第8話 殿下の執務室2(従者視点)


 クレス殿下の従者をしています、スペリア・カートンです。

 今日の殿下はどうやら、アンニュイなようです。

 いつもなら帰ってくるなり、エイミーがエイミーが!と沢山エイミー様の話をされるのに、今日は机に肘をついて何かを考えいるようで不気味なんですけど?


「なぁ、スペリア」

「はい、なんでしょうか?」

「何故エイミーは僕と出会った日のことを覚えていないのだろうか!!!」


 いや、しらんがな!!?

 先程まで静かだったのに、いきなり大声を上げないで欲しいものです。


「まず、この話をするためには僕がエイミーに初めて会った日の話をしないといけないな!」

「いや、聞きたいなんて全く言ってないんですけど!!?それにその話、もう何度も聞いたことあるんですけど?」

「あれは、俺がまだ10歳の頃……」


 ああ、勝手に始めないで下さい!!

 こうなったら殿下を止める事はできませんから、話を聞くしかありませんね……。



「そう、あれは俺が10歳の日の誕生日パーティーのこと」

「確かあの日は同年代のご子息、ご息女が集まったのでしたね」

「そう、その中にエイミーは…………いなかった」


 いなかったんかーい!!

 って、知ってるのにつっこんでしまいました。


「しかしその日はガーデンパーティーだったため、庭園が開放されていたのだが、僕は令嬢に囲まれるのが嫌でそこに避難していたのだ」

「まだその頃は、殿下に婚約者が居ませんでしたから仕方がありませんね」

「そして俺は庭園にある大きな木の下で、寝ているエイミーに出会った」


 いやいや、何度聞いてもおかしい!!

 エイミー様、何故そんなところでお昼寝を??

 一応そこは王宮の庭園ですよ!今の俺が言ったところで仕方がないですね、はい。


「そのときの俺は寝ているエイミーを見て思った」

「まあ、寝顔は可愛いですよね……」

「このままでは風邪を引いてしまう!!と……」

「凄くまとも!!!前は可愛いって言ってませんでした??」

「可愛いかったのは間違いないが、それよりも風邪を引きそうだと思ったのだ!」


 まあ、過去の思い出なんて曖昧ですから、毎回変わってても仕方がありませんけど……。


「そして僕は、風邪を引いたらいけないと思ってエイミーを優しくゆさぶって起こそうとしたのだ」

「その前に見つかるとヤバいから起こさないといけないのは、間違いないですけど……」

「そして、目覚めたエイミーは言ったのだ!『ようやく来てくれたのね、私の王子様』と!!」


 凄く可愛らしいシーンなのに、殿下の声真似で頭に入ってこないんですけど!?


「そして、エイミーはそのまま僕の唇に……チューを……ふふふ……」

「殿下!!戻ってきてください!記憶の海に溶けていってますよ!!!」

「おっと、危なかった。有る事、無い事捏造するところだった!」

「無い事は言うなよ!!!!」


 エイミー様のためにそれだけはダメです。


「でも、あのとき間違いなくエイミーは僕にキスをしてくれたのだ。そしてそのとき見せたくれた笑顔で、僕は彼女に一目惚れをしてしまったのだ」

「子供の頃ならあり得る話ですね。でもどうしてその後もエイミー様を?」


 そう言えばこれは聞い事がなかったですね。

 いつもよくわからない妄想に巻き込まれて、聞く暇がなかったんだと思います。


「実はあれから、エイミーが誰なのかを探すまでに時間がかかってしまってな……」

「ああ、成る程。その間に婚約者が決まってしまったのですね」

「まあ、エイミーを探し出せていたとしても、その婚約は避けられなかったがな….」


 それは勢力争いが関わってくるところだから、仕方が無いのかもしれませんね……。


「だがしかし!僕はついに見つけ出したのだ、エイミーを!!その日からというものエイミーの事を調べ尽くし、時には自分でストーキングして情報を得た」

「いやいや、ストーカーはだめです!!って、自分でやってるのかよ!!?」

「そして僕は気がついたのだ、エイミーは天使だと!!そして本当の恋に落ちてしまった……」


 なんかいい話風に聞こえるけど、ストーカーした結果だと思うと全然いい話に思えない!!


「殿下、エイミー様を好きになった経緯は、何となく理解しましたが、一つ言わせて下さい!」

「いい話だっただろ?」

「確かにそうかもしれませんが!ストーカーはダメです!!!」

「さっきも言っていたが、何が悪いんだ?」


 行為そのものだよ!!!?

 まあ、殿下からしたら誰かを見張るなんていう指示は良くするのだろうし……おかしいと思わないのかもしれない。

 でもストーカーはだめ!絶対!!!


「その行為は相手に嫌われる可能性があるので、今後はやめましょうね」

「な、なに!!?エイミーに嫌われる!!それは、いけない今からやめよう」

「今から?」

「今日も、学校にいる間はだいたいしていた」


 って、今日もやってたのかよ!?

 エイミー様もこんな殿下を嫌いにならずにいてくれて、本当によかった……。


「でも、もうやめる。エイミーが嫌がる事はしたくない」


 多分、殿下の存在が一番嫌がられてますよ?

 なんて俺の口からは言えない!!!


「それにしても、何故エイミーは昔のことを覚えていないのだろうか……?」


 多分それ、寝ぼけてただけだと思いますよ?

 そう言って差し上げたかったのですが、少し落ち込む殿下を見ているとハッキリ言っていいものなのか悩んでしまいました。



 こうして、悩む殿下のせいで今日の書類が全然進みませんでした。

 それなのに、俺も残るからお前も一緒に残れ!と、残業を押し付けてくる殿下に、俺はまた胃をいためるのでした。


 こんなことなら、素直に言えばよかったかもしれません。とほほ……。

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