第52話 ベルビュー宮殿



「そうなんだ・・テツも苦労したのね」

アンナがうなずきながら車の外をチラっと見る。

「どうやら到着したようだわ。 もう少し話をしたかったけど、またね」

アンナがそう言うと、車がゆっくりと停車する。

外からドアが開かれて、アンナが先に降りた。

俺もアンナに続いて降りる。

クソウたちは先に降りて建物の中に入って行く背中が見える。

アンナの後をクソウに続く。

クソウのおっさん、普通に歩いて行くよな。

確かこの建物って、ベルビュー宮殿って呼ばれてなかったっけ?

違ったか?

俺はアンナの後をやや小さな歩幅で歩く。

どうも大股で落ち着いた歩きができそうにない。

慣れていない。

向こうの世界では平気だったのに、この現実世界に帰ってきて気が小さくなったのかな?

まるで迷子になった子供のような気分だ。

アンナが俺の方を見て微笑んでいる。

てめぇ、完全に俺をなめてるよな?

一瞬そう思ったが、雰囲気にのまれる。


クソウたちが入った部屋に俺たちも入って行った。

白い大きなスクエア型のテーブルがある。

女の人が立ちあがってクソウを出迎えていた。

「ようこそお越しくださいました、クソウ閣下」

「これはこれはメリケン首相、ご無沙汰しております」

メリケン首相が俺の方を見る。

「クソウさん、その方が例の・・」

「えぇそうです。 佐藤君です」

メリケン首相はうなずくと俺の方へ近寄って来た。

片手を出す。

「よろしく、メリケンです」

俺はメリケン首相の手を両手で握り返しながらあたふたしていた。

別に焦らなくてもいいのに、どうも性分のようだ。

「は、はい、佐藤鉄といいます。 よ、よろしくお願いします」

「アッハッハッハ・・佐藤君、何を緊張しているんだね? 私にやった時のようにドーンとしてればいいだよ」

クソウが笑いながら俺に言う。

このおっさん、ちょっと黙っててくれないかな。

「い、いえ、あの・・」

俺は余計に緊張してきた。

「まぁまぁ、それほど堅くなさらずに・・どうぞ席についてくださいな」

メリケン首相が丁寧に言葉をかけてくれた。

俺とクソウが座る。

向かい合ってメリケン首相、アンナ、見たことないクラウスが座る。

メリケン首相の後ろ壁際にはSPだろうか、ガタイの良い男と細身の女性が数名並んで立っていた。

俺たちの壁際にもクソウのSPが立っている。


メリケン首相が俺を見つめている。

「佐藤さん、あなたは帰還者なのでしょう? 私の横に座っている2人も帰還者なのです」

メリケン首相の言葉に2人ともが軽く会釈をする。

「アンナとは既に面識があると思います。 こちらがクラウス。 さて、佐藤さん、日本で魔法を発動していますね」

メリケン首相が微笑みながら聞いてくる。

俺は直球で質問してくるメリケン首相に、いつの間にか緊張感はなくなっていた。

俺はチラっとクソウの方を見る。

クソウがうなずく。

「はい、おっしゃる通り魔法で防御壁を構築しました」

メリケン首相はうなずく。

「なるほど。 それで一体何人で日本全体を覆うような魔法を発動したのかしら?」

俺は一瞬戸惑ってしまった。

その瞬間にクソウが言葉を出す。

「メリケン首相、それは国家機密に抵触しますな。 魔法自体は発動したということでよろしいですかな?」

「これは失礼しました、クソウさん。 佐藤さんもごめんなさいね。 私のところでも国全体を覆うような魔法は発動していないの」

「メリケン首相、それは敢えて発動していないのではないですかな?」

クソウが切り込む。

「クソウさん、どういうことでしょう?」

「いやね、これは噂話ですが、国としてある程度の人口になれば国費が浮いてくる。 そういった調整をする口実にこのウイルスを利用しているという話があるのです」

「まぁ、それは恐ろしい。 ですが、我々の国では本当にそれほどの規模の魔法防御はできてないのですよ。 むしろ、どうやればそんな規模で行えるのか教えていただきたいと思ったのです」

メリケン首相とクソウが微笑みながら話している。

俺にはどんなやり取りをしているのかわからない。

ただ、ビリビリした雰囲気は感じる。

こいつら騙し合いのプロなんだなと。


メリケン首相は悪びれることもなく次の話題を提供する。

「後ですね、お隣のロシアなのですが、こちらも間違いなく帰還者が存在するのです。 それもかなり強力な能力を持っていると思われます。 イギリスにも存在しますね」

「なるほど・・我々の情報網にも、アメリカは既に我が国に調査に来たようです。 東南アジアの国にもいるようですな」

クソウがメリケン首相の情報に対し、自分も小出しに情報を提供しているようだ。

聞いていて思う。

俺には絶対無理だ。

相手をみながら腹の探り合い。

疲れるだろう。

同じ空間にいるだけで疲れてしまう。

・・・・

・・・

しばらくはそんな情報交換が続いていた。


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