それはまた別のお話墓場からアンデッド化した

石窯パリサク

『ばきばき』と『ごりごり』を混ぜたような感触と音


 なんとなくまどろみの中に浸っていてイイ感じだった。

 突然小さな痛みを感じて目覚めた。

 むさいおっさんに四本揃えた爪先で額をこつこつと突かれていた。

 右ひじを軸にちょっと上体を起こしたら右目に刺さった。


「……もうちっと寝たいから止してくれ。」


 しかし痛くなかったからほぼ冷静にお願いした。


「アンタ、こないだねっちょりさせられてぶった切られて放置されたろ?癒えたみたいで良かったな。」


「おっと、そう言えばぶっ殺され掛けた筈だった。…ふむふむ、もう既にヌトヌトは乾燥して粉っぽくなったし傷も癒えたみたいだな。わざわざヌトヌトから引き上げられて、地面に投げ捨てつつばっさりとやられたんだった。」


 オレはさっと立ち上がり両方の翼をばっさばっさと羽ばたいた、と同時に旨味の高そうな匂いと薄緑色の粉が舞う。


「とどめも刺されずにいてくれてな、有翼族のモブのじゃあ、しゃーなしだったな。」


「あのまま湯が煮立った大鍋に投げ込まれなくてよかったじゃねーか!」


「ああ……、…いいや思い出した。血を流し過ぎてな、もうカンペキに死んだんだわ。死んで塵にでもなるのかと諦めていたんだけどよう、お話回収希望の想念が強すぎたのか、アンデッド化しちまったみたいなのさ。触ってみろ、ああ、この粉は毒物じゃないから大丈夫だし俺自身も全く接触増殖能力とかねーみたいだから。俺自体は触るとひゃっこいぞ。」


「ひゃっこくねーぞ。熱くもぬるくもないけどよ、生きてんじゃね?」


「……おやや?、おおう、お前もアンデッドになってんな!出身種族が違うのに同族感がビッシビシ伝わってきてる。うはは、凄くちぐはぐだ!おんなじ気温の中にいるんだから、熱くも冷たくも無くて当たり前か。」


「そう言えば、俺もぶった切られて死にかけてたモブだったっけな。おーい、嬢ちゃーん、癒えたかー?」


 ずだだだだー「カプっ」


 あっちの方に立っていたちいさな娘っこが凄い勢いで駆けてきてオレの足にかぶりついた!


「噛まれたいてえ!って痛くないな。」


「おっほ、お前さんの声掛けに反応したな!」


「ほほお、だが結構離れた向こうの方で他所向いてなかったか?」


「こいつは、横たわったお前の傍にずっと佇んでいたんだわ。俺が話しかけても一切反応しないままだったんだぜ。でもってお前さんが身じろくと同時にすぽーんっと先程まで佇んでいた所まで一っ跳びして着地したぞ。」


「ものすげえ膂力だな、オレのモモ肉噛み千切られてるてるし。」


「ああ、……やっぱ死んでんだな、血が一滴も流れ出てこねえよ。」


「(もっぎゅもっぎゅ)」


「うまいかー?この粉はな、旨味が多く含まれてる海草を干して硬くなったところで細く裂いたものを水でもどしてじっくり煮詰めた煮汁を干した粉でな、熟練職人さんが丹精っっ!!また食いちぎられた!おいお嬢ちゃん!太腿肉ばっか食っていちゃ駄目だぞー、や靭帯や軟骨も食わなきゃ大きくなれないんだ。」


「???」


「どうやら言葉が通じていないようだな。殺されたときに頭をぶっ潰されて倒れるのを見たわ。」


「そっか、今のアンデッドに変化する際に、脳みそが直らなかったのか、襲われてしまった衝撃で記憶が吹っ飛んだかだな。」


「こりゃあ四六時中このお嬢ちゃんからガブられそうじゃね?」


 こうしてオレはお嬢ちゃんに向けてしゃがみ背中の翼を見せながら、「ここを食ってみな」と翼中ほどにある関節部分をとんとんと指さしてやる。


「(むっふー……がぶっ)」


『ばきばき』と『ごりごり』を混ぜたような感触と音が背中から伝わってきた。


「そっか、ありえるな。オレの肉を飲み込んだらわずかながら肥えて色艶が良くなったように見えたし。・・・・そういやおっさんよ、オレはさっきコツコツされた刺激と言うか痛みで目覚めたんだが、あんたの爪って何かあんの?」


「どうなんだろうな。お嬢ちゃんには触っていねえし、俺も起きて身の回りの物には触っているが何かが異常に壊れたとか、意図しない規模の傷を付けたとかそういう事も無かったからのう。お、お嬢ちゃんの服の背中が膨らみ始めたな。翼でも生えてきてねーか?」


「そか。アンデッドに突き刺さって痛くさせる爪とか、無手でアンデッド業界最強になれそうだな。」


「(???)」


 お嬢ちゃんが何か違和感を感じるのか、もぐもぐしながらも後ろを気にし始めたな。

 おっさんは両手の甲を上に掌を目の前に開いて自身の爪を眺めている。


「……おっと、オレ並の翼が生えてしまうようなら、服が破けるな。目隠しのシーツか毛布でも探すか。この近辺じゃオレの同族が住んでるような話は聞いたことがなくて、有翼族の娘っ子の着衣は期待できそうにないぞ。」


「うむ、材料が見つかって採寸できればオレがこさえてやんよ。こっから2~3日歩いた所にドワーフの街が有るだろ?そこで職人をやっていたのよう。武具全般の制作や調整なんかをなっ!」


「おおう、そりゃあたのもしいぜ。職人か?」


「ああ。」


「じゃあ後は、おっさんよ、此処や他所でも生前でも思い残した事ややりたい事はあるかい?お嬢ちゃんよ、そろそろぱっつんぱっつんになってきた服の背中が千切れて半裸になっちまう前に服か服の材料でも探すとすっか!あと、言葉を取り戻させてやりてえな。」


 お嬢ちゃんに右手を差し出しならおっさんに訊く。


「俺は出来る事出来ない事、やって良い事やっちゃいけねえ事が大体判るまでまったり手伝う事にすんわ。いろいろ思う事は有るが棚上げしとくぜっ!」


「(がぶう!)」


 痛くないからお嬢ちゃんを右手に噛みつかせたままだが、ひとまず近場の集落に向けて三人で歩き出すとすっか。


 ここまで直ぐそこを溶漕ぎっている街道が見えるけれど、人っ子一人通りかからなかった。






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