第145話 グレンの選択

この場所の管理人ゼノはゆっくりと説明した。


「神のカリスマは、この場にいる全ての人間に適応される。先程の戦闘で活躍した者が選抜される。その者の頭上には数値が現れるのだ」


俺とアスラの頭上には大きな数値が現れた。『0』と表示されている。


この数値を上げるのが試練なのか?


アスラは眉を寄せた。


「神のカリスマの説明をしろ。何を、どうすればいいのかさっぱりわからん。間違えて石化されてはたまったもんじゃない」


ゼノは相変わらず無表情である。


「安心しろ。今回の試練に石化はない。負けた者は武器を手に入れることができないだけだ」


武器を手に入れれないのは、こちらにすれば死活問題だ。

なんとしても手に入れたい。


ゼノは続けた。


「神のカリスマとは、その者が持つ、他者からの信頼であり、愛である」


「信頼と愛ぃい? ……つまり、俺が奴隷達から好かれているかどうかってことか? しかし、そんなモノどうやってわかるんだ?」


「カリスマは数値化される。頭上の数値を最も高くした者が、神のカリスマを持つことになる。すなわち神の武器を手に入れることができるのだ」


「……フン。おかしな計測方法だな。他人がいないと成立せんのか。では単独で武器を取りに来た者はどうなるんだ?」


「神の武器を1人で取りに来る者などおらんさ。みな、部下や仲間を連れてくる。神の武器とはそういう物だ」


アスラはつまらなさそうに嘆息。そっぽを向いた。


さて、厄介なことになったぞ。

要するに、仲間に好かれていることが数値化されて、その数値が高い者が神の武器を手にするということだ。


全体の把握をしよう。

俺の仲間は、僧侶リリー、獣罵倒士ビーストスランガー虎逢真、転移魔法使いユユ、元勇者グレンの4人だ。

一方、アスラの仲間は、賢者の女、クノ一、美食ギルドのグウネル、元勇者グレンの4人。

ここでキーになって来るのはグレンだ。こいつは俺とアスラ、双方の仲間ということになっている。グレンがどちらに信頼を置いているのか、それによって数値が決まってしまうのだ。

同点はあるのだろうか?


俺の疑問に答えるようにゼノは付け加えた。


「同点はない。想う力が強い方が点数に加点される」


そうなると、グレンが、俺とアスラ、どちらを信頼しているかによるな。

つまり、グレンの動向で神の武器を手に入れれるかが決まってしまうのか。

やれやれ、こいつがこんな重要な存在になるとはな。


ゼノは両手を天に掲げた。



「さぁ、神のカリスマを量る時間だ」



その言葉と同時に、辺り一面は光りに包まれた。


仲間達は声を上げる。


「私はタケルさんのことを想ってます!!」


「ユユは、タケルのことは大事な仲間だと想ってる! そ、それ以上かもだけど……」


「タケルは仲間ぜよ! 応援するんは当ったり前じゃあ!」


その瞬間、俺の頭上に浮かんだ数値は『3』を記録した。3人が俺を信頼し、愛してくれたので数値化されたのだ。


アスラ軍の仲間達も声を上げた。


「わ、私にはアスラ様しかいません!」


「あちきもアスラ様推しどすえぇ!!」


「アスラ様に忠誠を誓います!」


アスラの数値も、俺と同じく『3』を表示した。


「迷っている者がいるな……」


やはりこうなるか……。


ゼノはグレンを見つめた。


「へん! まさかこんなチャンスが到来するとはな!」


グレンは勝ち誇った顔で俺に向かって笑みを見せる。


やれやれ、とんでもないことになったな。


「グレン、よく考えろ。アスラが武器を手にすれば、この世界は終わる。人類はみんな、奴の奴隷になってしまうぞ。それでもいいのか?」


「俺はアスラ軍の参謀なんだ。毎日、美味い物を食べて、女は抱き放題。こんな身分を手放すと思うか!?」


「そんな人生を求めていたのか?」


「……ぐぬ。う、うっせぇな。俺の人生に貴様がとやかく口を出すんじゃねぇ!」


「お前は勇者じゃなかったのか? 人類を救う存在になるんじゃなかったのか?」


グレンは絶叫した。


「うるせぇうるせぇ!! 俺は勇者じゃねぇ! 人類の救済なんてクソ喰らえだ!!」


グレンの全身からは汗が滝のように流れ出ていた。

歯噛みした唇からは血が流れる。



「俺は……。俺はアスラ様の奴隷だ!」



グレン……バカな奴。


その瞬間、アスラの数値は4を記録した。



「やった! タケルに勝った!!」



辺り一面は暗闇に包まれる。

部屋の中央部分だけが光り、そこから身の丈30メートルを超える女性が現れた。



『我が名は創神ビシュヌバール』



テラスネークと同じく、心の声が頭に響く。

創神ビシュヌバールといえば、この世界を作った創造三神の1人だ。

実体なのだろうか。幻影にも見える。


その声は場にいる全員に聞こえた。



『神のカリスマを持つ者よ。お前に武器を授けよう』



そう言うと、ヴィシュヌバールは砂となって消えた。


アスラは、煌びやかな杖らしき武器を持っていた。



「おお! こ、これが……」



神の武器か……。

やれやれ、最悪の事態になったな。


アスラは不敵な笑みを浮かべる。


「ククク……。なるほど、使い方は簡単だな。手にしているだけでイメージが脳に伝わってきてなんでもわかるぞ」


神の武器……。

一体どんな力なのだろう?

神樹箒ゴッドブルーム以上の武器だとまずい。できれば破壊だ。


アスラは一歩も動かずに、俺達に向かって杖を振り下ろした。

杖からは斬撃波動が発生し、俺達に向かって飛んで来る。


やばい!


俺は瞬時に神速を発動させて、仲間達を抱きかかえて斬撃波動から離れた。



ドゴォオオオオオン!!



斬撃波動は壁にぶち当たり消滅。

喰らえば即死かもしれないが、避けれない速さではない。それに威力もそれほどだ。


……神樹箒ゴッドブルームより弱い力かもしれないな。


神の武器だからと心配したが、この程度ならなんとかなるぞ。しかし、念の為だ。破壊しておこう。


俺は全身に力を込めた。

溢れ出る力が俺を中心に爆風となって吹き荒れる。



ドォオオオオオオオン!



「スキル闘神化アレスマキナ 限界突破!」



俺の身体は闘神と化す。

即座に高速移動。アスラの眼前へと到達。



「悪いが破壊させてもらう」



限界突破状態からの神腕の一撃。

しかし、杖に触れたのは通常の拳だった。



「何!?」



いつの間にか限界突破が解除されている!?



アスラは不敵に笑った。



「そんな攻撃じゃあ、俺の身体に傷一つ付けれないぞ」



再び杖での攻撃が来た。


まずい! 生身のままで喰らえば即死だ。


すかさず神腕を発動して杖の攻撃を受けた。闘神と化した腕は無傷だが、それ以外の半身はダメージを負う。


「ウグゥッ!!」


20メートル吹っ飛ばされるも、空中で姿勢を持ち直し着地する。

体の傷はかすり傷程度。大したことはない。がしかし……。


なんだ、さっきの現象は!?

限界突破が解除されていた。


危険を察知したユユは転移魔法陣を出現させた。


「タケルゥ! 一旦、引いて、作戦を立てよぉ!」


確かに……。

限界突破が解除されるのはまずい。

ここは一旦引いて作戦を立て直すのが得策か……。



「ああ! あああ……」



ユユは悲鳴をあげて震えた。



「て、転移魔法陣が……消えちゃったぁ」



やれやれ……。とんでもないことになったな。これは、おそらくあの武器の力だ。



アスラは眉を上げた。


「お前達はこの武器によって人生が終わるのだ。その名を覚えておくといい──」


杖を掲げる。



「これが神の武器、神の創時器デュオフーバだ!!」

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