第93話 女王の思惑



「レオさん、ソフィさん、陛下がお呼びです」

宮殿内の係員が呼びに来ていた。

レオとソフィは返事をすると、係員に付き添って部屋を後にする。


係員が女王のいる部屋ドアをノックする。

「はい、どうぞ」

部屋の中からよく通る声で返事が聞こえた。

係員がゆっくりとドアを開ける。

レオとソフィが部屋の中に入って行く。

ソフィはそれほどでもないが、レオは自然と身体が緊張していた。

今まで接触することすらなかった貴族が目の前にいる。

しかもトップだ。

その重厚感ある雰囲気に身体が本当に重くなったようにレオは感じた。

係員はレオとソフィが部屋に入るのを確認すると、静かにドアを閉める。

レオとソフィが女王の前に来た。

一応形式的な挨拶をする。


「まぁ、そう緊張せずともいいですよ、レオ、ソフィ」

女王が言う。

そして横を向いてうなずく。

女王付きの人だろうか。

レオたちの近くに来て挨拶をする。

「レオにソフィ、先程報告が入った。 中国で大規模な内乱が発生し、どうやら主席と思われる人物が亡くなったという話だ。 それに軍もかなりの被害が出たとか・・詳細はまだわからない」

付き人だろう人は、それだけを伝えると一歩下がった。


「今、聞いた通りだ。 君たちと同じ帰還者によるものだと報告を受けている。 レオにソフィ・・帰還者の能力はそれほどなのかね?」

女王が問う。

レオとソフィはお互いに顔を見合わせて少し考えていた。

いったいどう説明すればいいのだろう。

もっと事前に知らせてくれていれば、お互いに協議ができたかもしれない。

だが、それを敢えてさせないために、いきなり現場での反応を見ようとしているのかもしれない。

ソフィたちには余裕がなかった。

まずはソフィが口を開く。

「陛下、帰還者の能力と言われましても、それぞれ違います。 おっしゃる通り、我々の力でもおそらくは軍の相手はできると思います。 初めてお会いした時にお見せした通り、銃などの武器は我々には無効です。 ただ、それが戦車やミサイルになるとわかりませんが、死ぬようなことはないと思います」

ソフィは言葉を選びつつ答えていった。

あまりにも正直に話し過ぎるのは良くないと判断していたようだ。

だが、隠し過ぎるのも怪しまれるだろう。

だからこそ、最低限の情報を見せてみた。

ソフィは話しながら思っていた。

おそらく戦車辺りでは、傷もつかないと思う。

魔法による防御はかなりのものだ。

そして攻撃力。

身体能力よりも魔法による攻撃。

映画で見るような威力が発揮できる。

まだこちらに帰還してからは攻撃魔法は見せていない。


「そうですか・・それほどとは・・ということは、中国で起こったことは事実と認定して対処をお願いします」

女王が付き人に言う。

付き人はうやうやしく頭を下げて女王の前から退出して行った。

「さて、レオにソフィ・・我々イギリスはどのように振舞うべきでしょうかね」

女王が聞いているようでもあり、独り言のようでもあるような感じで話す。

女王がレオを見て言う。

「レオ、ロシアでも帰還者がいることがわかっています。 フランスにもいるようですね。 それにドイツ・・確か、日本から政府専用機がドイツに入ったという情報もありました。 どうやら世界のバランスが崩れてきているようです。 さてさて、どうなりますか・・」

女王はまるでレオを試しているようだ。

レオは下を向きながら考えていた。

ソフィが先に発言してくれて緊張が取れていた。

頭の中は冷静に回転している。


「陛下・・私の推察ですが、発言をお許しください」

レオがそういうと女王がうなずく。

「陛下のご推察の通り、我々の能力は近代兵器に匹敵するものだと思います。 もし、我々を軍事目的で利用されるとすれば、おそらく世界地図が変化するでしょう。 ただ、それに伴う出血はすさまじいものになると思います。 そして、諸外国の帰還者ですが、我々と同じくらいのことができると思われます。 今、私が考えることができるのは、諸外国の帰還者と友好を結ぶことが大事だと思われます」

レオは一気に話していた。

女王は興味深そうにレオを見つめる。

「ふむ・・それでレオ、どの国と手を結べばよいだろうか」

「陛下・・それは私にはわかりかねます。 ですが、少なくとも我々と同じような社会システムで教育を受けた国が良いかと思われます」

レオの回答に女王は少し考えていた。

そして軽くうなずき微笑む。

「よい回答だ。 確かにリスクを回避すればこそ生存がある。 立ち向かうのは最後でよい。 早急に情報機関に世界の帰還者の情報を集めさせねばならんな。 レオ、ソフィ、ご苦労だった。 下がってよいぞ」

女王が手で退出を促す。

レオたちは挨拶をすると、女王の部屋を退出した。

部屋の外では係員が待機している。

レオたちをまた部屋まで送ってくれた。


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