第162話 最強の夫婦


テラスネークは500年前の話を始めた。


『人間の中に凄まじい力を持った者が現れました。その者らは夫婦だった。夫は聖剣クサナギを持ち、妻は神の創時器デュオフーバを持っていた』


夫婦で神の武器を所持していたのか!

つまりゼノの出す試練を2人で超えた訳だ。 

なんだか凄い話だな。


『2人は【最強の夫婦】と呼ばれ、人々から恐れられていた。その目的は人間を大量に殺すこと。自分達だけの世界を築こうとしたのです』


最強の夫婦か……アスラと似ているな。


「じゃあ、テラスネークはそれを阻止しようとしたんだな」


『そうです。私は2人と戦った。最強の夫婦は兵士を大勢連れていましたから、それはもう壮絶な戦いでした。そして、私が勝った』


勝ったということは、つまり、凄惨な戦いだったのだろう。人の命を奪ったことが、思い出したくもない過去だったのだ。

彼女の悲しい目がそれを物語っている。


『神の武器は所持者を失い消滅しました』


なるほど、だから神の武器を知っていて、3つ目の武器は知らないのか。

3つ目の条件は神の子を3人集めること。500年前は俺とアスラはいなかったから武器は手に入らなかったんだ。


『戦いに勝っても空天秤は残りました。そして、最強の夫婦には子供がいた』


子供だと?

やはり、相当な力を持っていたのだろうな。


テラスネークの言葉に、みんなは驚きを隠せなかった。


『子供は人間を超える力を身につけていました。やがて、既存の魔王を吸収して新たな魔王になったのです』


「つまりその魔王は?」


『そうです。あなたが倒した魔王です』


その魔王を勇者パーティーが倒そうとしていた訳か。


『私は……。魔王を止めることができなかった』


彼女は項垂れ、その目は泣いていた。

誰もが言い出せなかった言葉を、グレンが呑気に口にする。


「魔王を殺せば、人間は死ななくなって空天秤が落ちるかんな。魔王が活動してる方が都合が良いよな」


やれやれ、なんてデリカシーの無い奴だ。彼女の空気を察してやれ。人を護れる力を持っていながら、魔王を見過ごすなんて、きっと罪悪感にさいなまれたことだろう。


俺はギロリとグレンを睨みつけた。


「な、なんだよその目は……。あ、当たり前のことを言っただけだろ」


僧侶リリーはため息をついた。


「だから、グレン様は女の子にモテないんです」


「それとこれとは話しが別だろうがぁああ! てか俺はモテるぅううう!!」


テラスネークは遠くを見つめた。




『もしも、再び、空天秤を止めることができなければ……。アスラを魔王として容認し、世界を救うしかないのです』




この残酷な現実にみんなは言葉を失った。

俺は鼻で嘆息。






「断る! そんな世界は認められない」





アスラが人を殺め、その糧で生き延びるなんて最悪な未来だ。

とても容認できん!


みんなは俺に注目した。






「必ず変えてやる。空天秤を消滅させて、みんながお茶をゆっくり飲める世界にするんだ!」






グレンは立ち上がった。




「そうだぜ!! タケルがいればなんとかなる!! 希望が出てきたぜぇええ!!」




みんなは呆気に取られた。

シシルルアはニタニタと笑う。



「あらぁ? グレン様はタケルのことがお嫌いじゃなかったんですかぁ?」



グレンは真っ赤な顔になって汗を流す。



「は!? べ、別にいいだろ!! 今は世界の危機なんだからよ!!」



会議室は笑いに包まれた。







◇◇◇◇






翌日。







ーーアリアーグーー



街の中央。



教会跡地、地下への入り口付近。



俺達は昼前から集まった。

テラスネークは1キロメートルもある体長なので街に入るのが難しい。だから、スキル蛇神化スネクマキナ分体を使って馬のような大きさになっていた。



リリーは不安が隠しきれない。

分体に話しかける。



「昼過ぎには試練が始まってしまいます。過ぎればチャンスを失うんですよね?」


『そうです。今日を逃せば、100年は受け付けない。管理人ゼノに会うことはできません』


「ぜ、絶対に、神の子3人が揃わないといけませんね。本当にアスラは来るんでしょうか?」


『……タケル、あなたを信じてもいいのですか?』


俺はコクリと首肯する。


「アスラは必ず来る。奴は、俺の心の城ハートキャッスルに太刀打ちできないことに我慢ならないはずだ。俺に勝つには最後の武器を手に入れるしか方法はない」


だから……必ず来る。


魔拳士アンロンは遠くを見つけた。



「師匠! あれ! あの塔の上に人がいるある!!」



一同は高い塔に注目した。

そこには男が腕を組み、こちらの様子を探っていた。


神眼を使うまでもないな。

間違いない、アスラだ。


妻達はアスラが来たことを喜ぶも、その殺気に汗を垂らす。

やはり、気を許せる存在ではない。



場が騒然とする中、アスラは神樹を使って凄まじい速さでここまで飛んできた。




「ふん……! また会うことになるとはなぁ」



俺は笑う。



「必ず来てくれると思っていた」


「勘違いするなよタケル! 貴様の為に来たんじゃない!!」


「わかっているさ。最後の武器を手に入れに来たんだろ?」


「そうだ。まだ少し時間があるだろう」


「腕ずくでものを言わすか?」


「チッ……!! いい気になりやがって!! 貴様の心の城ハートキャッスルと俺の神の創時器デュオフーバは相性が悪い。勝負にならんのはわかっているだろう」


「ならどうするんだ?」


アスラは不敵に笑った。

それは勝算があるように。




「条件がある」




交渉の時間が始まる。

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