第8話 全然チートじゃないぞ



鑑識の判定では現場に燃えた形跡は全くない。

それは間違いない。

ただ普通の水道水だけがあった。

証拠品からわかることは、水遊びをしたんじゃないかと思えるだけだ。

だが、現場にいた人たちに聞くと確かに人が燃えていたという。

それも黒い炎で燃えていたらしい。

杉田を含め、警察関係者はわからないことだらけだった。

だが、状況証拠から何かの答えを出さなければいけない。



<テツの部屋>


朝食も終わり、俺は部屋でくつろいでいる。

今日はと言うか、職場は週に1度だけ行けばいい。

後はリモート出勤、つまりPC画面で事が済む。

ビジネスホテルはwifi環境は整っている。

問題ない。

9時頃につなげればいい。


さて、どうするか。

というのは、俺はそれほどのタイムラグもなく異世界から帰還した。

この現実世界をどう生きるかということだ。

真剣に考えなければいけない。

昨日のようにあんなクズを消しても、また次のクズが現れるだろう。

そんなものを消していっていると、結局は世界に人がいなくなるかもしれない。

カオスだよな。

だからといって、人のモラルに明らかに外れている奴は許すことができない。

今までは、そう思いながらも実行できるだけの力がなかった。

だが、今は力があるどころではない。

この力って、そんなことに使うものなのかと思えるが、案外小さなことを解決するのがいいのかもしれない。

必殺〇事人みたいな感じだな。

でも、スカッとするよな。

・・・

・・

テツは両腕で自分の肩を抱き震えていた。


ダメだ。

冷静になってくればくるほど、ダメなことがわかる。

俺は言葉を失うくらいの喪失感を感じ始めていた。

よくラノベ・漫画で異世界転生や異世界帰りなどを体現できれば最高だと思っていた。

だが、実際なってみると恐ろしい。

完全にダメなことがわかる。

詰んでいる。

まず、俺が魔法などを変に使おうものなら、世界中が敵になる。

また、俺自身がモルモットになる。

そりゃ対立すれば、俺が完全に勝つだろう。

だが、誰も俺と話してくれなくなるに違いない。

・・・

おいおい、チートって天国じゃなかったのか。

これじゃ、地獄の始まりじゃないか。

向こうの世界に残っていた方が良かったぞ。


人の生活を考えればわかる。

衣食住は必須。

俺の存在は、それをすべて脅かす存在だ。

そして普通の人が俺を倒すことは不可能。

暗殺も無理だろう。

俺は寝るとき無意識に身体を防御魔法でまとう。

それが当たり前だったからだ。

また、纏わずともミサイルですらかすり傷一つつかないと思う。

俺を倒すには極大複合魔法攻撃か神話級の武器が必要だ。

そんな俺でも人間だ。

お腹も空けば、寝る場所もいる。

そんな日常を維持するにはどうするのか。

簡単だ。

普通の人間のレベルに合わせて、普通に生きるしかない。


俺は両手を顔の前で合わせて額を寄せ、椅子に座って考えていた。

顔を前に向けて鏡を見る。

・・・

なんて顔をしてるんだ。

テツ、お前は英雄なんだぞ。

しかも神を助けた英雄だ。

だが、なんだこれは。

全然チート人生じゃない。

むしろ、何してんだよ。

クズどもを始末したって、どこかで俺の足がつく。

昨日はたまたま帰ってきたばかりで気分が高揚していた。

だが、改めて冷静に考えると・・無理だ。

気に入らないから魔法でボンなんてできないぞ。

・・・・

・・

俺はしばらく考えていたが、答えが出ない。

すると、俺の携帯が鳴っていた。

プルルル・・・。


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