第94話 フランスの帰還者
<レオたちが部屋に帰って来て>
レオがソフィを見て軽くうなずくと小さな結界を張った。
ソフィと自分のいる場所にだけ、外部と遮断する結界だ。
これで結界内の情報は一切外に漏れない。
「レオ、私たちこれからどうなるのかしら」
「さぁ、わからないな。 だが、もはや普通の生活はできないだろう」
レオの言葉にソフィが寂しそうに目線を落とす。
「そうね・・それにしても中国で内乱なんて・・バカな帰還者がいたものね」
ソフィの言葉にレオが笑う。
「仕方ないさ。 こんな力を持ったんだ。 そりゃ何でもできるって思ってっしまうだろう。 僕も女王の前では言えなかったが、おそらく中国軍なんて全滅じゃないのかな。 魔法に勝てるはずがない」
「そうね・・でもそんなことをして何になるのかしら?」
「わからないな・・だが僕たちは自分のできることをするだけだ」
ソフィにもわかっている。
もし帰還者同士の戦闘になれば、凄まじい規模で被害が及ぶ。
都市など丸ごとなくなるだろう。
中国で内乱を起こした帰還者。
何が目的なのかわからないが、我々の存在を世界にアピールしたようなものだ。
これから面倒なことにならなければ良いが・・。
ソフィは静かに席を立ち、レオの結界を出て窓から外を眺めた。
◇
<フランス>
スレンダーな体つきの美人が歩いている。
ゆっくりとした足取りでまるでモデルのような姿勢の良さだ。
行き交う男たちが思わず振り向くのも当然だろう。
その美人は気まぐれに微笑み返すが、氷のような眼差しだ。
男たちはゾクッとするようだが、それが恐怖によるものか快感によるものかは判断はつかない。
恐怖と感じとれる人間は正常だろう。
美人がしばらく歩いていると、後ろから3人くらいの男が付けてきていた。
美人は当然気づいていたが、知らない振りをして歩いて行く。
男たちが小走りに駆けて来て美人の前に回る。
「ヒュー! やっぱり見た目通りの美人だ。 な、俺の勝ちだろ?」
「あぁ、お前の勝ちだ。 しかしこんな美人、フランスの女優でもいないぜ」
「全くだ」
男たちは卑猥な笑いをしながら美人を囲んで話していた。
男の中の1人が声をかける。
「君、もの凄いきれいな目と髪をしているね。 今まで俺が見てきた中で群を抜いてるよ」
美人はその言葉を受けても微笑みを絶やさない。
「あぁ、俺もそう思う。 こんな女性に出会えるなんて、俺の人生って最高の時代に生まれたんだろうな。 ありがとう」
男はそう言うと女性の手を取り、甲の部分にキスをした。
女性も微笑みながら成り行きを見ている。
「もしよかったら、俺たちに何か飲み物でもご馳走させてくれないかな? こんな美人と時間を共有できるのなら、これほどうれしいことはない」
男たちは焦ることもなく笑顔で美人を口説いていた。
美人が声を出す。
「あなたたち、私が欲しいのかしら?」
!!
男たちは女性の声を聞いた瞬間に背筋が思わず伸びてしまった。
なんて澄んだ声なんだ。
まるで心を矢で射られたみたいな衝撃だ。
「うっ!」
「クッ!」
「ハッ!」
男たちは一瞬息をするのを忘れていた。
そして妙にソワソワしながら返答をする。
「「「たまらねぇ!!」」」
「も、もちろんだよ。 君が欲しいんだ」
男達は全員で大きくうなずいていた。
「そう」
女性はそう声をかけて微笑む。
そして続けて言う。
「では、交渉成立ね。 ありがとう」
美人はそう言うと、スッと動く。
男たちの間をすり抜けて背後へ出た。
「ふぅ・・あまりおいしくはないわね。 ゲスはゲスと言ったところかしら。 あなたたち匂いが臭いのよ。 人の匂いじゃないわ・・って、もういないわね」
美人はそう言いながら髪をかき上げる。
美人の後ろでは、男たちが着ていた服がそのまま人の形をしている。
するとすぐにヨロヨロと揺らめいてそのまま地面に舞い落ちた。
男たちは消滅していた。
フランスの帰還者、クララ:レベル32。
そのスキルで触れた者の生気を吸い取ることができる。
ドレインタッチ。
自分の魔力に変換できる能力だ。
普通は相手の命を吸い上げるほどではないが、意思を込めて吸収すれば低位の存在なら今のように消滅する。
クララはつけてくる男たちを判定していた。
そして断定する、ギルティだと。
クララのスキルで相手の核なる心の色や匂いがわかるようだ。
先程消滅した連中の心の色・・泥水のように濁っていてドブの匂いがした。
間違いなく生物としてはクズだ。
薬もやっていたかもしれない。
「この国は全然変わらないわね。 私もほとんどタイムラグもなく帰還できたようだけど・・どれくらいの人が帰って来ているのかしら?」
クララは周りをゆっくりと眺めて、また歩き出す。
歩きながらクララは思い出していた。
あんなアンデッドの領域に転移させられるなんて・・ありえないわ。
あの変態国、ブレイザブリクの連中め。
まぁ無事に帰って来れたのは良かったけど、いったいどうしてかしら?
一緒に召喚された連中は、うれしそうに英雄ゴッコを演じていたけれど、私はどうも苦手だった。
うさんくさい連中だと思っていたわ。
するとすぐに私だけ呼び出されて転移させられた。
簡単に言えば廃棄処分。
自分達と違う思想を持つ召喚した者達。
それらが従順でないと判明すると、知識を身につける前に殺処分か転移させる。
確か魔族領域や龍族に転移させられた者もいたという話だった。
笑いながら話していたっけ?
クララは復讐してやろうかと思ったが、どうでもよくなった。
自分の身の安全さえ確保できれば問題ない。
それにアンデッドの国って、案外居心地がよかったもの。
誰も無干渉。
意思があるのかどうか知らないけれど、生きるのに不自由はなかったわね。
ただリッチが鬱陶しかったわ。
私が転移させられたところが、たまたま運が良く、女性の神官だったというリッチ。
彼女からいろいろ学ばせてもらって、気が付けば黒魔術の上位者だもの。
・・・
・・
クララはそんなことを思い出しながら歩いていた。
そして背中に感じていた。
人が儚くなくなった気配、ディアボロスの糧となった人たちを。
「・・同じなのね・・どこでも人間っていうのは残酷なものね」
妙な気配だと思ったがそれだけだ。
クララはそのまま街の中を歩いて行く。
◇
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