第50話 デイビッドのアラスカ行き



<ドイツ>


きれいに磨かれた窓の外を見ながら立っている人物がいる。

部屋は清潔でそれほど広くはない。

書棚が少しあり、やや大きな個人用の木の机があった。

コンコン。

部屋をノックする音が聞こえる。

「どうぞ」

窓の外を見ていた人物が言葉を出す。

「失礼します」

若い男が入ってきた。

「どうでしたか?」

「はいメリケン首相、クソウ氏が日本の帰還者と一緒にこちらに向かったとのことです」

「ご苦労様でした。 後、アンナ(♀)とクラウス(♂)に来てもらってください」

若い男は報告だけをするとドアを閉めて下がる。


「さて・・日本はこれからどう動くのでしょうね」

メリケン首相はつぶやきながら席につく。

メリケンの首相官邸の一室を改造し、応接室に作り替えていた。

異世界帰りのアンナとクラウスがその部屋でくつろいでいる。

「ねぇクラウス、日本の転移者ってどんな感じなんだろうね」

クラウスは飲んでいるコーヒーをテーブルに置く。

席から立ち上がり、ゆっくりと窓際へ歩いて行った。

「アンナ、気になるのか?」

「そりゃ、ね。 向こうの世界で日本人がいたという話は聞かなかったわよ。 あ、いや、聞いたわ。 私たちとは違う勇者召喚の時ね。 いったいどんな能力を持っているのかしら」

「気にしても始まらない。 会ってみればわかることだ。 ただ、政治家に従って行動しているということは、常識は備えているようだ。 いきなり戦争になるようなことはないだろう」

「そうよねぇ、バカじゃないってことね。 でも、もし暴れたりしたら、私が倒すわ」

「フフ・・アンナは強いからな」

「私たち勇者って、結局は兵器だったものね。 うんざりだったわ。 それが急に気が付いたら元の場所に戻っていて・・驚いたわ」

「あぁ、全くだ。 だが、今も考えているのだが、どうしていきなり元の世界に帰って来れたのだろう?」

「わからないわ。 でも、メリケン首相はさすがだわ。 私たちの存在に少し驚いただけですぐに受け入れてしまうなんてね」

「うむ。 しかも俺たちの能力をフルに使っている。 何ともコメントのしようがないお方だ」

「えぇ全く・・でも、人に害を為すようなことはしていないわね。 お隣のロシアなんかとは違うみたい」

「あの国は不明なことが多い。 我々の国とは考えが違う。 危害がない限り情報を得つつ付き合っていかなければな」

アンナとクラウスが話しているとドアをノックする音が聞こえた。

コンコン。

「どうぞ」

アンナの声にドアを開けて入って来る人がいる。

「メリケン首相がお呼びです」

係の声にアンナとクラウスは部屋を後にした。


<デイビッド>


サラは軍用機でハワイに向かったようだ。

俺も間もなくアラスカへ向けて出発する。

俺1人のために軍が動くなんて、偉くなったものだ。

デイビッドはそんなことを考えながら航空機に乗り込む。

15名ほど搭乗できる座席が並んでいる。

デイビッドだけのようだ。

座席に座りシートベルトを締める。

アナウンスが流れた。

「デイビッド、間もなく出発する。 安全のために用がなければシートベルトは締めたままにしておいてくれ。 少しの間だがよろしく」

デイビッドはアナウンスを聞きながら少し椅子を倒した。


サラは太平洋上空だろうか。

俺はアラスカでのんびり暮らすよ。

もし何か助けが必要な時はいつでも駆けつけるぜ、サラ。

デイビッドの身体に軽くGがかかる。

離陸のようだ。

・・・

離陸して30分くらいした頃だろうか。

先程からずっと水平飛行している。

デイビッドはフト窓を見た。

雲ばかりだがたまに空が見える。

見ていると違和感を感じた。

なんで海ばかりなんだ?

ワシントンから出発したはずだ。

陸路ばかりのはずだ?

何で海の上なんだ?

デイビッドは急いでシートベルトを外そうとする。

ガチャ、ガチャ・・。

こ、こいつ、外れないじゃないか。

仕方がないので引きちぎると、デイビッドはコクピットへと向かう。

扉が頑丈に閉じられているが、デイビッドには意味をなさない。

グッと扉をこじ開けて中へ入る。

!!

「な・・誰もいない。 自動操縦なのか・・」

デイビッドはコクピットでつぶやいていた。

直後、航空機が大爆発を起こす。

ドッゴォォーーーン!!

航空機は離陸してから、洋上をゆっくりと旋回しているだけだった。

アメリカの領海内、海軍や空軍などの訓練エリアをずっと飛行していた。

コクピットが強制的に開かれるか、時間が来れば爆発する仕掛けになっていたようだ。


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