第182話 下級神

それは亜空間に浮かぶ煌びやかな神殿だった。

何かの力に護られているらしく、心の城ハートキャッスルではある程度しか近寄れなかった。


賢者シシルルアは歓喜の声をあげる。


「やったじゃないタケル!」


「うん。みんなのおかげだ……。でもな、遠すぎるんだ」


その距離10万キロ。


「城の飛行速度では数100日かかりそうだ」


魔拳士アンロンは気楽に笑った。


「城には食料がたっぷりあるし、気楽な旅を続ければいいあるね」


「そうもいかなくてな。実は、城の食料はイメージに過ぎないんだ。みんなのイメージが城を生成する時に具現化しただけにすぎん」


「え!? でもでも、みんなで工芸茶を飲んでミルフィーユを食べたある!」


「うん。あくまでイメージだから、食べた気になっただけだ」


「そういえば…………」


アンロンはキュルルと鳴く腹を抱えた。


「お腹空いたあるぅうう」


こうなれば、一旦アーキバ国に帰って食料を調達してから再び亜空間に入るしかないか……。


ママジャン王国の姫、マーリアはアスラの遺体をカースブリザードで冷やしながら眉を寄せた。



「タケル様! アスラの指先が砂になっています!!」


「……これは!?」


アスラの指先が徐々に風化してきている。

どういう現象なんだ?


テラスネークを見るも首を振るだけ。


彼女にもわからないとなると厄介だな。


賢者ヤンディは目に涙を溜めた。


「残酷斬の影響かもしれない……。命を削る大技だと言われていたから」


なるほど。俺の限界突破と同じように、奴も命を削っていたのか。

そうまでして俺達を助けてくれるなんてな。なんとしてもアスラを助けてやりたい。



「風化の状況から想像するに、保って数時間といったところか……」



やれやれ。10万キロを数時間で移動する方法か。

亜空間に地面は無いからな。神速で走ることは不可能だ。

闘神化アレスマキナ飛翔の飛行時間は10分程度。とても保たない。



「ねぇねぇタケルゥウウ。ブラフーマ様の神殿ってさ、私にも見えるかなぁ?」



転移魔法使いのユユが俺の袖を引っ張った。



「お前に触れれば、俺の心の城ハートキャッスルの力は共有できるが……」


そうか!!


「ユユは見た場所に転移できる!!」


「うん。見れればね」


俺は早速彼女の肩に手を置いて心の城ハートキャッスルの力を共有させた。


「見えるかユユ。あれが神殿だ」


「うん大丈夫! 距離感もわかるし、転移できそうだよーー」


俺はユユの頭を撫でた。


「えへへ。もっと撫でてぇ〜〜」



俺達を収納した心の城ハートキャッスルはユユの転移魔法によって、10万キロ離れた場所へと転移した。



◇◇◇◇



俺達の目の前には立派な神殿が見える。


入り口には門があり、その前に立つとギギギと音を立てて開いた。


どうやら俺達の存在には気づいているみたいだな。

お香の匂いが凄い。まるで寺院に入ったみたいだ。


「綺麗な建物あるねぇ。色使いも鮮やかあるぅう」


朱色をベースに黄色や緑が入っているな。カラフルな神殿だ。




「ほぉ……。こげな所に人間が来るとはな。100万年振りだべか」




それは野太い男の声だった。

身長は5メートル、顔は象、身体は人間。格好は、この煌びやかな神殿に不釣り合いなボロボロの作業服である。

大きな鍬を持ち、長靴は泥だらけだった。


……ブラフーマ様じゃない。ここはあの方の神殿ではないのか?

それに、なんだこの格好は??


勇者グレンは剣を抜いた。


おいおい。


「出やがったなバケモンがぁ! 丁度、腹が減っていたんだ、象の肉のフルコースといこうじゃねぇか!!」


見た目で判断するなよ。


「だりゃぁああああああああああ!! ブレイブスラッシュッゥウウウウ!!」



ペシン!



象の顔をした者は、指でグレンを弾いた。まるで服に付いた小虫を弾くようである。

グレンは10メートル吹っ飛んだ。



「あぎゃぁあ!!」



やれやれ。みんなも呆れてるし、あいつは放っておこう。

それより、いきなり来て斬りかかった無礼を詫びる方が先だな。



「いきなり仲間が斬りかかってしまい。申し訳ありませんでした。俺の管理不行き届きです」



象の顔をした者は、俺とテラスネークをマジマジと見た。



「ふむ……。おめぇ達……。神の子か?」


「お、俺達を知っているのですか!?」


「あーーーー。おめぇは……。この臭い。アーレスだ! 闘神アーレスディウス。そんで、そこの女は……。蛇臭いからグンダーリ。蛇神グンダーリだろ!」



俺とテラスネークは顔を見合わせた。


この人は何者なんだ?

いや、そもそも人なのか?

……相手の名を聞く時は自分からが礼儀だな。


「俺はスタット王国の城兵、タケル・ゼウサード。こっちはテラスネークの化身です。あなたはなぜ俺達のことを知っているのですか?」


「オラは象神ガネンジャ」


象神だと!?

つまり、象の神様!?


ガネンジャ様は屈託なく笑った。



「オラがおめぇ達のことを知っているのは当然だで。なんせおめぇ達の親神と同じ下級神だっぺなぁ」



親神……下級神。

つまり、俺が胎児の時に聞いた声の主、闘神アーレスディウスは俺の親の神。

下級神とは、その名の如く、神の中でも最底辺のランクということだろう。



「アーレスもグンダーリも1億年以上会ってないかもなぁ。ダハハハ!!」



この方は、下級神だから俺達の親神と知り合いなんだ。

なら、色々協力してくれるかもしれないぞ。



「ガネンジャ様。俺は聖剣クサナギを求めて維持神ブラフーマ様を探しています。どこにいるか知っていますか?」


「ブラフーマ様は最高神だっぺ。おめぇ達が簡単に会える存在じゃないでよ」


「それでも会わなければならないんです──」


俺はガネンジャ様にアスラを生き返らせる訳を話した。

ガネンジャ様は長い鼻をゆっくりとくねらせる。



「なるほどの。地神ガイアナの子を蘇らせたい訳かの」


「そうです。その為にも聖剣クサナギが必要なんです」


「ほんならよ。ちぃーーとばかし待っといてくんろ」


ガネンジャ様はそそくさと鍬を持って奥の建物に消えた。

暫くすると立派な甲冑をまとって現れた。


「最近はじゃがいもの収穫時期でよ。いつもはこの綺麗な格好なんだべさ」


なるほど。畑を耕していたのか。

神様でも人間らしいことするんだな。


「丸るい身をゴロゴロ付けてよ。湯がいて食べたら美味いんだ!」


じゃがいも栽培か……。懐かしいな。


「花、咲きましたか? 真ん中が黄色くて綺麗な花」


「おお。咲いた咲いた! めんこい花がよぉ」


「ははは。俺、じゃがいもの花が結構好きなんです」


「ぬほほ! そりゃあ気が合うぞい。オラはじゃがいもの花さ見て酒を飲むのが好きなんだっぺ」


ふふふ……。この神様はブラフーマ様と似てて、温かい神様だな。

はっきりいって好きだ。


俺達はガネンジャ様に連れられて神殿の広場へとやって来た。


「この神殿はな、神界域と人間界を繋ぐ出入り口なのよ」


ほぉ……。俺の闘神化アレスマキナは神界域の力を俺の体内にめぐる神血線とリンクさせる技だ。つまり、ここは人間界と神界域の中間地点なのか。

しかし……。

こんな所にブラフーマ様がいるのだろうか?


俺達が辺りを見渡していると、ガネンジャ様は腰に付けていた大きな棒を取り出した。棒の先には鎖りが付いており、その先には大きな鉄球。それがドシンと音を立てて落ちると床に大きなひびが入った。


ここの床は、あのアリアーグの地下と同じ材質のようだな。

神の創時器デュオフーバ マーダーでも傷がつかなかった硬いものだ。

そんな床に軽く落ちただけでひびが入るなんて、相当な武器だぞ。

確かモーニングスターって種類だ。

そんな武器で何をするのだろう?





「オラを倒してみな。そしたらブラフーマ様に会わせてやるだよ」





やれやれ。あんな鉄球を一撃でも受ければ即死。

とんでもないことになったな。

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