第14話 ラウンド1「敵兵を殲滅せよ」上
オールマイティー大会の開始時刻になって、リーザたちリアル側の参加者たちは目隠しされながら試合会場へと移動された。これはランダムで配属されることを再現するために施される処置であり、ヴァーチャル側はパーティーを組んだリアル側のプレイヤーが移動された場所に自動的に移動する仕組みだ。
『それでは皆様、敵の空襲に巻き込まれないように生き延びてください!!』
試合開始直前、女性のアナウンサーから不穏な開始の宣言がされるとともに笛が鳴ると、雄たけびと共にフィールドが騒めきだした。
ラウンド1は殲滅戦。制限時間四十五分以内に生き延びればクリアとなる。ただし一定時間が過ぎると、赤のスポットライトがフィールドの外と中両方に出現する。このスポットライトは空襲される範囲という設定であり、スポットライトに触れると空襲に巻き込まれたと判定されて失格となるため、ライトに当たらないように移動しなければならないサドンデスゲームなのだ。
「Here」
開始早々リーザたちも動き出そうとするとブルゴが岩山指さした。
「あの岩山で籠城するの? 狙撃手のボクはともかく、君たちは今いる場所の方がいいだろ」
ミーシャリが指摘するのは降り立ったフィールドがリーザたち射程が短い銃には有利だからだ。草木がうっそうと生えており、少し伏せれば隠れられる隠密性と抵抗値が少しでもあるため貫通性が低い弾なら十分な障壁となる。
その草木の中から生えたように、石灰石模様の岩山に登るとなると高所からの遠距離射撃には有利かもしれないが、逆に居場所が把握されて包囲される恐れがある。それならば草むらに潜伏した方が生存性が高い。
しかしブルゴは「Be sweet」と一蹴する。
「はあ?」
「甘い考えって言いたいみたい。実はね、過去の大会の検証班からの考察だと倒した敵の数が多いほど、次のラウンドが有利になる傾向が多いの」
「そんな情報なかったけど」
「表向きはね。でも過去のデータからラウンド2と3を突破したチームがこのラウンドで倒した平均撃破数を計算すると倒した敵が多いほど有利みたい」
それが正しければ、高所である岩山を制圧して高所からライバルプレイヤーを掃射すれば決勝まで楽に進めるられる。それが本当なら岩山に向かうべきところである。が、ミーシャリが待ったをかける。
「それバイアスじゃないの。優勝できたチームほど腕が立つ。腕が経つ人ほど撃破数が高いからラウンドが上がるにつれて、その数が多くなるんじゃないの」
「Oh」
「でも可能性としてはなくはないよ」
「あのね。データはちゃんと抽出しないと間違ったものを出しちゃうこともあるの。パンと交通事故の因果関係の話を知らない? そもそもその検証班っての信頼できるデータの根拠がどこなのか知っているの」
「なに、その言い方」
「S、Stop」
ニナとミーシャリがいがみ合う中、リーザはじっと息をひそめて考えていた。
ラウンドを有利に進められるニナの情報が正しければ、そっちを選ぶべきだろうけど。ミーシャリの言うことも間違ってはない。敵の撃破数が進出に大きく左右されるのであれば、戦場が静かなのは違和感がある。
少人数での試合ならともかく、オールマイティー大会は約五十チーム、総数二百人。その中で大きく分けず四人一組のチームでまとまって争う形式だ。実質多数の分隊同士の戦いであり、撃破数で有力になるなら、マシンガンで撃ち合った方が効率的だ。だが二三発の射撃の音が聞こえるだけで、大きな撃ち合いはない。
改めて岩山のあたりを見渡す。森の中に一つにそびえる岩山、岩自体がかなり目立ち見晴らしも十分そうに見える。高所から射撃なら好都合であろう。
そして考えが固まったリーザが、ニナとミーシャリの間に割って入った。
「ミーシャリ、あんたの言っている可能性ってのは結局そのデータが正確ではないということよね。間違っているかもしれないし、正しいかもしれない。その二つがある」
「まあ、元のデータを見てないからそうなるけど」
「向かいましょう。岩山のあたりまで」
「合っている方に賭けるの!? 危険だって」
「有利に進められるデータがある。便乗するだけでいいじゃない」
***
高い草むらに身を潜めながら、白の岩山を目指すリーザたち。反対であったミーシャリはいやいやついてくるが、同意と言うより狙撃手であるため単独行動だとすぐに撃たれる危険性からリーザたちについていくほかないという選択からついてきていた。
一歩銃弾が撃ち込まれれば文字通り瓦解するチームの空気に、ニナが耐え切れなかったのかリーザに話しかけた。
「ごめんね。なんか自信満々に言っちゃって」
「あたしのために調べてくれたんでしょ」
「そうだけど。でもミーシャリも間違ってないんだよ。なんとか有利に進めれるデータないかなって、見つけただけで裏取りとか考えず信じちゃったから」
「それって誰でも見つけられるデータだったの」
「うん。検索条件を打ち込んだらトップページに『検証班によるオールマイティー大会極秘データ』って出て」
ニナが見つけてきたデータの詳細に、リーザは何か得たりと口元をゆがませる。
そして岩山の白い肌がより濃く、凹凸の影がはっきり見えてきた距離にまで来ると黒の防弾チョッキを着た四人集団が現れた。幸い身をかがめていたおかげでまだ相手はリーザたちのことに気づいていないようだ。
おそらく相手のチームも岩山を狙っている。先に占領されてたまるかと、トリガーに指をかける。しかしここでリーザが待ったをかけた。
「待って、あいつらが登りかけるまでトリガーに指をかけたまま待機」
「What?」
「ちょっとちょっと、岩山を取るんじゃなかったの」
「取らせないよ。岩山からだと、植物の下に隠れてもあたしたちの姿が丸見えになって狙い撃ちされる。けどほかのチームもそれを狙っている」
パンパンッと至近距離で発砲音が響いた。
草むらに伏せながら顔を上げると。先ほど岩山に登ろうとしていた防弾チョッキのチームと、その下で別のチームが撃ち合いを始めていた。その最中今度は左前の木々からバババッというマシンガンの連射音がなると、防弾チョッキチームの数人が岩山から崩れ落ちる。
そのまた後に、木々に向かって反撃をする別のチーム。結局リーザたち含めた五チームが入り乱れる混戦模様になっていた。
その隙を逃すまいと、音をあまり立てないようにセミオートにして目の前の敵プレイヤーに対応するので精いっぱいのプレイヤーに、撃ち込む。
腕と背面に命中、しかし致命傷のダメージなのかわからなかった。何せ前からも弾が飛んでくるので、誰が撃った弾で脱落したか撃った側も、撃たれた側もわからないのだ。
次々と脱落していき、もういなくなるだろうと思っていた矢先にライフルを構えたままのチームが目を丸くさせてひょっこりと現れた。もちろん砲火の中で油断など許されるはずもなく、ミーシャリのAZ・01により脳天を撃たれてわからないまま、足を崩して前から倒れてしまった。
岩山を取るはずが、乱戦状態の中で一方的に打ち取る状況。これにニナが動揺しないわけもなかった。
「なんでこんなうまくいってるの?」
「検証班とか、SNSとかよくわかんないんだけど。ニナたちが独自で集めた情報じゃないんでしょ」
「う、うん」
「だとしたら、ほかの参加者たちもその情報を知っているわけだ。相手を多く倒したら有利になるかもしれないデータがある。正しいかもしれないし、正しくないかもしれない。でも可能性があるなら危険を冒してでも多くの敵を倒せられる有利な場所に移動しなければ。そしておあつらえ向きに見晴らしの良くて目立つ白い岩山。あれは罠だね。故意か偶然か知らないけど、データを信じて狙うチームがホイホイやってくる。だから逆に利用して、乱戦の中にまぎれてこっそり打ち取れば」
パンッとリーザの弾が命中して、また一人倒れる。
「データを基に戦うんじゃなくて、逆にそれを利用する相手のことを予測するなんてね。大学で心理学でも取ってた?」
「いや、そういう経験を昔しただけ。さあもっと首獲るわよ」
似たような経験とはリーザが十五ぐらいの時、援軍がやってくるとの報告を受けた。まだ雑用ばかりしていたリーザは、援軍が来るからにはすぐ休めるようにとベッドの準備に、医薬品を自分の陣地に集めるように努めていた。
しかし、それはグラドニア軍の偽報であった。援軍が来ると油断しきった味方は這う這うの体で逃げ出し、まんまと物資や医薬品を敵に丸ごと渡してしまった。
それ以降、耳に入ってきた情報にリーザは常に疑いを持つようになった。
それに対してデータを疑うことをせずに信じて一斉に岩山に来てしまったチームは、すでにリーザの手中の中にあったのだ。
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