5歳児になった転生魔王は、世界征服できるのか?! ~魔王は幼稚園児に転生し、美人退魔士姉妹の家に転がり込んだ~
@kirin2021
プロローグ 始まりの物語
プロローグ1 魔王、倒される
「貴方の悪行もここまでです! これ以上の非道は、神が許しません!」
「人間様をナメんじゃないよっ。覚悟しな」
「へへ……。とうとう、終わりの時だ……。ずっとこの時を願って、俺たちは旅をしてきたんだ」
勇者の一行である3人の仲間たち。
白い法衣を纏った麗しの美女、大賢人レオーネ。
黒い魔術師の衣装に、黒いとんがり帽子が特徴的な、大魔法使いキルケ。
そして。
傷ついてはいるが、鍛え上げられた筋肉が隆々と盛り上がっている、人間界最強の格闘士テセウス。
3人とも、冒険の始まりのときには小物に過ぎなかった。それが今では、魔王軍の【冥府の十二使徒】をも凌駕するほどまでに、成長してしまった。
「(完全に、コイツらを舐めていた)」
地べたに伏し。
冷たい岩肌に両手をついて。
魔王ハデスは―――――全身から流れ出る緑色の自らの血が、岩の床の上に広がっているのを眺めていた。
巨大な大羊のような角が生えた頭の中には、これまでの思い出が蘇ってくる。
日に日に力をつけて成長し、この魔王城に迫ってくる勇者一行に対して……どのような対策をすると良いのかを、幹部たちを集めて協議した日々。
「(たかが人間風情が、ここまでやるとは……。……【冥府の十二使徒】は、間違いなく精鋭たちを集めた集団だった。それなのに。たった4人……ここにいる、たった4人の人間などに……敗北してしまうとは)」
悔しそうに、赤紫色の唇から突き出た牙を、ギリギリと鳴らす。
その真白な肌の首に。
聖なる闘気をまとった、世界最強の勇者の剣―――――名をマルミなんとかと言うやつを、魔王の首にピタリと当てて。
首を斬り、命を絶とうと。
勇者アランが這いつくばっている魔王の前に立っていた。
「終わりだ、魔王」
「……ここで終わりだと思うなよ……勇者アラン。ここで我が朽ちたとしても……必ずや、必ずや、第2、第3の魔王が生まれ……。……この豊穣の地・ルカディアを狙って……貴様たち、愚かな人間どもを支配しようとする者が現れる……。逃れる術はない……」
「ああ、そう言うだろうと思っていたさ……魔王ハデス。だが――――ハッキリしていることは、1つ」
勇者アランが、聖剣「マルミなんとか」を大きく構えた。
「俺たちは……ここで、お前を……討つ! 世界に平和をもたらすんだ!」
この構えは、ヤツの最大奥義「ギガブレイブ・スラッシュ」。
戦いに巻き込まれないように少し上空を飛んでいた魔鳥「カイム」の言葉が、それを裏付ける。
【プロビデンスの目】を持つものたちには、勇者のステータスや行動の様子がハッキリとわかる。
魔鳥「カイム」はそれを補うような実況をしてくれるので、長年相棒として左肩に乗せてきた。
そのカイムとも、きっと別れの時が近いのだろう。
魔鳥カイムが、魔王と勇者の周りを羽ばたきながら……声を荒げて、戦況の報告をする。
『勇者アランが、スキル【渾身の一撃 LV50】を発動』
『勇者アランが、スキル【金剛の構え LV50】を発動』
『勇者アランが、スキル【ギガブレイブ・スラッシュ LV50】の構え』
そして背後からは、凛とした姿の大賢人レオーネが、補助魔法をかけ続ける。
『大賢人レオーネが、スキル【聖人たちの怒り LV50】を発動』
➝勇者アランの攻撃力が500%に上昇。
➝勇者アランの素早さが750%に上昇。
➝勇者アランの追加武器ダメージが350%に上昇』
これほどまでに威力の高まった「ギガブレイブ・スラッシュ」は見たことがない。
この魔王にとどめを刺すために。
最後の一撃で、確実に魔王を葬るために。
勇者一行は、その力を……魔力を。
そして、なんとしても魔王を討伐するのだという強い意志を、ここまで貫き通してきたのだ。
魔王城の中に用意した、無数の罠も魔王軍の兵士たちも、すべて蹴散らされた。
念入りに計画した、勇者の奇襲への対抗策も、すべて破られてしまった。
「……見事なり……勇者アラン。―――――完敗だ……」
「ああ、そうだな。……この一撃で、消え去るがいい……魔王ハデス!」
流血が収まらないのは、離れたところから大魔法使いキルケが……何かしらの魔術を発動しているから。
力の入らない腕を、プルプルと震わせながら、魔王ハデスは頭上で剣を構えている勇者アランを――――静かに、見上げる。
その瞬間に。
大きく振り上げた勇者の聖剣が、眩いばかりの光を放った。
『勇者アランが、スキル【ギガブレイブ・スラッシュ LV50】を発動!』
真白な閃光と、稲妻のような鋭い一撃が魔王ハデスへと伸びていく。
時が止まったかのような、ゆっくりとした流れの中。
魔王ハデスは、それまで少し上を飛んでいた魔鳥「カイム」が、2mほどもある巨体を勇者と魔王ハデスの間に突っ込ませて、自ら盾となろうと飛び出てきたのが、見えた。
「(カイム! お前……! どうしてっ?!)」
「(……ハデス様……。……長年、お使い申し上げることができて、カイムは幸せでした……。……何もできない、ただのカラスに……ここまで重要なお役目を与えて頂いて……本当にうれしく思います。最後に、最後に、ハデス様のお命を……1秒でも長く―――――留めることができたら……このカイム……本望でございます。……どうか、この窮地が逃れ……生き延びてくださいませ……ハデス様……!!)
◇ ◇ ◇
凄まじい威力の、勇者最大の奥義「ギガブレイブ・スラッシュ」
剣術の師範の教えと、聖なる神々の加護を受けた必殺技は、レベルも50まで上昇してしまっていた。
真っ白な、聖なる属性を帯びた光に包まれた剣は、いとも簡単に魔鳥「カイム」の身体を真っ二つに引き裂いた。
そしてその勢いは、微塵も衰えることなく。
地面に手をついて、迫る勇者の必殺技を見上げるしかない―――――力を使い果たした、魔王ハデスの首へと、伸びてくる。
「(ここまで、か―――――)」
魔王ハデスは、真っ赤なアイシャドウに彩られた睫の長い目を、閉じる。
迫る刃に、敗北と死を覚悟して。
冥府と地底を支配し、地上へ這い上がって人類の支配を目指した――――魔王ハデスは、勇者の剣の前に力尽きる。
ズッシャアアアアアアッ!
痛みは、無かった。
苦痛も、不思議と無かった。
ただ、聖なるオーラをまとった勇者の剣が、禍々しい黒い霧に覆われた魔王の身体を引き裂いていく――――自らの身体が裂かれ、砕けていく感触だけが、ハッキリと自覚できた。
視界が、真っ白に染まり。
体と精神が分離して……ゆっくりと、天に向かって浮き上がっていく感触がしている。
『……くくく……ははは……ッ……』
まさに、昇天しようとしている魔王ハデスの耳に聞こえる、誰のものかわからない含み笑いの、声。
「(……誰だ……?)」
やがて、朧気になっていく……自らの身体の感覚。
どこまでが自分の手で、どこまでが自分の足なのか。
体は?
顔は?
髪は?
……そもそも、オレ様は誰だ……?
こうして、柔らかな温かい光に包まれながら、魔王ハデスは昇天をした。
「(あの笑い声の主は……?)」
そんな疑問も、次の瞬間には忘れてしまう。
何もかも。
自分が魔王であることも、忘れ。
魔王ハデスは――――――――転生をしていく。
◇ ◇ ◇
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