三ノ五 新しい仲間

「それでは、我ら白銀の炎の、新しい仲間を紹介するわ。あらみんな、なにその呆然とした顔は」

 放課後の食堂に、集められた部員たちは、広い部屋の片隅で、突然のアスハ姫の発表を呆然と聞いていた。

 と思いきや、呆然という言葉の意味はいく種類かに分別できるのである。

 あっけにとられている、という意味あいでアスハはこの語句を使ったのだろうが、部員たちは、実は、

「あきれてものが言えない」

 のであった。

 シオンは苦笑しているし、ヒヨリは興味なさそうにお茶をすすっているし、マコモはそっぽをむいているし、サクミは――、これはあきれつつも律儀に、いささか芝居がかった顔で驚いてみせていた。

 ちなみに、先日野盗の洞窟から救い出した狐族のマコモは、姫の口利きでこの学校の食堂で下働きとして使われている。こまっしゃくれた本性をたくみに幼い顔の裏に隠し、か弱くってかわいそうな身寄りのない少年のふうをよそおい、食堂のおばちゃんたちにかわいがられ、女生徒たちからはマスコットあつかい。

 ――いつかあの化けの皮をきれいさっぱり、はぎとってやりたいわ。

 とは、ヒヨリの言。

 もっとも、ヒヨリは狐族という種族に対して、なにか子細ありげな、ちょっと強めの偏見の目をもって、マコモを見ていたのであったが。

「それでは紹介しましょう。新しいわが頭脳役にして、白銀の炎の軍師、その身を襲った不幸な悲しむべきできごとにめげもせず、この国であらたな人生を懸命にはじめようとしている、鵡の貴公子、ユウリン・サノハラ君です」

 姫の紹介に応じて、皆がすわっていたそばの出入口の戸がひらいた。

 同時に、

「おまえっ!」

 ヒヨリが叫んでたちあがり、彼に走りよると、襟首をつかみあげた。

「ちょ、ちょっとやめなさい、何してるのよ、ヒヨリっ」

 アスハの制止の声に反射的に立ち上がったのはシオンで、彼はそくざにヒヨリの両肩を後ろから押さえた。

 ヒヨリもなにか、しまったと思ったのだろう、即座に手は放したが、その目はいまにも食ってかかりそうなままであった。

「なに、どうしたのよ」

 アスハも近づいて問いただす。

 サクミはただあたふたとしていたし、マコモはまるで芝居の最高潮の場面でもみているように目を輝かしていた。

「いえ、すみません、人違いでした」

 ヒヨリは、感情を無理矢理抑え込んだようすで、もとの席にもどった。

「まったく、なんなのよ、いつも冷静なあなたらしくもない。人違いでつかみかかられたんじゃたまったもんじゃないわ。ごめんなさいね、ユウリンくん」

 ユウリンは、乱れた衿を直しつつ、

「いえ、どこにでもある顔ですから。よく人違いされるんですよ」

 などと、ほがらかに笑っている。

 アスハももといた場所にもどって、立ったまま話を続けだした。ユウリンはその横によりそうように立っている。

「彼は、ずいぶん学業が優秀で、鵡では将来を嘱望されていたのですって。運動がいささか苦手らしいけど、軍師にはそんなものは関係ないわね。頭を使って、私に……、我々白銀の炎に助言をあたえてちょうだい」

「はい、姫様のご期待にそうべく、粉骨砕身つとめさせていただきます」

 ユウリンは丁寧に頭をさげた。

「じゃあすわって」

 とユウリンに指示してアスハ自身も正座した。

「では、みんな自己紹介をして」

「では、僕から」

 とシオンが話そうとするのに、

「いえ」とユウリンがとどめて、「失礼は承知のうえで、みなさんの履歴はすでに調べさせていただきました」

「まあ」とアスハが喜悦の顔で、「軍師とはそうでなくてはいけないわ」

「いえ、あたりまえのことをしたまでです。これから長くお付き合いいただくわけですから、仲間にいれてくださるかたがたの人となりは知っておくべきだと思ったまでです」

「うんうん」

 アスハはもう、彼の要領のよさにご満悦のようだ。

「じゃあ、さっそく、隊の今後の活動方針について、意見をちょうだい、ユウリン軍師」

 もう打ち解けた様子のふたりを、シオンはどこか警戒するような目でみていたし、ヒヨリは興がさめたような顔をしているし、マコモはなにか波乱を期待しているし、サクミはいいようのない不安感を抱いていたのだった。

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