ぼくたちはセカイの中心
深見萩緒
隔離
母さんは泣いていた。僕はどうしても理解が出来なくて、母さんとスーツ姿の男たちとを交互に見て、力なく頭を振るばかりだった。
それから彼らが、僕に起こったことを懇切丁寧に説明してくれたけれど、異国の言葉で話しかけられているような気がして、気持ちが悪くなってしまった。それでもなんとか飲み込めた現実は、比較的シンプルだった。
僕はもう、母さんと一緒には暮らせない。
いつまで? スーツ姿の男たちに尋ねると、彼らは心底申し訳無さそうに「分かりません」と言った。
「分かりませんが、恐らく政府は大事を取るでしょうから……あるいは、一生……」
母さんがわっと声を上げて泣き出した。父さんが事故で死んでから、女手ひとつで僕を育ててくれた。それなのに、その最愛の息子すら永遠に取り上げられてしまうなんて、悲しいなんてもんじゃないだろう。僕はどこか他人事のように、そんなことを考える。可哀想な母さん……。
もちろん僕も悲しかったけれど、それ以上に、母さんを元気付けたいという気持ちの方が強かった。僕は泣き崩れている母さんの肩を抱き、優しく呼びかける。
会えないのは寂しいけど、僕は大丈夫だよ。電話するよ。母さん、パソコン使えるようになっててよね。パソコンを使って通話すれば、顔だって見られるんだから。大丈夫だって。死ぬわけじゃないんだから。母さん、泣かないでよ……。
母さんは声もなく何度も頷いて、それから僕を強く抱きしめた。中学も三年生になって反抗期を燻ぶらせていた僕だったけれど、この時ばかりはおとなしく抱きしめられた。
「じゃあ、……またね、母さん」
さよならとは言わなかった。何か喋ろうとした母さんの唇からは、言葉の代わりに嗚咽が流れ出た。それは「愛してる」と言ったように聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます