第15話 ラウンド1「敵兵を殲滅せよ」下
岩山を求めてやってきたチームたちが集い、お互い撃ち撃たれの乱戦の中、漁夫の利の形でこっそりリーザたちのチームが排除し続けた。その結果リーザたちのチームだけが無傷でこの乱戦を制することになり、岩山を占拠することができた。
「やっぱりいい眺めね。この場所欲しがるのもわかるわ」
「あんな目と鼻の先と変わらない至近距離で狙撃しろなんて、もうしたくないからね」
ミーシャリがぜいぜいと呼吸を乱して、訴えていた。遠距離からの狙撃を主にするミーシャリとってみれば、銃弾のレーザーが飛び交う距離で狙撃するなんて居場所を教えるようなもの。未知どころか無謀極まりないことをさせられて生きた心地がしなかったのだ。
「今回は仕方なかったの。それにしてもここからだと草むらに隠れているのが丸見え。残っている敵がいたらすぐ倒せるかも」
「けどここはもう使えないみたい。あれ見て」
ニナが指した先には赤いスポットライトが外枠から迫っていた。銃撃のレーザーが飛び交う乱戦に集中しすぎて、スポットライトの存在に気づかなかった。
「ここからだと結構近いよ」
「この岩山の価値はもうないね。降りよう」
「OK」
せっかく占拠できたのにと、ニナが残念がって後方の確認をして降りる準備をする。と、ニナが「あれなんか変なのがある」と手招きをした。森を抜けた先にある平地からもうもうと砂煙が舞い上がっていた。風は吹いてなく、GWGは歩兵同士の戦闘であるため、機械による移動の影響でもないはず。
例外があるとするならば、アレの存在であるが。
「サイボーグ装甲輸送支援型か。動きからしてバーチャルタイプだけど、高いのによく買うね」
砂煙の中を凝らしてみていたミーシャリが砂煙の原因を言い当てた。
今回のGWGのルール改正で導入されたサイボーグ装甲であるが、リアルだけでなくバーチャル側でもサイボーグ装甲をゲーム内課金で購入できる。実用面で使用ができるリアルと比べたら安価ではあるのだが、他のアクセサリーパーツと比べれば高価なのだ。金額としては、アサルトライフル十丁が買える金額だ。それでもリアル側ならその五倍もの金額になる。
さらにシニアクラスたちが大会前に分析と試行錯誤した情報によると、蓄積ダメージの軽減と移動速度が早くなるだけで、特にGWGの環境を大きく揺るがすほどではないと結論づけられたばかりである。
「なんでそんなものを使うのかね。対して強くないのに」
「Romantic」
「浪漫だよね。サイボーグ装甲性能はあれだけど、見た目とか撃つときの見た目が映えるからね。GWGは銃の撃ち合いだからカメラが接近しないと映えないから、サイボーグ装甲も映像映えという点でなら歓迎されたし。それに今回GWGのインフルエンサーとかも参加しているからそういう人がやっているのかもね」
「それで、どこに移動するの。このままだと今いる森のエリア全部スポットライトの範囲に入るよ」
今いる森のエリア以外でスポットライトに当たらないエリアは、右側の湖畔エリア・中央の平地エリア・左側の村落が見える。中央に照らされたスポットライトも徐々に広がっている中でおそらく安全なのは左右の村落か湖畔のどちらか。
「村落はどう。隠れる場所が多いし」
ニナが目標にしたのは、左側に見える村落。中央はスポットライトが当たるのと隠れる場所がないので論外。残る空間があるエリアの中で、湖畔は地盤が緩く足元を取られる可能性がある。
それならば、建物があって隠れる場所が多い村落は安全ではある。
「また人が集まりそうね。さっきの乱戦はうまく突いた形だけど、二度目はどうかね」
「安全を取るか、それとも危険を取るか」
「Go right」
その選択肢の中、ブルゴが右を主張する。
「右かぁ。足元の不安定さが怖いな」
「いや、行ってみよう。乱戦で流れ弾が飛び交うよりかはマシだよ」
***
湖畔エリア、といってもその湖の深度は安全面に配慮して一番深いところでも腰のあたりまで浸かるぐらいとそこまで深くない人工の湖がある。しかしこの地帯で厄介なのは湖の周りの土が緩いことである。
射撃の正確さを求めるGWGプレイヤーにとってみれば足元の不安定さは天敵であるため、湖畔エリアに来ているのは数人しかみえない。
「見事に人がいないね」
「おまけに来ているプレイヤーの距離が離れすぎている。ありゃはぐれているか、待ち伏せか」
「もうすぐ時間になるし、このまま時間経過を待った方がいいよ」
ゴーグルの左上に光っているタイマーが三分を切り、赤く点滅している。制限時間が迫っているサインだ。スポットライトも予測では試合終了の時間になって湖水エリアに少し入るところに来る見込みで、特に何事もなければこのまま待った方が得策だろう。
湖のそばにある岩陰の後ろで座り込むと、ニナが微笑みながら顔を寄せてきた。
「やったねリゼさんラウンド1突破だよ」
「まだ決定じゃないよ」
「でもラウンド1で大半のパーティーが脱落するのに、私たち誰も離脱していないなんてすごいことだよ」
「あんまり喜ぶのは早計だよ。ラウンド1はかくれんぼと同じで、クソエイムでも最後まで隠れ切ればラウンド2までは個人でも進めるんだ」
ミーシャリが冷や水を浴びせるが、事実でもある。オールマイティー大会の趣旨は個人でもチームでの優れた腕を持つ者が勝つ。その観点でラウンド1は個人戦での有利が強く出る。しかし最終的には生き残ったチームが多いほど優勝できる確率が高くなる。
「勝つよ。有利不利とか関係ない、生き残った奴が勝つ可能性があるそういうもんだ」
「Great」
ぴしゃりとリーザが言葉を締めて、左上を見ると二分を切った。湖畔エリアはまるで時が止まったかのように物静かだ。おそらく終了の時間が迫っているから無用な戦闘は避けてラウンド2ヘ進もうという魂胆だろう。そのためか平地エリアの銃撃が聞こえてくる。あちらは相変わらず砂煙が舞い上がっており、サイボーグ装甲が奮闘しているようだ。
「あのサイボーグ装甲のプレイヤーがんばっているね。岩山から移動してずっと動きっぱなしじゃない」
「リアル側ならぶっ続けて動かすと壊れてもおかしくないけど、アルゴリズムがおかしくならない限り故障が発生しないバーチャルだからできる芸当ね。後であのサイボーグ装甲のプレイヤーの動き参考にしてみようかな」
やはりGWGプレイヤーの性なのか、前評判と違い予想外の善戦を続けるサイボーグ装甲の動きに感銘を受けるニナとブルゴ。
ここからだと砂煙で見えないのが残念だな。リーザもそのサイボーグ装甲というものに興味が湧いてきた。
そして残り一分に迫ろうとした時、砂煙がリーザたちのいる方向に舞い上がり出した。それとともに、ドドドッとそれまで聞こえてこなかった重厚な機械の駆動音も大きくなる。
「なんか近づいてない?」
危機を察知してその場から離れようと立ちあがろうとしたが、サイボーグ装甲使いのプレイヤー二人があっという間に接近してきた。
「「どいてどいて!」」
「げっ!?」
二人のサイボーグ装甲使いのプレイヤーが熱くなり過ぎて平地エリアからいつのまにか移動していたことに気づかず、持っている銃を放ちながらリーザたちの下に突っ込んでくる。
「散開!!」
四人は一斉にバラバラになってその場から離れると、サイボーグ装甲のプレイヤーの一人が勢い余ってリーザたちがいた岩に突っ込む。
通常なら岩に衝突した反動と故障で止まるのだが、このプレイヤーはバーチャル側で使用していた。バーチャル側は勢い余ってオブジェクトに接触しても壊れることや急激な減速など起きないのだ。
こうなるとどうなるか。サイボーグ装甲のプレイヤーは引き金を引いたまま岩に乗り上げて一回転し、弾が全方向あらぬ方向に放たれていくのだ。
「ぎゃああ!!」
「あと一分待ってくれたら」
放たれた流れ弾が潜伏してたプレイヤーたちに被弾し、致命傷を負って消えていく。おまけに赤いスポットライトが湖畔エリアにも最悪のタイミングで迫っており、プレイヤーたちは安全地帯を探すため阿鼻叫喚の様相を呈していた。
幸い乱射しているのはアサルトライフルなので抵抗値のある遮蔽物に隠れれば逃れられるのだが、湖畔エリアでは遮蔽物が数本の樹木と数個しかない岩のみで数が少ない。
「リゼさん、あそこに逃げよう」
リーザとニナは幸い逃げた先に、太めの樹木がありそこに隠れようとした。
「どけ! 俺のだ!」
同じ場所に隠れようとしていた平たい鉄帽のプレイヤーがハンドガンでニナに二発発砲する。
一発は頭上を掠めたが、二発目がニナの脚に命中して負傷する。
「ニナ!」
「リゼさん早く行って」
この銃弾の嵐の中ニナは冷静だった。拾って助けるより、一人単独で逃げた方が生存する可能性が高い。戦場では当たり前の教訓は覚えていた。しかし、リーゼの奥底で締め付けられるがのように拒否感があった。
本当に死ぬわけではない、試合に勝つのなら自分だけ生き延びればいい。戦時中何度もしたはず、なのにニナを置いて逃げることだけに奥では否定をしている。
「どうぁ!?」
ドオゥン!! すぐそばの湖で大きな音と水飛沫が上がった。もう一人のサイボーグ装甲のプレイヤーが逃げている途中で緩い地面に足元を取られて湖に転倒してしまっていた。バーチャル側が戦闘不能になれば、すぐにアバターが消えるのだが体力が残っているらしく残っていた。
倒れたサイボーグ装甲のプレイヤーに銃弾が当たるが、耐久性が高いためか装甲の部分に当たりいくつか弾き返している。
そしてここならと、ニナを抱きしめて湖の中に入りサイボーグ装甲の後ろに回る。
「置いていけば助かったのに」
「なんかね。あんたを置いていくのがいやなの。おかしいね、軍にいた時はこんなことなかったのに」
ようやくサイボーグ装甲の後ろに回ると、さすがの装甲といったところで銃弾が一つも飛んでこない。
そしてゴーグルの残り時間が、一秒を切る。
ビーッ!!
フィールド全体に試合終了の音が鳴った。ゴーグルの左を見て、チームのメンバーの生存しているか確認する。
まず自分は当然ある。ニナもいる。
残りの二人に視線を移そうとすると、急激に心拍数が跳ね上がる。死ぬはずはないのになぜこんなに緊張しているんだ。無事でいてくれと願ってしまうんだ。
安全であるはずの矛盾に震えながら、目線を下す。
ブルゴーーグリーン
ミーシャリーーグリーン
「全員生き残ってる……」
「よかったぁ。前半楽勝で通過できると思ったのに、あいつらのせいで生きた心地しないよ」
ニナが腰に手を当てて、ぶりぶり怒る。しかしリーザは奇妙な感覚に戸惑いを隠せていない。
本物の戦場を経験しているのに、どうしてゲームで怖いと思ってしまったの。
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