春風便り

 木の葉が舞う、飛ぶ、舞い上がる。『届けなくちゃ』言葉の使命で空を飛ぶ。冷たい風に包まれ、小さな木の葉が包みゆく。広げた手を伸ばすように、前へ。大地の落ち葉の仲間と休み、大木の枝にお邪魔して方角を確かめ。日が昇り、月が昇りを繰り返し、やがて小さな村に来た。木の葉は精魂尽き果てたように、村人の女性の頭で休む。


「懐かしい」


 戦争に行ったあの人。君の小さな手と似てると言った、モミジの葉。辺りにモミジの木などない。


「もう少しだけ待ってあげますか」


 そのうち春がやって来る。彼の軍靴の音連れて。『届けたよ』恋人達の逢瀬に立ち合っていた風は、ヒュルリヒュルリとさえずった。



Twitter300字企画第二十回お題より……「風」(本文295字)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る