第19話 デイビッドの魔法
俺は両手を机について、しばらくそのままの体勢でいた。
近くの同僚が声をかけてくれる。
「佐藤さん、大丈夫ですか? 少し顔色が悪いようですが・・」
俺はその人の方を見て軽く微笑む。
「えぇ、ありがとうございます。 少しめまいがするので、早退させていただきますね。 課長のおごりが食べられなくて残念です」
俺はそう告げると、ササッと帰り支度をして退社する。
そのまま、魔法が干渉された場所方向へと向かった。
◇◇
<羽田空港>
国際線ロビーでアメリカから到着した人たちが荷物を受け取っていた。
その中にクリストファーと同じところに転移させられた勇者がいる。
デイビッド:レベル29,サラ:レベル28。
デイビットとサラが並んで荷物を受け取っている。
その周辺にはSPだろうか。
ガタイのいい男たちが数人、距離を置いてデイビッドたちを護衛していた。
「ったく、俺たちに護衛なんて要らないんだよ。 むしろ邪魔なんだがね」
デイビッドがつぶやく。
「まぁそう言わずに。 せっかく大統領がつけてくれたのだから。 弾避けくらいにはなるでしょ」
「ヘッ! この日本で銃弾なんて飛んで来ねえよ。 それに俺たちに銃弾なんて役に立たないぜ。 さてと、早速この結界魔法を壊してみるかな」
「え? デイビッドここでやるの? でも、本当に結界を壊さなければいけないのかしら」
サラが少し驚いた顔をする。
「さぁな。 だが、トップからの依頼なんだ。 所詮島国のことなんざ、知ったことじゃねぇぜ。 魔法を発動したところで、どうせ誰もわかるはずもないんだからな」
デイビッドは片手を床につけて何やらつぶやいていた。
サラは不審そうな顔をしてデイビッドを見ている。
大統領からの依頼。
日本に結界らしきものが張り巡らされているという。
それを破壊してもらいたいというものだった。
理由は新型コロナウイルスが結界のせいで活動できないという。
良いことではないか。
だが、単純にそれだけではない。
他のウイルスなどにも影響するかもしれない。
そうなれば、今研究している、人のためになるウイルスの研究効果が得られないという。
新型コロナウイルスもワクチンと結びつくと、人の免疫システムが強化されると教えられていた。
サラは完全には信用できそうもなかったが、疑うこともできなかった。
ただ、デイビッドは事実を知っていた。
サラはデイビッドを見ながらそんなことを思っていた。
すると直後、デイビッドの上着がバサッと風でなびくように揺れる。
!
サラには見えていた。
デイビッドの身体から黄色いオーラのようなものが一気に広がって行く。
デイビッドは無言で立ち上がり、サングラスを右手中指で軽く整える。
ゆっくりと歩いて荷物を受け取る場所から移動。
ロビーに出てきてまた同じ動作を繰り返す。
サラは何も言わずにデイビッドを見ていた。
デイビッドがゆっくりと立ち上がり、サラの方を向く。
「デイビッド、念入りな事ね。 2回もアンチ魔法を放つなんて。 大魔法使いのあなたにかかったら簡単な仕事でしょ?」
サラはデイビッドの作業の失敗など疑ってもいない。
「・・・」
デイビッドは無言でロビー越しに空を見上げる。
「どうしたの? 何か不具合でもあった?」
サラが首を傾げてデイビッドを見る。
「俺の魔法が弾かれたんだ」
!!
「まさか・・」
「間違いない。 俺の魔法が広がって行くのは見えただろ? だがある程度広がって行くと弾けるように消えるんだ。 ちょうどシャボン玉が壊れるような感じだな」
デイビッドの顔に汗が流れていた。
「デイビッド、あなたのレベルは29のはずでしょ? そんなことってある? 向こうでもあなたに匹敵する魔法使いなんていなかったわ」
サラも驚いているようだ。
「あぁ、わかっている。 だが、間違いなく俺の魔法が弾かれた・・というより、無効化されたと言った方がいいのかな?」
「そんな・・じゃぁ、この国には私たちよりも高位の魔法使いがいるっていうの?」
「わからない。 ただ、もしこれが一人の為せる魔法だとしたら、俺たちでは話にならない」
「そ、そうね。 一人なら・・ね。 でも、最悪そういうことも頭に入れておかなきゃいけないわね」
サラが少し不安そうな顔でつぶやく。
「サラ、まぁそう心配するな。 俺も一人でこんな大魔法を行えるなんて思っていないさ。 だが、簡単にはいかなくなったことは確かだな」
デイビッドとサラはうなずくと、軽く手を挙げる。
SPの一人が近寄ってきた。
デイビッドは今の状況を伝える。
◇
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