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「……さん……ソフィアさん?」

扉の外から呼ぶ声が私を世界に連れ戻す。

「んっ?……う〜ん……」

瞼のわずかな隙間から、先を争い差し込む光に思わずきゅっと眉根を寄せる。

「いい加減起きてはどうですか?今日の日程始めますよ」

手のひらで目をごしごし擦る。

だんだんと目が慣れてきて、クローゼットやスツールの輪郭が定まってくる。

部屋の中はもうすっかり明るく、朝の匂いも無くなっている。

身をよじって仰向けになる。

見慣れた天井はまだ少しだけぼやけている。

私はそのまま瞳を閉じた。

夢の続きを見たかったから。


その夢がどんなものであったか、はっきり覚えているわけではない。

ただなんとなく幸せだったような、そんなこともなかったような、とにかくそっちにいた方がずっと良かったような気がする。

だからもう一度、もしかしたらそこに行けるんじゃないかと期待して……。

……駄目ね、やっぱり。

頭が起きてしまっている。

できないものはできないらしい。

小さく息をつき、両足で毛布を押しのける。

その足を揃えてまっすぐ上に。

「よっ!……と」

ベッドの外に振り下ろし、その勢いで跳ね起きる。

小さな窓を開け放ち、それから大きく伸びをすると、少し冷たいきれいな空気が身体じゅうを満たしていった。



「おはよ、せんせー」

欠伸混じりに階段を降りると、先生は本棚をはたいていた。

「おやおや、今日もお早いお目覚めですこと」

イタチみたいな顔をした私の先生は、少なくとも一日に一度毒を吐く。

もふもふとした白い毛並みといつも閉じている目のせいで、見た目はちょっとかわいいのに。

「ほら、とっとと着替えてください。リベルくんが待っていますよ」

テーブルにはきちんと畳まれたさらしやローブが積まれている。

「せんせー、ごはん、私のごはんは?」

先生はくるりと振り向き、思い出したように櫛を飛ばして、

「忘れたとは言わせませんよ?約束した日から数えてちょうど二十回目の寝坊です」

それからこれ以上ないほど皮肉っぽい笑顔を見せて、

言い出したんですからね?」

「うぐっ……」

毎朝早くに起こされるのを嫌って、起きる時間についてあれこれ言わないでほしいと私は先生に注文していた。

その代わりに、その日の日程に支障を来たすほどの寝坊を二十回繰り返したら、それから二十日間は朝ごはんを用意しなくてもいいと豪語したのだ。

そのときはすぐに二十回も寝坊することはないだろうと、そのうち先生も忘れるだろうと見積もっていた。

……たったの二十九日で見事達成することになろうとは、全く思っていなかったのだ。

「本当に用意してないの?」

「ええ、もちろん。私とリベル君の分しか作りませんでした。起きてくるはずがないとわかっていたので」

「……いじわるだ」

いっつもそうだ。

先生はいつもひとこと多い。

私が先生のところに寝泊まりするようになったころ、つまり私に物心がついたころには、先生の嫌味は達人の域に入っていた。

私が何かやらかすと、取り乱したり怒鳴りつけたりはしない代わりに、さらっと笑顔で毒を吐くのだ。

私も私でバカだから、それにいちいちイライラする。

先生は私の親代わりでもあって、私は両親を見たこともないし、親というものをよく知らない。

町で見るような微笑ましい親子も、家ではこんなふうなのかしら。

「何とでも言ってもらって構いませんが、手は動かしてくださいね。いつまで待たせるつもりですか?」

その言葉の辛辣さとは裏腹に、先生の口調は穏やかで、決して笑顔を崩さない。

「はいはい、わかりましたよ……っと」

ヒノキの櫛をローブにほうって寝巻きを雑に脱ぎ捨てる。

逆立ったぐしゃぐしゃの髪が鬱陶しくて、私は思わず顔をしかめた。

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