第22話 次元が違う



!!

デイビッドとサラがビクッとする。

突然、背中に触れられる感覚がある。

「振り向くな! お前たちか、俺の結界を壊そうとしたのは?」

俺は超加速で移動し、デイビッドたちの背後に回っていた。

デイビッドたちは無言で立ったままだ。

・・・

「言葉はわかるな、言語変換されているはずだ。 周りの時間はほぼ動いていない。 俺のスキルだ。 動けば殺す」

俺は取りあえずそう言ってみた。


俺の超加速のスキルだが、俺が触れていると同じ時間を共有することができる。

デイビッドたちは俺と同じ時間の流れの中だ。


デイビッドたちは即座に理解したようだ。

自分達とは次元が全く違うことを。

サラと一緒にゆっくりと両腕を上げている。

「わ、わかったよ。 で、あんたは魔法使いなのか?」

デイビッドが聞いてくる。

「余計なことはいい、俺の質問に答えろ。 何故、俺の結界を壊そうとした。 この結界は人には無害だ」

俺の言葉を聞き、女が答える。

「私達は、この結界があるおかげで人工ウイルスの制作ができないのよ。 人のためになるウイルス作成に邪魔なのよ」

「・・自分たちの国ですればいいだろう。 この国に干渉するな」

「あ、あんた、転移した世界からの帰還者だろ? 俺たちと手を組まないか?」

デイビッドが言葉をかけてきた。

俺はその言葉を聞いた瞬間に二人から手を離す。

二人の時間は元の時間に戻る。

俺は二人から離れロビーの椅子に座り、集中を解く。

二人が見える位置で観察をしていた。

デイビッドとサラが両手を上げて突っ立っている。

SPが不思議そうな顔を向けて、デイビッドたちに近寄って行くのが見えた。


<デイビッドたち>


SPがデイビッドに近寄って来る。

「ミスター、どうしたんだ両手なんて上げて・・銃でも突きつけられたのか?」

フッと鼻で笑うような感じだ。

「い、いや・・少し肩が凝ったような気がしたんだ。 この国に来ると、外国人はみんな肩が凝るっていうじゃないか」

デイビッドが引きつった笑いを浮かべながら言う。

サラは真剣な顔をしたまま両手を下ろす。

「ミスター、タクシーに乗って横田基地まで移動となる、行こう」

SPの言葉にデイビッドたちはうなずく。

少し辺りを見渡して、空港の出入り口からタクシーに乗り込んだ。


俺はその行動を椅子に座りながら確認していた。

あの二人は把握した。

俺の結界内ならば、どこにいてもわかる。

後は周りの連中だな。

間違いなくSPだろう。

だが、いったい何のために日本に来たのだろう。

あの女は人工ウイルスの制作などと言っていた。

何をする気なんだ?

俺はデイビッドたちが出発するのを確認して、空港を後にする。

帰りはモノレールと電車だ。



デイビッドたちを乗せたタクシーは横田基地に到着していた。

ゲート入り口で降り、中にはマイクロバスが待機している。

SPと基地の隊員に誘導されて、マイクロバスに乗り込む。

基地内を移動して、司令官室のある建物へと到着。

基地司令官に報告をしなければならない。

デイビッドとサラは司令官室へと案内され、司令官の前で立っていた。

司令官は席を立ち、デイビッドたちの前に来て笑顔で迎えてくれる。

「ご苦労だったね。 で、どうかね本国からの指令は?」

司令官の顔を見ながらデイビッドは報告する。

「はい、任務は失敗に終わりました。 とても我々の力では対応できません」


司令官はその報告を聞くと、ニコニコしていた顔が真剣な顔になる。

「ふむ・・失敗か。 ご苦労だったな、下がってよろしい」

落ち着いた言葉で話すと、デイビッドたちを下がらせた。

司令官は椅子に座り、副官の方を向く。

副官が近寄って来る。

「どう思うかね?」

司令官はそれだけを言う。

「はい、魔法結界というものは元々あるのかどうかもわからないものでした。 我々にできることをするしかないと思います」

副官は答える。

司令官はその回答に満足したのか、またニコニコしながらうなずく。

「その通りだ。 本国の連中はわかっていないのだ。 魔法などというものはマジックかイリュージョンの類のものだろう。 我々も実際に見たことはないが、映像をそのまま信じればまるでSF映画だよ。 バカらしい。 あの本国からの連中は、軍の定期便で帰してやれ」

司令官は副官に指示を出す。

副官は敬礼をすると部屋を出て行った。


全く・・現場を知らんから、つまらん奇術師などにだまされるのだ。 

とにかく我々はしっかりと地面を踏みつけて歩くしかない。

さて、日本の諜報機関にも連絡を入れてみるか。

何かわかるだろう。

司令官は椅子に座ると電話をかけていた。



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