第134話 最強の衝突

神樹箒ゴッドブルーム。俺が出せる最高の技だ」


アスラが手の平から出現させたのは、光るオーラでできた箒だった。

凄まじい力を感じる。

オーラはバチバチと稲光りを放っていた。

アスラとの距離は6メートルはあるだろう。にも関わらず、神樹箒ゴッドブルームが放つ稲妻に皮膚がビリビリと震えて痛かった。



「殺してやるぞ。タケル」



アスラは力を溜めるようにゆっくりと構える。

その構えは独特で、箒の穂先を下にしてそれを背中に隠すように引いていた。

忍者が刀を構える姿勢に似ている。

アスラは一歩も動かない。

その場から、穂先で空間を切り裂くように振った。



「喰らえ、神樹箒ゴッドブルーム、残酷斬!」



その穂先から稲妻を帯びた斬撃波動が発生。俺に向かって凄まじい速度で向かってきた。

地面をバキバキと裂き進む。



ブォオオオオオオンッ!!



「!?」



俺は即座に体をかわす。

神眼を使っても、速度がスローに見えない。


「凄まじい速さだ!」


過ぎ去った斬撃波動は大地を砕きながら、そのままアーキバの街に入って行った。


バキバキバキバキバキバキッ!!


それは留まることを知らない。

瞬きする間に街を切断。更に遠くまで進む。その跡は大地を分けた谷の様になって一直線に続いた。


俺を含め、場にいた者達は驚愕した。

あまりにも凄まじい斬撃である。

アスラ軍の仲間達ですら初めて見たようで、この光景に開いた口が塞がらない。


避ければ後ろが危ない。


瞬時に理解する。


俺は即座に何もない平野が続く場所を背にした。


「アスラ! こっちだ!」


アスラは不敵に笑う。


「俺が斬った跡は破壊しかない。民衆が絶望感に包まれる悲惨な光景が広がるだけ。それが神樹箒ゴッドブルーム、残酷斬」


この攻撃を受けてはダメだ。

神腕で受ければ、闘神化していない部位がふっ飛ばされてしまう。

だから、できる限り被害が少ない場所で避けるのが正解。神眼を使えばなんとか避けれる速度だ。


「タケル。被害を抑えて残酷斬を避けるつもりだな。……甘いぞ」


アスラは俺の考えを見透かすように後ろを向いた。


そっちは1万人の捕虜が住む穴。


まずい!


「埃は掃除しておかないとな。敵に捕まる奴隷などいらんのだ」


アスラは神樹箒ゴッドブルームを構えた。



「皆殺しだ」


「全員を守る!!」



アスラは嬉々として神樹箒ゴッドブルームを振った。


「綺麗にしてやる」


稲妻を宿す斬撃波動が箒の穂先から放たれた。



「 残 酷 斬 ッ !! 」



くっ!

そんなことはさせない!


俺は全身に張り巡らされた神血線に力を込めた。血流は限界を超え、魂の存在は神界域へと到達。俺の身体は闘神と化した。




「スキル闘神化アレスマキナ 限 界 突 破 !」




体内から湧き上がる凄まじい力が俺を中心に爆風を起こす。




ド ン ッ !!



身体は真っ赤なオーラに包まれて、高速で移動。

残酷斬の斬撃波動を受け止めた。


辺り一面を眩しい光りの点滅が襲う。

残酷斬と限界突破の力が衝突。その接触部分が光源となり頸烈な光を発する。そして、台風の中心とでもいうように爆風を発生させた。


場にいる者は、その眩しさと暴風に目を覆う。


味わったことのない凄まじい力を感じる。


限界突破をしているのにも関わらずこの力。

重い! そして腕が焼けるようだ。


しかし、それを真上へと放り投げる。

力を捻り出す為に絶叫した!



「ダァァァァァアッ!!」



ブォオオオオオオンッ!!



それは轟音と共に上昇気流を産んだ。


斬撃波動は大空へと飛んで行った。


1万人の命を守れたことに安堵。



「ふぅ……やれやれだな」



俺は限界突破を解除すると額の汗を拭った。余裕の無い必死な状態といえる。

にも関わらず、アスラはプルプルと震えていた。



「な……なんだとぉ? ざ、残酷斬を、う……受け流すだとぉ!? お、俺の最高の技が……」



現状を飲み込めないようだ。

俺だってそうだ。

ハッキリ言って余裕がない。こんな事は初めてのことである。思わず弱音が漏れた。



「消滅させたかったが、無理か……」



アスラは歯噛む。



「ぐっ……ぐぬぅ! な、なんだこいつは!?」



アスラの全身から汗が噴き出る。

まるで川にでも浸かったようにびしょ濡れである。


俺がアスラの動向を探る中、神聴力を働かせた耳に、20メートル離れたオータクの呟きが聞こえてきた。



「タケルは、限界突破のままアスラに攻撃を仕掛ければ勝てるんじゃないのか?」



この疑問に、妻である僧侶リリーが答えてくれた。



「そうもいきません。限界突破は命を削る最終奥義なんです」


「何!? そ、そんな危険な技なのか!?」


「はい……。タケルさんの話では、一生で1時間程度しかできないそうです」


「1時間……。だからすぐに元に戻るのか……。た、例えばだけど、1時間以上限界突破したらどうなるでござるか?」


「……す、砂になって消えてしまうそうです」


この言葉に、場にいる者は声を詰まらせた。

虎逢真はこの事実に我慢できなかったようだ。


「なんちゃぁ! タケルのバカチンがぁ! そげな無茶なスキルを使って1人でやるなんて頑張りすぎじゃあッ!!」


大きく飛び上がり叫ぶ。



獣罵倒ビーストスラング 岈破乗散放かばのさんぽぉおお!!」



虎逢真の両手から放たれた衝撃波動がアスラを襲う。獣罵倒ビーストスラングの遠距離攻撃である。



「タケル! 一緒にやるぜよ! おいはこんな悪い奴は許せんきに!!」



アスラは目を細めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る