第15話 陰謀



<日本の国際空港>


普通の旅行客のような姿とビジネスマンの姿をした5人くらいの集団がロビーを歩いている。

バッキンダック主席から派遣された工作員だ。

それぞれ形は違うがバッグを持っている。

中にはウイルスが入った小さなガスボンベが入っている。

工作員たちは軽く目配めくばせをすると、それぞれが違う方向へ歩いて行く。

空港を担当の工作員だろう。

バッグから何かを取り出す振りをしながら、中のガスボンベの口を緩めた。

かすかに空気の漏れる音がする。

シュー・・・。

これで5時間くらいは空気が流れ続けるだろう。

その空気の中に大量のウイルスが存在しているが。


以前もこうやって日本を縦断した。

公共機関や主要交通ハブを重点的に回った。

今回も同じ仕事だ。

この国のセキュリティはないも同然だ。

人も疑うことを知らない。

そして、困っている人には丁寧な対応をする。

溺れている犬が狂犬でも助けるような国民性だ。

本来なら石を投げて倒すべきなのに、それをしない。

お土産施設などを見学するフリをしながら移動している。

そして、誰も疑うことすらしない。

なんと平和ボケした国民なのだろうか。

工作員はフッと鼻で笑いながら空港ロビーを動き回っていた。


空港で分かれた他の工作員も同じように、公共機関を起点に人の集まる場所を回って行く。

新幹線や都市部の電車の駅、地下鉄や百貨店などなど。

日本を縦断して北海道と沖縄で自国行の輸送機で帰る予定だ。

作業に必要な時間は6時間ほどだろう。

簡単な仕事だ。

ただ、テツの張り巡らした神聖術魔法のおかげで、ウイルスは排出された直後から無害化していたのだが、それを知ることはない。


◇◇


<テツの部屋>


俺は昼食を食べていた。

ニュースでは全国のどの地方でも、新型コロナウイルスの感染者がいなくなったと報道されていた。

インタビューでも「奇跡が起きた」の連続だ。

ただ、誰かが魔法でも使ったんじゃないかという人がいた。

俺は一瞬ドキッとしたが、インタビュアーはうんうんとうなずいて聞き流していた。

それが事実なのだが、現代社会では魔法は存在しないものとして扱われている。

そして誰も気にも留めないだろう。


俺はサンドイッチをかじりながらテレビを見ている。

「なるほど・・神聖術魔法は有効だったわけだ。 これで日本だけでも日常は戻るだろうし、外からウイルスが入ってくる心配もない」

やはり俺は妙に心がうれしくなる。

完全な自己満足だが、何かいいことをした気分だ。

俺は素直にそう思う。

・・・

いいことだよな?

少し疑問が浮かぶが、まぁいい。


◇◇


<政治家たちが集まっている会館>


どの政治家たちも忙しそうにウロウロしていた。

だが、言葉が弾んでいる感じだ。

「・・先生、あなたの支援者のところでも新型コロナが消えたのですか?」

「あぁ、君は・・そうなんだよ。 君のところでもそうかね?」

「・・おい、離島はどうなんだ?」

「・・どの街に確認しても新しい感染者は報告されていません」

・・・・

・・

みんな何が起こったのかわからないが、とにかく新型コロナウイルスが消失したという話題で溢れていた。

ただ、数人の政治家を除いてはだが。



<分厚い扉の部屋の中>


壁には防音装置が備え付けられており、核戦争になった時などのシェルターの役目も果たす施設の中に数人の政治家がいた。


「スカさん、本当に新型コロナウイルスが消えてしまったのかね?」

自分の身体が全部沈んでしまいそうな椅子に座り、肩ひじをついて顎を上げ面倒臭そうに話す男がいる。

「クソウさん、事実のようです」

クソウと呼ばれる人は目を閉じてうなずく。

「それは想定外ですな。 ニッカさんはどうですか?」

「うむ。 バッキンダック主席も心配されてたよ。 計画が台無しだと」

ニッカは難しそうな顔で答える。

「逆にいいんじゃないですか? これを機会に我々だけで動けますよ」

クソウの言葉にニッカがジロッと睨む。

「クソウさん、言葉に注意した方がいいでしょう」

「ダッハハハ・・これは言い過ぎましたな。 でも、これでワクチンの必要がなくなった。 アメリカには大きなお金を支払ったんだ。 何かお土産をもらわないと」

クソウが笑いながら言う。

「お金、お金・・あなたはいつもお金だ」

ニッカが苦虫を潰したような顔をする。


「ニッカさん、すでにバッキンダック主席とは話ができております。 再度ウイルスを拡散し、計画に変更はないとのことです」

スカがうなずきながら言う。

「ふむ・・まぁ、試練ですな」

ニッカが目を閉じ、椅子に深く座り直した。


◇◇


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