第86話 プッツン大統領を追って
<ミシチェンコ>
野戦病院で応急処置を受けてプッツン大統領を追っていた。
傷は完全には治っていない。
治癒魔法を行使できるものがいない。
自己回復でしか回復できない。
それでも普通の人間など、比べ物にならない速度で回復しているが、完全回復には1週間は必要だろう。
普通の人間なら全治半年以上の診断が出たことだろう。
「大統領に会わねばならない・・私を受け入れてくれたのは彼だ」
ミシチェンコがつぶやいていた。
まさか大統領が魔族だったということには驚いたが、それはどうでもいい。
私には素晴らしい人だ。
ただ、それだけだ。
あの方の下でしか、私は生きていけないだろう。
もう1度会って、判断を仰ぐことができれば、何かこれからのことがわかるような気がする。
諸外国に帰還者がいることもわかった。
まさか自分が吹き飛ばされるほどの者がいるとは思わなかった。
それに大統領にも傷を負わせていた。
魔族に傷を与えれる帰還者。
最大級で用心しなければなるまい。
まぁ、それも大統領に会ってからだ。
ミシチェンコは大統領のまだ
「それにしても後少し遅れていれば、この微かな魔素の反応は消えていただろう」
ミシチェンコが移動しながらつぶやく。
そして確実に魔素が強くなっていた。
大統領に近づきつつあるようだ。
しばらく魔素を追って移動すると、辺境と呼べるだろう山岳地帯に現れた。
中国とロシアの国境付近だろうか。
中国内かもしれない。
確か小さな集落が点在していた場所のはずだ。
ミシチェンコがその集落の1つを歩いていた。
確実にこの近くに大統領はいるはずだ。
・・・
だが、見当たらない。
それに人の気配もない。
没落した集落だろうか。
それにしては街はきれいな感じだが、なんだ?
ミシチェンコは少し警戒レベルを上げていた。
◇
<ディアボロス>
プッツン大統領は魔法陣を作ろうとしていたが、どうやらこの集落にはワクチンは供与されていなかったようだ。
ならば直接いただけばよい。
それほど多くもない人数だ。
200人ほどだろうか。
自分の細胞が定着していれば何の不自由もなく糧となるのだが、仕方ない。
まずは街を囲むように結界を張る。
誰も外に出してはいけない。
ディアボロスが街を索敵して、人の位置を把握。
一気に結界を張った。
これで誰も外に出ることはないだろう。
結界の中心にディアボロスがいる。
すると、小さな子供がディアボロスの近くにやってきた。
少し見つめていたが、声をかけてくる。
「おじさん、お腹でも痛いの?」
ディアボロスは片膝をついていた。
ディアボロスは微笑みながら子供を見つめる。
「おじさん、頬に傷がついてるよ。 これを使うといいよ」
子供はそう言ってポケットから白い布を取り出してディアボロスに渡そうとしていた。
「ありがとう」
ディアボロスはそう言いながら白い布を受け取り、子供の手をそっと握る。
シュ~・・・。
子供が服を残して湯気のように消えていた。
「ふむ・・全然足りんな」
ディアボロスはそうつぶやくと、一気に結界内の人間を吸収する。
・・・
・・
結界内にいた、すべての人間が衣服だけを残して蒸発した。
「うむ・・やはり全然足りぬ。 もっと我が支配下になっているものでなければ・・薄すぎる」
ディアボロスはスッと立ち上がる。
頬の傷はほんの少しだが回復したようだ。
白い布がヒラヒラと地面に落ちていく。
!
「ん? 大きな魔素が近づいてくる。 かなりの速度だが・・これは・・ミシチェンコか? いや、それを
ディアボロスは集落の中の一つの家に入って行く。
そして完全に気配を消す。
◇
<ミシチェンコ>
ミシチェンコが街の中をゆっくりと歩いている。
確かに大統領の魔素を感じるのだ。
だが、肝心の大統領がいない。
おかしい・・。
ミシチェンコが大統領の魔素をたどってウロウロしていると声をかけられた。
「ミシチェンコ君じゃないか」
その声に反射的にミシチェンコが振り向く。
ミシチェンコの目線の先にプッツン大統領がいた。
「だ、大統領・・よくぞご無事で・・」
ミシチェンコは今にも泣きだしそうな感じだった。
「うむ・・君もよくぞ生き延びていてくれた」
ディアボロスはそういいながら近寄って来る。
「大統領こそ、ご無事で何よりです」
「ミシチェンコ君、あの帰還者だが、どうなったのかね?」
ディアボロスが微笑みながら
「はい、残念ながら逃げられました」
「うむ・・なるほど」
ミシチェンコは大統領が無事ならそれだけでよかった。
またこの人とやり直せばいい。
そう思っていた。
「大統領はこれからどうされるおつもりですか?」
ミシチェンコが聞く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます