ちを吐き出したのだろう。
スッキリした顔をして国務長官を見つめる。
「ふむ・・サラさんはその現場に行きたいというわけですか」
「はい、是非とも行ってみたいのです」
サラが少し身を乗り出す。
「ふむ・・困りましたな。 いえ、正直に言いますと我々にはサラさんが言ったことが本当に起こったことなのかどうかわからないのです」
国務長官の言葉にサラが立ち上がろうとする。
「おっと、これは言葉が悪かったですね。 サラさんが嘘を言っているとは思ってはいません」
「では、国務長官・・」
国務長官は微笑みながら話す。
「サラさん、よく考えていただけますかな? 仮にサラさんが出かけて行ったとしてどうするのです。 その人を大量に殺害している者を捉えるのですか? 私なら怖くて近づけません。 我々に感じることができない感覚をサラさんは感じておられる。 それを利用してサラさんたちをおびき出そうとしているのではないのですか? そう考えることはできませんか?」
国務長官が静かに言う。
サラは次の言葉を失ってしまった。
なるほど、国務長官の言う通りだ。
大量に人が亡くなることばかりに気をとられていた。
だが、それが私たち帰還者に対するメッセージとは考えもしなかった。
「国務長官・・」
サラはゆっくりとうなずく。
「サラさん・・焦ることはないと私は思うのです。 サラさんだけではない。 世界にいるサラさんと同じ境遇の人たちはきっと同じ思いをしていることでしょう」
国務長官はにっこりと笑い、言葉を続ける。
「我々も情報を集めます。 それまで我が国の安全に寄与してくれませんか?」
国務長官が優しく言葉を出していた。
サラは大きくうなずく。
「はい国務長官。 私が先走ったばかりにもう少しでアメリカを危うくするところでした」
サラの言葉に国務長官もゆっくりとうなずいた。
サラは気づいていない。
国務長官も同じだ。
サラの命が救われたこと、アメリカから帰還者を失わずに済んだことに。
◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます