第115話 帰還そして出発



<テツ>


俺たちはバッキンガム宮殿に帰って来ていた。

ソフィは相変わらず海を渡れない。

いや、渡れるのだが浮遊魔法で浮かびながらフワフワと移動できる程度だ。

それを海の上で見せてくれたのだが、俺は思わず爆笑してしまった。

おかげで頬に一発大きなもみじマークをもらうことになったが、ソフィって怖いな。


レオが女王に報告をする。

「女王陛下、申し訳ありませんでした。 全く収穫はありませんでした」

「良いのですレオ。 まずば無事に帰って来れたことに感謝いたします。 こちらではミス神崎からいろいろと情報を得ました。 まさかロシアの大統領が魔族などとは・・未だに信じられません」

女王の言葉にソフィが言葉をつなぐ。

「女王陛下、その話ですが、実はレオとテツ、彼らと話していて1つの疑念が出来ました」

女王が興味深そうに聞く。

「何ですか? その疑念とは・・」

「はい、実はその魔族なのですが・・それが今回の首謀者なのではないかという結論に至ったのです」

女王がソフィの言葉に反応する。

「なんですと? ふむ・・いや、しかしというべきか・・なるほど・・そう考えることが自然なのかもしれませんね」

女王が俺の方を見る。

「ミスター佐藤も同じ考えですか?」

「はい、私もそう考えております」

「なるほど・・ミス神崎、我々は良い関係を築けそうですね」

女王が神崎を見る。

「はい、ありがとうございます」

神崎が頭を下げている。

「ミスター佐藤、我々は帰還者を通じての行為に全面的に協力する約束を交わしました。 まぁそれぞれ国の利害が優先するでしょうが、少なくとも敵ではありません。 これからよろしく」

女王が微笑む。

「は、はい!」

俺は思わず何も考えずに返事をしてしまった。

女王の威圧に負けた感じだ。


「よろしいミスター佐藤、それでこれからどうするつもりですか?」

女王は間髪を入れずに聞いてくる。

俺はチラっと神崎を見たが反応なし。

俺の言葉で答えなければならない。

「はい・・俺・・いや、私はやはりディアボロスに近づいて行ってみようかと思っています」

俺の言葉にレオとソフィがバッと俺を見る。

いやいや、そんなに驚くことでもないだろう。

「ふむ・・それでミスター佐藤、我々の協力は必要かね?」

女王が意外そうな顔で俺に返答する。

「いえ・・もし私が倒れた時に誰も残っていないのでは困ります。 私1人で動いてみたいと思います」

俺は答えつつも思っていた。

レオたちがいれば邪魔になるだろう。

確かにそれなりのことはできる。

だが、もしディアボロスと遭遇したら戦闘よりも逃げることになるかもしれない。

そうなれば、レオたちが足かせになるだろう。

それに俺だけなら、逃げるに徹したら何とかなるかもしれない。

そして、もしかしたら宝具を使ってディアボロスを拘束できるかもしれない。

何せ、レオたちは邪魔だ。


「ふむ・・レオたちはどうなのですか?」

女王が聞く。

「はい・・僕もテツの言う通りだと思います。 冷酷なようですが、我々が全員倒れれば困ると思います」

ソフィもうなずく。

「わかりました。 ミスター佐藤、あなたに苦労をかけることになるのですね。 もし無事に帰還し、情報を共有できればきっとその見返りを約束します」

女王が申し訳なさそうな表情で俺を見る。

神崎が俺に近寄って来て頭を下げる。

「佐藤さん、ありがとうございます。 これでクソウ閣下の・・いえ、日本の国益は守られました」

俺は神崎を見ながら改めて思う。

それほど大きな事態になっていたのかと。

「い、いえ・・神崎さん、そんなに頭を下げなくていいですよ」

俺は少し戸惑ってしまった。

そしてすぐに気を引き締めて女王の方を向き、軽く会釈をする。

「女王陛下・・早速私は出かけます。 今ならディアボロスの近くまで行けるはずだと思います」

俺はそう告げるとゆっくりと部屋の外に向かって歩き出す。

神崎がよろしくお願いしますと見送ってくれる。

レオとソフィも微笑みながら労いの言葉をかけてくれた。


俺は部屋を出ると、超加速を使って移動する。

レオたちには一瞬で俺がいなくなったように感じただろう。

今度の移動はかなり全力に近い。

俺はすぐに海を渡り、フランスからまっすぐにロシアに向かっている。

俺の周りの時間では1分ほど経過しただろうか。

イタリア北部、ミラノの辺りを移動していた。

ん?

何か妙な感覚がある。

それほど離れているわけではない。

俺は急いで移動を止めた。

同時に警戒度を引き上げる。

ゆっくりと静かに呼吸をして気配を薄くする感じだ。

こ、これは・・。

今、確かに人がいなくなった感じがあった。

あの儚い感覚とは少し違うが、似たようなものだ。

まさか向こうからこちらに近づいて来ていたのか?

俺は更に警戒度を上げる。

いつでも戦闘に移行できる感じだ。

そして超加速をフルに使う。


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