第22話 最強の盾と最強の矛 下
鉱山エリアへの道中には林がある。ミーシャリと合流するため、林の中を通りながらリーザスレイヤーを引きつけていた。
「おいおい、このGAMMの威力を分かってないようだな」
リーザスレイヤーの右手が動くと、弾が林の中に撃ち込まれる。コンクリートの塊を貫通する威力もあれば、草木の抵抗値などないに等しい。だが、植物の色が迷彩となりリーザの位置に狙いを定められなかった。
「やっぱり当たらねえなあ。そこに隠れようたって、無駄だからな。見栄えの悪い木は伐採しないと」
反対側の腕がうなりを上げて横に大きくスライドすると、木々がメキメキとうめき声をあげて押し倒されていく。リーザがいる範囲だけでなく、鉱山エリアへ向かう方角にある木々までもをなぎ倒し、林を丸裸にしていく。
「めちゃくちゃやってる。こんなことして怒られないの」
『今運営が調べているところですが。ルール上は遮蔽物の利用及び排除は、それによってプレイヤーの現実的損傷・被害に遭わない限り問われないとのことで』
一見リーザスレイヤーは木々をむやみに切り倒しているように見えているが、サイボーグ装甲の予測演算によりリーザが当たらないように木々をなぎ倒している。実際リーザの頭上や身体に倒された木々は当たってなく、現状ルールに抵触してはない。
もっとも、木々をなぎ倒すほどのパワーと頑丈さがあるサイボーグ装甲が試合に使用されていることなど、想定すらしていなかったのもあるが。
このまま木々が散々なぎ倒されてしまうと隠れる場所が減らされてしまう。
生身で戦車相手にしたことはあったが、あの時と異なり持ち物はL/Z30のみ。火炎瓶も手りゅう弾もない。肉弾突撃しか戦法がない。先のジョーとの戦いのように持っている火器を落としてやろうと考えたが、GAMMはサイボーグ装甲の腕と一体化するように接続されており、落とすことは不可能であった。
「ブルゴ、あんな大きな奴でもダメージは与えれるんだよね」
『もちろんです。ただし、必ず搭乗者がむき出しになっている箇所を狙ってください。サイボーグ装甲の部分に当ててもカスダメしか入りません』
二足歩行の戦車を相手にするのと同じね。外側は固くて無傷だけど、乗っている奴を撃ち抜けば無力化できる。幸い、あいつの乗っている箇所は表から丸出し。狙撃か密着するほどの至近距離で撃てば倒せる。
声を殺して茂みに隠れながら、スコープを覗く。リーザスレイヤーを狙撃をするには距離はもちろんのことだが、サイボーグ装甲に弾かれでもすればマシンガンの餌食になる。
狙うは、急所が多い胸元中心より上。
リーザのスコープが、リーザスレイヤーの体に重なる。
あと、上二つ。いや一つ。確実に仕留めれるよう微調整を行い、狙いが定まった。
「はい、残念でした」
「あっ!」
スコープのガラスが真っ暗になった瞬間、セミからフルオートに換えて、三十発すべてを叩きこんだ。
「ぐぁっっ。三〇口径か、でけえ弾で撃ってくるんじゃあねえよ!」
サイボーグ装甲の巨大な手が大の字に開いて、リーザを閉じ込める。
効いて……いや、当たっている。おそらくサイボーグ装甲に威力が大きい弾を当てれば、本体にも電気ショックが与えれる。しかし、それに気づいたときにはもう遅かった。
取り囲まれた五本指の間から、GAMMの銃口がリーザの眼前に突き付けられていた。
「さあて、閉じ込められた。さすがのリーザ・ブリュンヒルドでも逃げられないな。まあこいつで叩き潰すのもできるが、やっちまったらルール違反とGWGから永久追放だからな。至近距離でハチの巣にしてやる」
「あたしに負けただけでそんなに悔しいかったの」
「ああ、リーザに負けるのは屈辱だ。だから徹底的につぶす。トラウマを与えて二度とGWGに出てこられないようにな」
「優勝したらもう来ない予定だったんだけどね。でも恥ずかしくないの、一人の人間相手にそんなでかい機械使うって。昔戦車に砲撃されたことあったのを思い出すわ。まあその時の戦車返り討ちにしたんだけど」
「そう、じゃあその戦車兵の無念俺が代わりに晴らしてやる」
ガチリと引き金がかけられた。
バゴーン!!
リーザの頭上で大きな物音が響く。すると、サイボーグ装甲の手が大きく斜めに倒れだした。
『リーザ殿生きてますよね! ミーシャリさんが来てくれました!』
ブルゴからの連絡を受けてその場から離れると、木の枝の上にミーシャリが窮屈そうにAZ・01を構えていた。
「あんたまた俺の邪魔をすんのかよ。お仲間のくせに」
「職場ででしょ。あんたの協力なんて一度もしなかったわ。だいたい命令違反したでしょ!」
鋼の巨体を戻そうと体を起き上がらせるリーザスレイヤー。それをさせまいと、AZ・01が左肩に向かって火を噴き、阻止させる。
「そんなでかい機械で大会に勝ってうれしいの! あんたもGWGプレイヤーならわかるでしょうが!!」
「確かに。GWGは楽しい。こんな機械もどきに乗って戦うより、生身で銃を撃つのが楽しかった――乗る前ではな。今じゃあ、一方的に蹂躙する楽しさが勝って、やめられねえよ。アッハハハハ!! ハチの巣だこの野郎!!」
体勢を崩しながら、片手を上げてGAMMをミーシャリがいる林に向けて銃口を向ける。
「こっちも忘れていると、穴だらけだっての」
ババババババッ!!
サイボーグ装甲の体中に弾丸が突き刺さる。リーザスレイヤーがそれを押さえつけんと、巨体を動かすがニナの動きの素早さについてこれずサイボーグ装甲がクロスする。
リーザスレイヤーが起き上がる前に、三人は一気に距離を取りまだ切り倒されてない林の中に逃げ込んだ。
「ニナ! なんで来たの。ニナが生き残れば」
「あんなでかいやつ相手に、一人で立ち向かったら本当に死ぬかもしれないのに立ち止まれないよ!」
「これはゲーム」
「ゲームでも、本当にやるかもしれない!」
必死の形相でリーザの顔に近づけさせて、怒っていた。
しかし文句を言いたいのはリーザの方も同じだ。ニナの左腕がぶらんと垂れ下がっている。ジョーに撃たれた後がまだ治っていない。それなのに、自分のために駆けつけるなんて戦場だと懲戒ものである。
……でもこれゲームなんだよね。起こったことを咎めるよりどうするかだけど。
「それでどうする。ミーシャリの銃で狙撃するまであたしらがかく乱させておく?」
「あんたの想定はかく乱すれば隙が生まれると思っているだろ。残念ながら、あれはそんな生半可な隙はでない最新鋭のサイボーグ装甲だ。ただし、このゲームならダメージは与えられないが、三〇口径以上の銃なら一瞬動きを封じ込めれる」
「あんた……」
言いたいことは飲み込んで、先ほどの情報を基に考えればミーシャリとリーザの二人が腕を集中砲火すれば、あのサイボーグ装甲に勝てる。ただ、その間に中心部に撃ち込まなければならないが、二人はその間リロードを待たなければならないし、ニナの銃では中心部にまで届かない。
「あの、リゼさん。最初の練習の時にやったこと覚えてる? もしあれをすれば」
耳を近づけてニナの提案を聞いた。
「危険だけど、やってみる価値はあるかもね」
***
「おーい、出て来いよ。隠れてないで正々堂々勝負しろよぉ」
相変わらず木々をなぎ倒しながら、リーザスレイヤーが我が物顔で林の中を進んでくる。
対象が目標地点に到着するまで、残り十。ゴロゴロと車輪の音が大きくなるのを待つリーザ。そして。
ミーシャリの弾丸が右腕に向かって放たれた。
「読めてんだよ。死ね!」
マシンガンの位置がミーシャリと直線状に重なる地点で当たると、リーザスレイヤーはお返しと引き金を引きミーシャリに向かって弾の嵐を浴びせた。
そのタイミングで、リーザが木の枝から飛び降りた。腰には木の蔓を巻き付けて、空中ブランコのように接近して、サイボーグ装甲の左腕に向かってフルオート三〇発を撃ち放つ。
「どうだ。両腕は使えないわよ」
「それがどうした?」
リーザスレイヤーは余裕の表情で、躯体を後ろへと倒した。その間に、硬直から戻った右腕がマシンガンを放ちながらリーザの所へ腕を倒していく。
あと十秒、九、八。と心の中でカウントを数えながら、完全に倒れる前にリーザスレイヤーのいる中心部に向かって駆け抜けていく。
「終わりだ! クソリーザ!!」
体が完全に地面に倒れてリーザの体が宙に浮くと、右腕のマシンガンが残っていた弾すべてをリーザに向けて放つ。
一発、二発と数える暇もないほどの撃たれた後の電気ショックが体中にめぐる。まるで体が引き裂かれるかのような衝撃とともに、リーザの体力ゲージが消えてなくなった。
「勝った!」
「終わりだよっ!」
リーザの背中からニナが飛び出た。
挟み撃ちにする形で、動きを止め。リーザが片手でニナを抱っこする形で、ニナをリーザスレイヤーのところに運ぶ作戦だった。
リーザスレイヤーは引き金を引こうと動かすが、GAMMの弾はすべて撃ち尽くしてしまった。再装填まで四十秒、サイボーグ装甲を起き上がらせば勝機があったが、水分を多く含んだ地帯に踏み入れてしまったため、巨大な躯体が滑って起き上がれなかった。
「くそががあああ!!!!??」
威力は低いが、先ほど自分がリーザとミーシャリに向けて撃ったマシンガンのとはくらべものにならないM100フルオートの弾丸の雨がリーザスレイヤーの全身を撃ち抜く。
そして最後の弾が撃ち終わった時。サイボーグ装甲からシュオオオンと機能停止の音が鳴るとともに、駆動音も同時に消えた。中にいるリーザスレイヤーも動く気配がない。
「勝った……勝ったよ! ブルゴ殿! ミーシャリさん! リゼさん!」
高々と拳を上げて勝利を宣言するニナ。その一部始終を電気ショックがまだ尾を引きながら、自分の手で決めたかったけど、どっちにしてもこれで優勝なのは変わらないね。と安堵の表情を浮かべた。
パンッ
林の中に乾いた音が鳴ると、ニナの目が虚ろになる。そしてゆっくりとニナが自分の胸を見下ろすと、赤いレーザー弾跡がくっきり残っていた。
「や、やった。勝った」
「う、うそ。だ、だって倒したのは、拠点は」
急所を撃ち抜かれたニナは、動けなくなりその場にうずくまるように丸まって倒れた。
動けないリーザの目にゴーグルから残り生存チームの情報と確保拠点数が映った。確かにリーザたちは拠点を三つ確保しており、全チーム最多であった。しかし生き残っていたチームはリーザたちと、さっき後ろからニナを撃ったチームの一人しかいなかった。
リーザスレイヤーを倒しただけでまだ優勝は決していなかった。そしてこの画面が出てきたということは。
「不意打ちは、ズルだろうが」
リーゼたちの優勝はなくなったことを意味した。
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