四ノ二十一 強行脱出作戦

「さあ、皆さん、あんなふてくされ騎煌戦士などほうっておきましょう。では、配置についてください。二列に並んで、そう、私が先頭にたちます。ヒヨリは先行して伏兵の発見と撃破。ユウリンはしんがりをまかせるわ」

「はい、粉骨砕身の労をもってあいつとめます!」

 ユウリンは気炎を吐くように返事をして、手にしていた短刀を鞘から引き抜いた。

「来い、フウマル!」

 声にこたえて、光がはじけ、体長二メートルほどの青緑色をした狼型の慧煌獣があらわれた。そこここに形状の違いはあったが、ちょうどヒヨリのライマルと兄弟機のようにもみえる慧煌獣であった。

 生徒たちが、おおとか、ああとか感嘆してその月光に照らされる美しい狼に目が釘付けになっている。

「へえ、いいものを持っていたのね」

 感心するようにいったアスハの横をすりぬけて、ヒヨリがユウリンにすっと歩みよって、

「なんであなたがフウマルをっ?」

 声をひそませ、しかし怒気を含ませて言った。

「いやなに、知人からゆずりうけましてね」

「よくもぬけぬけとそんなことを口に出せたものね。いつか取り返してやるから」

「どうだろう。フウマルもすっかり僕になついているしね」

「なつくわけがないでしょう、あんたみたいな裏切り者に」

 ののしられても平然とした様子でユウリンは笑みを浮かべ、フウマルの背にまたがった。

「くそっ」

 吐き捨てるように言って、ヒヨリは隊の先頭へむかい、ライマルを呼び出して飛び乗った。

 それを見届けて、アスハもトーマを召喚して、ポニーテールを揺らし羽織のすそをはためかせ、颯爽としたオーラを放ち鞍にまたがる。

 サクミのほうは、いまだ憤然として負のオーラを体じゅうから発して、校舎の前に立った。

 そうして、手にした白い拵えの刀「白月」をささげるように持って、

「いでよ、ヴァイアン!」

 呼び声に答えるように彼女の頭上二十メートルほどのところに白い光がまたたき、そこから白銀の鎧をまとった慧煌兵ヴァイアンが姿をあらわした。

 大地を揺るがしてヴァイアンが着地し、追いかけてきた子狐すがたのマコモがサクミの肩にひょいと乗った。

「ライドオン!」

 光に包まれ、サクミとマコモはヴァイアンのコクピットへと乗り込んだ。


 バン・グンジは、ひとりの少女が校舎の前にたち、慧煌兵を呼び出すのをかなたからみると、

「ほう、やっと出よったぞ」

 興奮したように、どこか楽しげに言って振り向くと、愛機フドウの目から光が放たれ、彼の体はコクピットへと吸い込まれていった。

 黒い円盤状の台座のうえで、鍛え上げられた肉体を包むボディースーツに身を包んだバンは、

「ゲンマ、ジンザ、油断するなよっ。相手は小娘らしいが、ナガトすらやりこめるほどの凄腕だ。本気でかかれ!」

 三機のフドウ型重量級慧煌兵は、赤い目を光らせ、ホバークラフトのようにふくらはぎから噴出した空気で浮き上がり、学問所の門も、塀も破壊して校庭へと踏み入った。


「みんな、気を引き締めて!」

 暗く静かな中庭に、鞍上のアスハの励声がこだました。

 答えて、居並ぶ三十四人の生徒とひとりの教諭が、

「「「はい!」」」

 声を合わせて諾意をしめした。

 続けてアスハは声調高らかに、

「えい、えい、おおっ!」

 応じて皆も気勢を上げる。

「「「えい、えい、おおっ!」」」

「えいっ!」

「「「おおっ!」」」

「えいっ!」

「「「おおっ!」」」

「えいっ、えいっ!」

「「「おおっ!」」」

 アスハは馬頭を西に向け活路を切り開くように薙刀「巴」を前方に振りおろした。

「出撃っ!」

 アスハの号令に応じて、ライマルが駆け出す。続けてアスハ、生徒たちが走り出す。


 同時にヴァイアンも三機の力士のような敵に向かって走り出し、その上空をシオンのまたがった赤い鷹の慧煌獣コウメイがはばたいた。

 地表をすべるように三機のフドウが襲い来る。

 ホバーの噴射音が、地獄から聞こえる亡者のうめき声のようにあたりにとどろきわたる。

 三機は、立てに長い兜をしたバン機を先頭に、二機がその後ろに横並びになって、三角形を描いてフォーメーションを組んでいる。

 バンのフドウは、おとぎ話の鬼が持っているあの金棒のような武器を頭上に持ちあげ、片手でぐるぐると振り回す。

 あれだけ振り回してよく突き出た兜に当たらないものだとサクミは感心しつつ、一直線に三機にむかってヴァイアンを駆けさせた。

 その金棒の間合いにヴァイアンが入ったと見えた瞬間、サクミは足をとめ、腰の刀を鞘ばしらせ、残像を飛ばす斬烈閃を抜き打ちに放った。


「んな!?」

 驚きつつもベテランパイロットであるバンは、瞬時に反応して金棒で残像を払って打ち消した。

 だが、三機の隊形が乱れ、横に広がるように進撃をとめる。

「あの小娘、けっこう卑怯だぞ!」

 が、その顔からすぐに驚愕の相が消え、心底から愉快そうな笑みに変じた。

「ぬははは、こうでなくてはなあっ」

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