第99話 メリケン首相に報告



<ドイツ>


メリケン首相のところにアンナとクラウスが帰って来ていた。

「で、どうでしたか?」

メリケン首相が訊ねる。

クラウスが立ったまま報告をする。

「はい、特に重要な情報は得られませんでした」

アンナもうなずく。

「そうですか・・やはりトップがいなくなったのは大きかったようですね」

メリケン首相はゆっくりとうなずいて何やら考えている。

クラウスが少しして言葉を出す。

「首相・・実はもう一つご報告があります」

メリケン首相がクラウスの方を向く。

「我々が調査している時ですが、大量の人が亡くなったようなのです」

クラウスの言葉にメリケン首相の動きが止まる。

瞬きを何度かするとクラウスを見て言う。

「クラウス・・何を言っているのですか?」

「はい、我々の調査している場所から離れたところで、一度に大量に人が亡くなったような感じを受けました」

「クラウス・・中国で内乱が起きたのですから、それは当然起こるべくして起こった事ではないのですか?」

クラウスは少し声をうわずらせながら言葉を続ける。

「い、いえ、そういう亡くなり方とは違うのです。 普通に暮らしていた人が突然日常を奪われたような・・予期せぬ死を強いられたというような・・うまく表現できませんが、そういった儚い死を感じました」

メリケン首相はアンナの方を向いてアンナを見つめる。

「は、はい。 クラウスの言っている通りです。 私たちも見たわけではありませんが、確実にクラウスの言ったように人が亡くなったのは間違いないと思います」

メリケン首相は二人の言葉を聞きながら考えているようだ。

・・・

・・

「ふむ・・あなたたちはその死を知ることができたのですね。 そういった能力なのでしょうか?」

メリケン首相が静かに聞く。

「いえ、能力というのではなく、レベルが上がれば誰でも感じ取れるとしか言えませんが・・」

クラウスが答えていた。

「その事件を起こしたのもあなたたちと同じ帰還者なのでしょうか?」

メリケン首相の目は真剣な眼差しだ。

「それがわからないのです、首相。 我々の知っている範囲では、そういった能力は知りません。 一般人を倒せと言われれば、同じようなことができると思います。 ですが、報告したような消え入るような儚い死を伴うことはありません。 だからこそそういった雰囲気を感じさせることもありません」

「なるほど・・では、その凶行を行った人物は何者なのでしょうね」

メリケン首相は少しうつむき考えている。

クラウスとアンナも少し困惑したような表情でメリケン首相を見つめていた。

・・・

メリケン首相は一度うなずき顔を上げる。

「わかりました。 答えのない回答を求めても仕方ありません。 その正体不明の者の警戒をしつつも、我々にできることをしていきましょう。 日本といち早く友好関係を気づけたのは良かったと思います。 次は周辺国との調整ですね」

メリケン首相がそこまで話すと、ドアをノックする音が聞こえた。


コンコン・・

「失礼します」

そう言葉を出しながら行政官が入って来た。

「首相、各国の方々が意見を求めておられます」

メリケン首相はその報告を聞くと、クラウスたちに指示を出して部屋を退出した。

「クラウス、アンナ、あなたたちにはフランスとイギリスそしてイタリア、取りあえずその3か国の調査をお願いしたいのです。 できますか?」

クラウスはアンナを見てうなずく。

「首相、我々も各国の状況が知りたかったのです。 喜んでお引き受けいたします」

「ありがとう。 それとロシアですが、副大統領が現政権を担っているようですね」

メリケン首相はさりげなく現状を伝えてくれる。

クラウスたちはメリケン首相の背中を見送った。


<クラウスとアンナ>


メリケン首相が部屋から退出すると、クラウスが小さな結界を張る。

「アンナ、これで会話が漏れることはない」

アンナはうなずく。

「どう思う? あの虐殺をした能力者だが・・」

「えぇ・・本当にわからないわ。 いったいどんな人なのでしょうね」

クラウスはアンナを見ながら真剣な顔を向ける。

アンナがその視線に気づき、クラウスを覗き込む。

「どうしたの、クラウス?」

「・・・あぁ・・実はな・・俺も実際に見たことはないが、人の命を吸い取る能力というのは聞いたことがある」

クラウスの言葉にアンナが目を見張った。

「ほんと?」

「見たことはない。 だが、アンデット領域などに存在する黒魔法らしい。 ほら、この世界でもあるだろう。 ヴァンパイア伝説なんかが・・それと同類の能力ということだ」

クラウスの言葉を聞いてアンナはうなずく。

「なるほど・・確かにアンデッド系の能力にはあるのかもしれないわね。 でも、私たちはその領域には一度も行ったこともないわ」

「あぁ、そうだ。 だが、その領域に近いところでいた帰還者がいるかもしれない。 もしそういった人物がいて能力を使っているとしたら、これからが面倒なことになりそうな気がするんだ」

「そうね・・私たちとは手を結べそうにないわね」

アンナの返答にクラウスは苦笑する。


手を結ぶどころか手を触れあうこともできないだろう。

人をエサくらいにしか思っていないやからだ。

理由はどうあれ、俺は見た瞬間に戦闘になるかもしれない。

少なくとも俺は許せない。


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