第163話 アスラの算段
アスラは勝算があるようだった。
嫌な予感がする。
「タケル。お前は全員を護ると言ったな」
「ああ、俺は本気だ」
「ククク……。ならアレが見えるか?」
アスラの後方100メートル先。
そこには神樹が50メートル以上縦に伸びていた。
その先端には球体が付いており、それも神樹によって形成されているようだった。
なんだあれは?
スキル
球体は檻のようになっており、そこには大勢の人間がぎゅうぎゅうに詰め込まれて収監されていた。
助けを求めるうめき声がここまで聞こえてくる。
アスラは俺の顔色を見て嬉しそうに笑うと、手の平を俺の方へ向けた。
「クク……。つまらん奴隷どもだ。あいつらの命は俺が握っている。俺がこの手を握れば、連動して神樹は奴らを潰す」
「ふぅ……」とんでもないことになったな。
アスラの隙をついて神速を使えばなんとか救えるかもしれないが、
そうなると
「貴様の能力、
グレンは飛び上がった。
「てめぇ! 負け惜しみ言ってんじゃねぇ!! タケルの
「ククク……。昨日見た限りでは無敵に思えた。が、所詮は人間が神の武器を使っているに過ぎん。万能ではない」
アスラの確信……厄介だな。
「
グレンは眉を寄せた。
「目視ぃぃいい!? どういうこった??」
「ククク……。大サービスだ。みんなにもわかるように噛み砕いて説明してやろう。タケルの
「んなこたぁ、みんなが知ってるこった。目視の説明をしやがれ!」
「フン……。貴様の空っぽの脳みそでもわかるように説明してやる。
「なんで、おめぇにそんなことがわかんだよ! あと、俺は空っぽの脳みそじゃねえ! コンビーフみたいに詰まってる!」
「考えてもみろ。人間の体の中に城を出現させれば破裂して即死だぞ。必ず城の内部に人を収納しなければならないのだ」
「ひ、ひぇええええ! た、確かに。闇雲に城を出して、その壁の部分に人がいたら大変だ!! 空いた空間を把握してないと人を殺してしまうかもしんねえな」
「そうだ。だから、ある程度、開けた場所。もしくは完全に空間を把握できる場所にしか力を使えないのだ。まぁ、俺レベルの戦闘能力を持った存在ならば城が出る前段階で空間の違和感を感じとって避けることができるがな。常人には不可能だ」
やれやれ……。とんでもない分析能力だな。昨日、少し見ただけでここまで見抜くとは。
アスラの言うとおりだ……。あの神樹の球体。中がわからない限り城を出すことができない。
たった一晩で、
「ククク……。どうだぁタケルゥウ。あいつらの命を護りたいかぁああ?」
「つまり、人質か」
「そういうことだ! あいつらを助けたかったら俺の要求を飲め!!」
こいつの目的といえば1つしかないな。
「俺に最後の武器を渡せ!!」
…………アスラに武器が渡れば皆殺しだ。世界は終わる。
だが、従わなければあの球体の中にいる人々の命がない。
グレンは顔を真っ赤にした。
「アスラァアアこの野郎!! 昨日、タケルに命を助けてもらったんだろうがぁあ!! 恩を仇で返すなんて酷すぎるぞゴラァアア!!」
「フン……! 誰も助けなんか要求しなかった。奴が勝手にしたことだ。俺を生かしたことを心から後悔させてやるぅうう!!」
「クゥーーーーッ!! 人でなしぃいいいッ!!」
最後の試練が始まるまで、1時間弱といったところか。
フ……それだけあれば十分だ。
一秒でも俺に考える猶予があれば勝率は0じゃない。アスラは一晩でこの作戦を考えたようだが、俺は1時間足らずで打開策を見つけてやる。
アスラの好きにはさせん。
時間は昼を過ぎ、地下へと続く扉が開いて管理人のゼノが現れた。
「クハハ! 観念したかタケル!!」
「そうかもな」
「……最後の武器が
「…………」
「もう一度チャンスをやろう」
「チャンス?」
「俺の奴隷になれタケル。2人で世界を創るんだ。何者にも邪魔されない理想の世界だ」
2人で世界を創る?
以前の奴なら、1人にこだわったはずだ。
「どうしたんだアスラ。随分、考えが変わったな」
「フン! 何も変わっちゃいないさ。俺が最後の武器を手にすれば人間を大量虐殺するんだからな」
「やれやれ、そんな世界より。ゆっくりとみんなでお茶を飲む世界の方が楽しいと思うがな」
「お茶だと!? くだらん!!」
「俺の妻達は、お茶になると梨と林檎のパイを焼くんだ。林檎には隠し味で塩が入っていてな、パイ生地にはバターがたっぷりと入っている。香ばしくて甘くて、いくらでも食べれるんだ。みんなで集まってその日に起きた出来事を語ってな。他愛無い話しさ。でもな、それが最高なんだ。お前も一緒にどうだ?」
「俺がお前達とパイを食って茶を飲むのか!? フン! くだらん。それなら親方に殴られていた方がマシだ」
「親方? 誰だそれは?」
「俺が掃除人をしていた時のクズさ。もう殺したがね」
気に食わない存在は殺すか……。
アスラの人間関係は殺伐としているな。
折角、神のカリスマを持ち、周囲から好かれる存在だというのに、どうしてこうも情が無いのだ。
そういえば……。
「……仲間の女賢者。随分とお前にご執心だが? お前も世帯を持って落ち着いたらどうだ? きっと考えが変わるぞ。命の大切さもわかるはずだ」
「フン……! くだらんな。お前の話しは本当にくだらん。会話するだけ時間の無駄だ」
時間の無駄か……。まぁ、俺はそうでもないがな。
管理人ゼノは俺達3人を見つめた。
いよいよ、最後の武器が手に入る。
俺はテラスネークに心で合図を送った。
『安心してくださいタケル。指示通り順調です。スキル
管理人ゼノは空を見上げる。
「集いし、神の子らよ。最後の試練を始めよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます