第51話 アンナ



デイビッドを乗せた航空機を監視している部屋があった。

「大尉、任務完了しました」

「うむ」

「映像を確認しますか?」

「そうだな、任務だからな」

「了解しました」


報告をしていた兵士がデイビッドを乗せた航空機の内部映像を見せる。

コクピットから客室内の扉の方向を映していた。

扉が軽い木の扉のように開く。

・・・

「この扉は鋼鉄の重く堅い扉だよな?」

大尉はつぶやくように聞く。

「はい、かなり強固な扉で小銃などの弾丸は受けつけません」

「う~む・・」

大尉は低く唸りながらも映像を見つめていた。

デイビッドが驚いた表情を見せる。

『な・・誰もいない。 自動操縦なのか・・』

そうつぶやいた瞬間に爆発の映像が流れ、映像は途切れた。

・・・

大尉は表情を変えることなく目を閉じる。

「大西洋上空2000m・・生きてはいまい・・ご苦労だったな」

兵士に言ったのかデイビッドに言ったのかわらからないが、それだけをつぶやくと軽くうなずいて部屋を出る

大尉は報告するために司令官室へ向かった。


後でわかったことだが、デイビッドの暗殺は計画されていたようだ。

日本での任務失敗かつ従順な人物ではないこと。

国としてはサラさえいれば大丈夫と判断したようだ。

日本には強力な魔法使いがいる。

敵対しているわけではない。

アメリカの犬の役割は果たしてくれるだろう。

前面に日本を立たせればいい。

・・・

いろいろな思惑を重ね合わせての判断だったようだ。

ただ、デイビッドは無傷で海洋上に着地していたようだが、誰も知るものはいない。


<テツ>


クソウ大臣とドイツに到着していた。

空港のエプロンまで黒塗りの頑丈そうな車が2台迎えに来ていた。

俺はクソウの後、タラップを降りていく。

下ではガタイの良い男たち5人が、車へと俺たちを見守りながら案内してくれる。

男たちは何も言わない。

車の傍できれいな女性がクソウを出迎えていた。

「ようこそクソウ閣下。 メリケン首相がお待ちです」

女性はクソウを車に案内すると俺の方を見る。

微笑みながら、何か俺を鑑定している感じがした。

「あなたが帰還者と呼ばれる能力者ですね。 どうぞ」

女性がもう1台の車のドアを開けてくれた。

クソウとは違う車に乗せられるようだ。

俺は妙に緊張はしなかった。

あまりに物事が大きすぎるのかもしれない。

緊張できるポイントがわからないのだろう。

車に乗り込むと、女性も一緒に乗り込んでくる。

車の中は向かい合って座れるようになっていた。

俺の斜め前に女性が座る。

相変わらず微笑みを絶やすことはない。

そして、嫌な感じはしない。


「テツ様・・でしたね。 私はアンナといいます。 よろしくお願いしますね」

「あ、えぇ、よろしくお願いします」

「テツ様、実は私も帰還者なのですよ」

その一言で十分だった。

俺は警戒を強める。

アンナは微笑みながら俺を見ている。

もしかして鑑定スキルでも持っているのか?

「ア、アンナさん・・テツ様ではなく、テツでいいです」

「そう、じゃあテツって呼ぶわね」

アンナがラフな口調で話してくる。

いきなり変わったな、この女。

美人なんだがな。


「テツ、聞きたいことがあるの。 向こうの世界ではどの国いたの?」

アンナが真剣な顔で聞いてくる。

「アンナはどこでいたのです?」

アンナがニヤッとして答える。

「フフ・・いきなり私が質問するのは失礼だったわね。 私はブレイザブリクよ。 とある街で戦っていたら急にこの世界に戻って来ていたのよ」

「そ、そうですか。 俺はその国から出た人間ですからね」

俺の言葉にアンナの目が大きく見開かれた。

「あ~!! 思い出したわ。 そういえば召喚した勇者が脱走したって聞いたことがある。 それがあなただったのね」

「だ、脱走?」

俺はアンナの言葉を聞いて考えていた。

俺たちは魔族領域に放り込まれたんだ。

その後は魔族に保護されたのだが、まさか脱走扱いになっているとは。

まぁ、その国もなくなってしまったからどうでもいいか。


「そうよ。 何でもかなりの傲慢な勇者で、いくら丁寧に接しても増長するばかりで手を焼いていたとか。 脱走してくれて国としては助かったと言っていたような気がするけど・・そんなに傲慢には見えないわね」

アンナが俺を見て言う。

俺は呆れた。

「アンナさん、俺たち魔族領域に放り込まれたのですよ」

!!

アンナの顔が明らかに驚いていた。

「ま、魔族って・・よく生きていたわね、テツ」

「えぇ、実は魔族はとても気のいい連中でした」

アンナが言うには、魔族はとても凶悪で人をおもちゃのように扱うと聞かされていたそうだ。

魔族1人にブレイザブリクの軍でも勝てるかどうかわからない。

魔族の指揮官に接触したものはいない。

・・・

とにかく大げさに話が盛られていた。

魔族とは悪魔か鬼のようなイメージを持っていたようだ。


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