第147話 方法

アスラは眉を寄せた。


「強がりを言うな! 神の創時器デュオフーバに手も足も出んではないか!!」


確かに、神の創時器デュオフーバは強い。流石は神の武器だ。

しかしな、今のこの環境はベストではないのさ。


俺はこの場所の管理人ゼノを見つめた。


「おい。このまま戦っていてもいいのか?」


ゼノは顔色を変えず答える。



「今、止めようとしていた」



アスラは眉を寄せた。


「何!? 貴様、俺に歯向かう気か!? お前は人類の敵なのだろう!?」


「私はこの場所の管理人。それ以上でも以下でもない。ここの保善が私の勤め。お前は地上で暴れるがいい」


「フン……。最もらしい理由を並べやがって癪に触る奴だ。ここの光る壁は随分と頑丈じゃないか。破壊しているのは石化した人間の壁だけでこの場所を作っている壁には傷一つ付いてないぞ」


「ここは創造三神が造られた場所だ。頑丈にできているのさ。お前は神の武器を手にした者だ。多少の狼藉はサービスで許してやろう。さぁ、地上に戻るのだ」


ゼノが両手を掲げると天井には大きな魔法陣が現れた。

転移魔法使いのユユはダボダボの法衣をバタつかせる。


「タケルーー。20メートル以上ある相当凄い転移魔法陣!!」


転移魔法はSランクの高等魔法だ。

それを軽々とやってしまうなんて、ゼノは只者ではないな。


アスラを見やると、つまらなさそうに目を細めるだけだった。奴なら簡単に魔法陣を消せるばずだ。しかし、神の創時器デュオフーバを使わない。このままゼノの指示に従うつもりだな。

下手な行動は石化に繋がるかもしれん。懸命な判断だ。


さて、問題はここからだ。

確認したいことが2つある。

転移する場所と武器のことだ。


まずは場所。

地上に転移といってもアリアーグを破壊されるのはゼノにとっては遺憾だろう。

この場所の遠くに見える祭壇にはお供え物がある。あれはアリアーグの信者から貰った物だろう。教会の地下に設置されたこの場所はアリアーグの信者と深く関わりがあるのだ。


「ゼノ。俺達をどこに移動させるんだ?」


「アリアーグの山岳地帯に移してやる。そこは岩山ばかりだから、何気兼ねなく十分に暴れられる場所だろう」


やはり街から離した。


俺は大きな声で喜んだ




「そうか! アリアーグの山岳地帯に転移するのか! そこなら街を壊さなくて済むな!!」




アスラは笑う。


「フン! 街の心配より自分のことを心配したらどうだ? 場所を移った所でお前達の敗北に変わりはない。死ぬ場所が変わっただけだ」


ユユはアスラの言葉に目を細めた。


さて、まだ確認することがある。

最後の質問だ。




「ゼノ。あと2つの神の武器はどこにあるんだ?」



俺の言葉に場は凍る。

アスラは叫んだ。



「何ィイッ!? 神の武器がまだあるだとぉ!?」



神の創時器デュオフーバは創神ヴィシュヌバールから渡された武器だ。

創造三神はあと2人いるから、まだ2つあっていい。

維持神ブラフーバと破壊神シバの武器。


ゼノは無表情ながらも、少しだけ口角が上がったように見えた。それは、よくぞ気がついた、と称賛するようにも見える。


「明日。同時刻にこの場所。維持神ブラフーバが神のカリスマを持つ者に武器を与える」


思ったとおりだ。

やはり神の武器は3つある。

そして、場所は全てここ。ゼノはここを創造三神の作った場所と呼んでいた。つまり、この場所で条件を満たせば3つの武器が手に入るんだ。


「凄いです! 神の武器がまだあるなら神の創時器デュオフーバに対抗できるかもしれませんね!」


「しっかしリリーさん! 転移した場所で逃げれんことには、その山岳地帯でアスラに殺されてしまうぜよ。神の武器が手に入るのは明日なんじゃろう?」


「そ、そうでした……。うう……」


アスラは勝ち誇ったように笑う。


「フフン! 山岳地帯で岩山に隠れて逃げるつもりだろうがそうはいかんぞ。移動した瞬間に岩山諸共、お前達を消し去ってくれる!」


「さ、さっきは1分くれたじゃろうが! 山岳地帯でも1分くれぇいッ!!」


「フン。見晴らしのいいここと、複雑な地形の山岳地帯とでは訳が違う。隠れられたら厄介だ。移動した瞬間に即座に攻撃する」


「そんなぁ〜〜。おんしに情は無いんかぁ!?」


「無い」


「ビビージョォオ、おいの彼女として、そいつに助言してくれぇえ!」


ビビージョは全身を赤らめた。


「バ、バカッ!! 誰がアンタの彼女でありんすか!! 死ね死ね! 今すぐ死ね!! アスラ様にぶっ殺されろ!!」


「なんちゃあ! そげな冗談笑えんちゃよぉ! まだおんしと酒も飲んどらんのに死んでたまるかぜよ!」


「さ、酒なんかアンタと飲まないでありんす!! 死ね死ね!」


「怒った所も可愛いぜよ♡」


「バ、バカァァア!!」


ゼノは再び両手を掲げた。

空間全体が光りに包まれる。

天井に見える大きな転移魔法陣に吸い込まれるようだ。


「さぁ、話しは終わった。2つ目の武器を求めるならば明日来い。来なければ100年ここへは入れないぞ」


明日を逃すと100年チャンスは来ないのか。明日、同時刻。方法は……。


「最後に教えてくれ。神のカリスマは今日やったみたいに数値を測るのか?」


「そうだ。より多くの数値を持つ者に神の武器は与えられる」


俺達が光りに包まれる中、アスラは笑った。


「そんなことを聞いても無駄だぞタケル! お前達に明日は来ない! 移動した瞬間に俺に殺されるのだからなぁ!!」


「…………」


俺達は転移魔法陣に吸い込まれた。








◇◇◇◇




〜〜アスラ視点〜〜


ーーアリアーグ山岳地帯ーー



「タケル達がいない!? なぜだ!? どこに行った!?」


奴隷達は山岳地帯を隈なく探す。

美食ギルドのグウネルは汗を飛散させた。


「み、見つかりません」


移動した瞬間に神速で移動したのか?

女のガキ2人に男1人。それらを即座に??


……考えられん。

転移魔法に個別のタイムロスは無かった。

全員が同じタイミングでこの場所に移動させられたんだ。にも関わらず、タケル達の姿がない。


……なぜだ?

一緒に転移したはずなのに……。

転移……。

転移魔法……転移魔法使い。



「そうか! タケルの仲間のガキ! あのダボダボ法衣のガキは転移魔法使いだ! あのガキが俺達が移動する際に何か細工をしやがったな!!」


しかし、どうやって??

……そういえば違和感があったぞ。

タケルの言葉。ゼノの対応に歓喜の声を上げていた。


『そうか! アリアーグの山岳地帯か! そこなら街を壊さなくて済むな!』


あんなセリフ、言葉に出さなくてもいい事だ。あきらかに俺が反応する内容。俺を焚き付けることで、街を壊す可能性が出てしまう。だから、本来ならば、心でそっと安心する事。なのに声に出した。しかも、大きな声で……。


「そうか……時間稼ぎか!! 転移魔法陣に細工する時間を稼いだんだ!!」


あの転移魔法使いのガキに聞こえるように声を出した!

ゼノの転移に混ざって、あのガキは転移魔法を使ったんだ! 


思えば、あの着物を着た男の話しも嘘臭かった!

山岳地帯に移動したら負けてしまうことをひたすらアピールしていたように思える! あの演技も転移魔法使いのガキに細工をさせる為の時間稼ぎ!


タケル達は違う場所に転移している!!


ダボダボ法衣ですっとろいガキだと思っていたが侮った!!


奴ら、俺から……俺から逃げやがった!!


「クソがぁぁああッ!! 俺は神の創時器デュオフーバを手に入れた最強の存在なんだぞぉおお!!」

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