第102話 ちっぱい



クソウがニヤッとしながら紹介してくれた。

「この子は優秀な行政官でね、神崎栞かんざきしおり君だ。 佐藤君はいわば彼女のボディガードみたいなものだと思ってくれればいい。 彼女が政府の調整仕事をすべて片づけてくれる」

クソウの言葉の後に神崎が話しかけてくる。

「神崎です。 閣下からお話は伺っております。 よろしくお願いします」

お姉さんを思わせる声で挨拶をしてきた。

俺もソファから立ち上がって挨拶をする。

「さ、佐藤鉄です。 よろしくお願いします」

って、なんで俺が緊張しなきゃいけないんだ。

クソウの後ろでデイビッドが笑っていた。

あのおっさん・・殺す!


「佐藤君・・彼女が美人だからって緊張しなくてもいいよ。 何なら夜のお相手でもお願いしてみれば?」

クソウの言葉に神崎がすかさず言葉を出す。

「閣下、それはセクハラです。 私でなければ首が飛びますよ」

「おぉ、これはすまない。 許してくれ神崎君、あはは・・」

クソウが笑いながら謝っていた。

神崎は素のままで立っている。

「まぁ、仲良くやってくれ。 頼むよ佐藤君」

クソウはそう言うと席を立ち、山本のところへ歩いて行った。

俺は神崎を見る。

「佐藤さん、いつ出発されますか?」

神崎が聞いてくる。

「え? 出発って・・いつでもいいけど・・」

俺がぼんやりと答えると神崎がうなずく。

「わかりました。 出発準備は手配済みです。 では今から行きましょう」

神崎はそう言うとクソウのところへ歩いて行って何やら話していた。

それにしても手配済みって・・俺の回答も織り込み済みなんだな。

ある意味、さすがとも言えるし俺の意思など関係ないとも言える。

凄いな。

それに、もし俺が断っても何か別手段も考えているのだろう。

俺はそこで連想を止めた。


デイビッドが俺に軽く手を振っている。

あの男・・もうすっかり馴染んでいるな。

すぐに神崎が帰って来て俺たちは出発となった。

あ、ケンやリカに言っておいた方がいいかな?

また妙に張りきられたら後が怖いし。

俺はケンにメールで、クソウの仕事でイギリスに行って来ることを伝えた。

日本で何かあった時にはよろしく頼むとも付け加える。

ケンたちもレベル的には超人だろう。

それにデイビッドもいる。

何とかなるだろう。

・・・

俺は神崎と移動しながらそんなことを考えている自分が可笑しくなった。


いったい何をしているんだ俺は。

自分と周りが不幸でなければ良かったんじゃないのか?

それがクソウの思うように動いているような気がする。

これって結局は日本という国のために動いているんじゃないのか?

まぁ自分の所属する国だから良いと思えるが、大きすぎるんだよなぁ。

俺の手に余る。

俺がそんなことを考えていると、神崎が声をかけてきた。

「佐藤さん、何かお悩みですか?」

「い、いえ・・特に何も・・」

神崎はジッと俺を見つめて素っ気なく言う。

「帰還者と言っても、普通の人と全く変わらないのですね」


神崎と俺は政府の車で移動している。

イギリスまでは民間機で移動することになっていた。

さすがに政府専用機ではないな。

俺は神崎の言葉に微笑む。

「神崎さん、当たり前ですよ。 私は普通の人間です。 それが何の因果か、突然異世界に飛ばされて、ほとんどタイムラグもなくこちらに帰って来たのですからね」

神崎は俺を見つめている。

「異世界ですか・・佐藤さん、クソウ閣下から聞いていると、信じられないことばかりの話です。 私も聞いてのイメージしかできないのですが、本当にそんなことが世界で起こっているのですか?」

俺は神崎の言葉にうなずく。

「もっともな反応だと思うよ。 見ても信じられないだろうね」

神崎がジッと俺を見る。

・・・

ん?

この子って、何か俺の能力が見たいのだろうか?

俺はそんな風にとらえてみた。


「神崎さん、何か俺の能力を見たいのですか?」

俺は軽く聞いてみる。

一瞬、神崎は驚いたような感じを見せたがすぐにうなずく。

「えぇ、是非とも見せてください」

俺は神崎を見ながら考える。

どんな能力がいいのかな?

・・・

あれしかない!

俺の頭に浮かんだもの。

そう、アンナやサラの時のように・・。

チラっと神崎の胸を見る。

俺は思わずため息をついた。

「はぁ・・」

「どうしたのですか、佐藤さん」

神崎が少し前のめりになって聞いてくる。

車は対面式に座席が作られている。

『神崎、お前の胸はちっぱいか! 俺の知ってる女たちはすさまじく最高の胸揃いだぞ』

俺は心の中で叫んでいた。

「い、いえ・・何でもありません。 では、神崎さん、少し能力を使いますね」

俺はそう言うと超加速を発動。

神崎が返事をしようとする動作のまま止まっている。

いや、正確にはゆっくりと動いている。

その動く時間が恐ろしくゆっくりなだけだ。

俺はその中を普通の時間で動けるに過ぎない。


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