地味なヒーローは人気が欲しい
わだち
第1話 ヒーロー人気ランキング最下位の男
「い、イヤァーッ!!怪人だわぁっ!!」
穏やかな日曜の昼下がり。ワイドショーを見終わり、子どもと共に買い物にきた奥さま方で賑わう商店街に悲鳴が響き渡る。
「ギョーッギョッギョッギョッ!!俺は『パイレーツ』の怪人Mr.ギョーだ!!この商店街の商品を全て生魚に変えて、貴様ら人間の主食を我々パイレーツの主食と同じ生魚にしてくれるわ!!」
「ああ!!タイムセール品の卵がアジに!!」
「この商店街限定商品のピヨ子饅頭がリュウグウノツカイになっちまったぁ!!これじゃ、俺の店は別の意味で有名になっちまう!!」
非道!怪人の邪悪なる企みにより人々から笑顔が消えようとしていた。
「ギョーッギョッギョッギョッ!これでこの商店街は我々『パイレーツ』のものだぁ!!」
人々がこれからは魚しか食べられないのかと絶望したそのときだった!!
「待てい!!」
輝く太陽を背に、全身にタイツを身にまとい、ヘルメットを被り、マントをなびかせた1人の男が現れる!!
「ギョ!?誰だ!!」
「助けを求める声が俺を呼ぶ!どこであろうと駆けつける!闇に覆われた人々の心に差し込む一筋の光!!照らせ!未来を!!取り戻せ!人々の笑顔を!!俺の名は!『シャイニング村田』だ!!」
ビシッと決めポーズを決めた男がそこにいた。
「シャ、シャイニング村田だと!!」
「あ、あのシャイニング村田なのか……?」
シャイニング村田という男の登場に商店街がざわつく。
「ギョー。どうやらお前がこの街のヒーローのようだな」
「そうだ。怪人Mr.ギョー覚悟しろ!俺の熱い思いで焼き魚に変えてやるぜ!!」
「ギョッギョッギョ!おもしろい!やってみるがいい!!」
「いくぞ!!うおおお!!」
激突するシャイニング村田と怪人!
「い、イタ!イタイイタイイタイ!!」
「え?タイ……?お前、タイの怪人だったのか!?」
「違う!イタイ!ちょっと待て!!!」
シャイニング村田の猛攻に思わず待ったをかける怪人!
「お前!何だそれは!!」
「知らないのか?これは……メリケンサックだ!!」
「知らんわ!じゃなくて、違う!!ヒーローといえば剣とか銃とかもっと派手な武器だろう!!何だメリケンサックって!!地味か!!」
「な……!?」
鋭い指摘に俯き肩を震わすシャイニング村田。
(うわ〜。あの怪人死んだな)
(だな、シャイニング村田は地味で有名なヒーローだもんな。必殺技もないから怪人の倒し方は全部撲殺だし……)
「焼き魚にするとか言ったくせに炎もださんとは地味なヒーローだ。そんな三流ヒーローにやられたくない。せめて武器を変えてから出直せ!」
容赦ない口撃を喰らわせる怪人!これは流石のシャイニング村田もたまらない!!
このままシャイニング村田は負けてしまうのだろうか!?
「……許さん。許さんぞ!怪人!!いたいけなヒーローの心を傷付けるとは……!お前だけは許さない!!」
しかし、シャイニング村田は屈しない!怪人程度の口撃は既にSNS上で体験済みだったのだ!!
「食らえ!!怪人!!うおおおお!!!」
「ギョ!?よ、よせ!くるなぁ!!」
シャイニング村田の拳が絶え間なく怪人を襲う!!
「ギョ、ギョオオオ!!せ、せめて必殺技で倒されたか……った……」
バタリ
シャイニング村田の拳を躱すこともできずサンドバックと化した怪人は静かにその場に倒れた。
「この俺がいる限り、この街の希望は潰えない!!」
決めポーズを決めるシャイニング村田!
「た、倒したのかしら……?」
「倒したんじゃないの?あのヒーロー倒し方が地味なのよねぇ……。せめて最後爆発で終わってくれたら分かりやすいんだけど。」
気まずい空気が流れる。怪人の倒し方が倒し方なだけに人々はどうすればいいか困惑していた!!
「ぐっ……!さ、さらばだ!!」
その場の気まずさに耐えかねてその場から去るシャイニング村田!
「え、えっと……あ、ありがとー!」
「あ、ありがとう!シャイニング村本!」
少し遅れて、僅かながら感謝の言葉が響き渡る。
「ママ……僕、ヒーローになるの考え直すよ」
「そう……」
今日も人々の平和を守ったシャイニング村田!更に、彼は1人の少年が自身の将来をきちんと考え直すきっかけまで作った!これには、その少年の両親、教師もニッコリだろう!!
この一連の流れを見れば気付いた方もいるだろうが、シャイニング村田は地味なヒーローだ。そして、その地味さゆえに彼は年間ヒーローランキング万年最下位なのであった。
***
「お疲れ様でーす。」
「あ、村田さんお疲れ様です。」
場所は変わって、ここは都内のとあるヒーロー事務所。ひと仕事終えたシャイニング村田が丁度事務所に帰ってきたところだった。
「はぁ……。今日も地味だって言われちゃったよ」
「村田さん……。あ!でも!これで今月に入って侵略者討伐数は10体になりましたよ!これで今月の討伐数ランキングも先月に続いてTOP3入りは間違いないですよ!」
「討伐数ランキングTOP10で人気無いの僕だけなんだよなぁ」
「……」
事務員である男性にこれ以上のフォローは出来なかった。彼自身も村田は地味だと思っていたからである。
「はぁ……。人気出そうと思って口調変えたり、口上とかも考えたけど人気でないんだよなぁ。やっぱ必殺技なのかなぁ」
事務所内にどんどん負のオーラが広がっていく。このままではダメだと思った事務員はアレを取り出す。
「ほ、ほら!村田さん!今週もファンレター届いてますよ!」
彼が取り出したのは数少ないシャイニング村田へのファンレターだった。
「…‥差出人は?」
「あ、えーと。村田和子さんとシャイニングLOVEさんからです」
ファンレターは2枚!うち1枚は彼の母親からだった。
「……母さんのは後でいいや。シャイニングLOVEさんのは、一応見ようかな」
ファンレターを受け取り、恐る恐ると言った様子で中身を読み出す村田。
そして、手紙を読み終わった後、いつもどおり彼は机の上に突っ伏していた。
「こ、今週は何が書いてあったんですか?」
恐る恐る事務員さんが聞くと、村田はスッとファンレターを差し出してきた。
世界一素敵なシャイニング村田さんへ
こんにちは!シャイニングLOVEです。今週の村田さんもすっごく素敵でした!今週から登場の時に口上をするようになりましたね!中二病かよってくらいださい口上と、口上に似合わない地味な戦闘、そして必殺技がないゆえに冴えないトドメのさしかた。全てが完璧に噛み合って地味さとだささが倍増されてました!ネットでは口上ださすぎwwwとか、ヒーローというより格闘家路線で行くべきといった声もありますが、私はすごくすーっごく素敵だったと思います!!ださい口上も!ヒーローらしからぬ戦い方も!大好きです❤️
これからも頑張ってください!!
「毎度毎度思うんだけどさ……この人僕を傷つけようとしてない?」
「あ、いや……でも、毎週欠かさずファンレター送ってくれてるんですから間違いなく応援してくれてるはずですよ!」
「そ、そうだよね……。あ、僕はそろそろ帰るね。田中さんもその仕事片付いたら帰ってね」
そう言い残して村田は事務所を出て行った。事務所には事務員の田中だけが残されていた。
「村田さん……凄く強いのになぁ……。」
彼の呟きは空気中に消えていった。
シャイニング村田。怪人討伐数は他のヒーローと比べても圧倒的に多い。だが、人気ランキングは万年下位をうろつき、戦い方が教育に良くないという観点から去年には遂に最下位になってしまったヒーロー。
彼の願いは2つ。
平和な世界と……ほんの少しの人気を手に入れることである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます