第18話 ラウンド3「拠点を多く取れ」上

 ラウンド3が始まり、生き残ったプレイヤー十組が走り出した。


『まず十一時の方向に拠点があります。そこを足掛かりにして、三時と四時の方向にある二つの拠点を制圧をお願いします』

「ラジャー。というわけなんだけど、リゼさんまた後ろでいいの」

「うん。後方から襲ってきたら時に備えてね。あたしのこれの方がリーチと取り回しが効くし」


 ニナ・ミーシャリ・リーザの順で隊列を組み、ブルゴが指定した拠点へと走り出した。ニナに伝えたことは半分は本当であるが、本当の目的は目の前にいるミーシャリの警戒のためであった。


 ラウンド3開始前、たまたま入ったトイレからミーシャリの声が聞こえた。ミーシャリの少年のような見た目から男と思っていたためリーザは混乱と驚愕で慌てたが、ミーシャリから『リーザ』という名前を口にしたことで頭から一気に冷却水を浴びたように冷やされた。

 そしてミーシャリがトイレから出てきたところで、首根っこをつかみ問いただした。


「なんであたしがリーザだって知ってる。所長ってのは誰の事。なんでこんなややこしい変装なんか」

「し、死ぬ……」


 ミーシャリがつけていたウィッグがトイレの上蓋にぼとりと落ちた。百年前の人間が生きているなど自分以外に知っている人が他にもいる。つまり自分を百年物間目覚めさせなかった人間がいることでもある。


「し、調べてこいって言われたの。あなたの戦闘データを取りたいって」

「データ? 百年前の人間が生きていることに対して知りたいのが戦争の腕だけ! ふざけんな!!」


 怒りのあまりミーシャリの胸倉をつかむと、トイレのパーティションにたたきつけて、バゴンと鈍い音がトイレの中に響く。


 気に食わない。気に食わない。気に食わない!!

 あたしが眠っているのを知っていながら、百年も待たされたあげく、ひもじい思いをしてさまよっていたら、恋人はほかの女と子供を作っていたのを目の当たりに。それをコソコソ裏からデータを取ってあたしのデータを採取するために仲間となって近づくなんて。

 血中が沸騰しそうなほど怒りが沸々と湧き上がる。

 

「じゃ、邪魔はしないから。あなたが本気で優勝を狙うつもりなら、その手助けはするように言われてる。あなたの試合の邪魔は決してしない本当よ」

「信じられると思っている。投降して命乞いをして安心させた後、裏切って殺した敵をこの目で見ているの。平和ボケ様様ね」


 吐き捨てるように冷たい視線を向けるリーザ。が、以外にもミーシャリの目は死んでなかった。


「じゃあここで私を切る? だとしたらあなたとニナだけでラウンド3を戦うことになるのよ。せっかくの戦力を安易に切り捨てることをリーザ・ブリュンヒルドはできるの?」


 提示されたカードにリーザの目が泳いだ。

 リーザの目的は優勝。大統領に会って自分の気持ちの吐露と目覚めさせてくれなかった理由を吐かせること。目の前にいるミーシャリには冷凍睡眠のことの事情は知らないから吐かせることは無駄であり、時間もない。

 それならば、ミーシャリをチームとして引き続き入れさせた方が自分の目的を達成しやすい。その所長という誰かにデータを取られ続けることを除けばだが。


「じゃあ条件を言うわ。あたしの盾になれ、どんな時でもあたしをかばい、優勝させなさい。不審な動きをしたら。銃底で脳天を殴るから」


 GWGでは、腕が未熟なプレイヤーやゲームの快適性のために、味方同士での巻き添えフレンドリーファイアは起きないようにされている。ただし、リアル側同士だと銃が物理的に当たってしまうことがあるため、運営からはできる限り回避するようにとアナウンスがされている。だがこれは場合が発生しても事故として片づけることができる。

 叩きつけられた衝撃でへこんだ穴からミーシャリがよろよろと立ち上がる。


「構わないわ。元々あたしエンジョイ勢だし、ゲームの優勝より人生の優勝を目指しているから」


***


 ブルゴが指定した十一時の方向に、樹木の洞の中にあった秘密基地のような拠点を見つけるとこれを特に障害となる敵チームもなくゴーグルの中に『制圧完了』のメッセージが流れた。


「とりあえず一つ目ゲット。残り十四のうち優勢を確保するには」

「ここ含めて三つ。相手チームがどこまで減っているかによって確保する拠点の数も変動するけど」


 ラウンド3の競技は『陣地戦』と呼ばれる陣取りゲームである。

 フィールド上にある十四の拠点を試合終了までに多く確保したチーム、もしくは最後まで生き残ったチームが優勝する競技だ。最初の拠点はだいたい出発地点からすぐ近くにあるため、実質残りの四つと最初に確保した拠点を奪い合うことになる。もちろんプレイヤーの体力がゼロにまで削られたら退場となり、全滅したらそのチームが確保していた拠点は制圧者なしの空白になるため、空白の拠点を狙って制圧する戦法もある。


 なお歴代の優勝チームは拠点確保優勢で優勝している。これは拠点の抵抗値が高く設定されて、通常の重火器ではなかなか貫通せず、拠点内に隠れ潜んでいるプレイヤーを倒すのが難しいため、すべてのチームを倒して生き残るのが非常に困難である裏付けである。

 リーザたちが確保している拠点の近くにあるのが、三時の方向にある鉱山エリアと四時の方向にある廃墟エリアの二つ。その二つを占拠すれば優勝は近くなる。


「で、どの方角から進める? 廃墟なら鉄筋コンクリートの抵抗値六が適用されるはずだから、先に確保すれば拠点二つと堅牢な拠点が手に入る」

『そうですね。廃墟のエリアにはビルが見えますので、ミーシャリ殿の狙撃がしやすくなります』


 ミーシャリの提案に乗りかけたところで、リーザは一人反対を上げた。


「ほかのチームも狙ってくると思う。固い拠点の確保はどのチームも優先して取りに行くはず」

「それはラウンド1と同じように漁夫の利を狙ったら?」

「あそこは地理的に隠れる場所が少なく、あたしたちがうまく隠れたから成功した。基本戦闘は防衛有利、まして堅固な拠点となったら狙い撃ちされる」


 リーザは反対となる理由を並べたが、本音はミーシャリに有利となる拠点を選ばせたくないからだ。ミーシャリの背後にいる人間が何を仕掛けてくるか、何をミーシャリに吹き込んで観察対象である自分に実行してくるか見えてこない以上、狙撃手に有利な廃墟は避けたいところである。


『えーでは、最初鉱山エリアに向かいましょうか。リーザさんのおっしゃったように現在廃墟エリアに三チームが向かっているのが見えました』

「りょーかい」

「敵の数を早めに教えてよねブルゴ殿」


 とりあえずリーザの案が採用されて、拠点の洞から降りていく。そしてミーシャリが下りる間際リーザをにらみ「こっちの方が命の危機感じているんだからね」とささやいた。

 どうやらあたしの意図はお見通しみたいね。

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