第133話 最強 対 最強

〜〜タケル・ゼウサード視点〜〜


俺は神速を使ってアスラの眼前に立った。


戸惑うアスラ。


「な、なぜだ!? 神樹槌しんじゅづちを喰らって立っているだと!?」


俺は目を細めた。


「少し……本気を出そう」


「さ、さっきまで本気じゃなかったのか?」


「お前だって、そうなんだろ?」


「「 ……………… 」」


初めてだ。

人間相手に本気を出すなんて。


アスラは複雑な表情を見せた。

不服そうで、それでいてどこか期待が込められている。思わず言葉が漏れた。


「……こんな人間、初めてだ」


おっと、思っていることは同じか。

やれやれ、不毛な戦いはゴメンだな。


「こんな戦い。終わりにしよう」


俺の言葉に呼応したアスラは鼻で笑って一蹴。片手をかざした。



「お前が死んでハッピーエンドだ! 地神操作ガイアマキナ神樹槍!」



俺の足元から無数の樹が生える。

アスラは神樹と呼んでいた。



「無駄だ。神速!」



空間を引き裂くような高速移動。


ギュウウウウウウウンッ!


アスラは手の平から神樹のツタを出現させてそれを鞭のようにして攻撃。



「神樹鞭、連華ッ!」



鞭の連撃。

1秒間に1万発。

まるで風の微塵切り。

常人ならばキャベツのように細く切断されているだろう。


しかし──。



闘神化アレスマキナ神眼! 神腕!」



鞭の軌道はスローモーションに見える。

全て変化させた闘神の腕で受け止めることが可能。


さらに──。


闘神化アレスマキナ神聴力」


俺の周囲5キロメートルの音を察知する。視界の外で異変が起こっても対処可能。


地神操作ガイアマキナ神樹槌ッ!」


死角からの大きな神樹によるハンマー攻撃。


ブォオオオオオオンッ!!


神聴力にて察知済み。


「甘い。神速」


ギュウウウウウウウンッ!


超スピードでかわす。

当たらなければ問題ない。


瞬時にアスラの背後へと回った。


神腕の打撃。


「ハッ!」


アスラは神樹で作った分厚い壁を出現させた。


地神操作ガイアマキナ神樹防壁。貴様の技は俺に当たらん!」


バグンッ!


それは牛革ミットのように硬く、弾力性があった。


ふむ。神腕では衝撃が吸収されてしまうな。


ならば──。


「スキル闘神化アレスマキナ──」


俺は体を旋回させる。



「 神  空  脚  ! 」



闘神に変化させた脚による打撃。

その威力は神腕の3倍。


硬い神樹の壁を破壊する。



バギィイイイイイインッ!!



アスラは目を見張る。



「何ィッ!?」



叫び声を伸ばすより早く、俺の蹴りがアスラの顔面を捉えた。


鳴り響く接触音。


バシィイッ!!


「グフゥッ!!」


20メートル吹っ飛ぶ。

神樹操で体を拾う余裕さえない。


アスラは大地に衝突。砂煙を上げて慣性が働くままに滑った。



ドン! ズザザザザァーーッ!!



アスラの仲間達は心配のあまり大声を上げた。



「「「 アスラ様ァアッ!! 」」」



さて、手応えはあったがどうだろうか?


アスラはゆっくりと立ち上がり俺の方を睨みつけた。その口元は切れており、少量の血が流れる。


やれやれ。

神空脚を喰らって五体満足か……。まさか生きている人間がいるとはな。


アスラは狂ったように笑い出した。



「ハハハハハーー! タケル! タケル・ゼウサードォオ!! お前は最高だぁああ!!」



火に油を注いだ。

そんなところか。


アスラは大きく飛び上がると、俺の目の前に降り立った。

その口元からは血がゆっくりと垂れる。

軽く右手で拭いさると、不気味に笑った。


「クフフ……。タケル。お前は強い」


「お前もなアスラ」


「こんな気持ちは初めてだ」


「俺もだ」


本当に初めてだ。

こんな強い人間に出会ったことがない。


不思議な感覚だ……。


俺は常に孤独だった。人間界では強すぎて浮いてしまうのだ。

アスラは人間を殺す邪悪な存在かもしれん。

でも……。なんというか……。こんな時に不謹慎かもしれないが……対等に付き合える存在を見つけたような、奇妙な高揚感がある。一言で言うなら、そう。




"仲間を見つけた"




アスラは不気味な笑みを浮かべた。




「タケル。こんなにも人を殺したいと思ったのは初めてだぞ。!!」




……やれやれ。

思考が全く違うな。

恐ろしいほどの殺戮衝動だ。

常人離れしている。まるで悪魔のような……。

こうなると、やはり。



「お前がクマソの大陸を制圧した、魔神アスラか?」



アスラは鼻で笑った。



「タケル。お前が魔王を倒したのか?」



暫しの沈黙。


魔王のことを知っているのはなぜだ?


……こいつは俺のことを知っていた。

魔王が死んだ事も事前に調べていたのか……。

こいつに、隠し事は通用しない。


「……そうだ。俺が魔王を倒した」


「やはりそうか」


アスラは再び笑うと両手を勢いよく合わせた。


パチンッ!!



「魔王は俺の生き甲斐だった! 俺から奪った罪は許せない!! 死んで償え!!」



アスラがその手をゆっくり離すと、その間から稲光りがバチバチと現れる。

稲光りは槍のような形を作った。



「俺がクマソの魔神アスラだ!!」



初めて話しが噛み合ったな。


父さんと母さんは山賊に殺された。

その山賊は魔神アスラを崇拝していた。

山賊達が人を殺し、好き勝手に生きていたのは魔神アスラに触発されたからだ。

アスラは、親の仇ではない。

だが、こいつさえいなければ残虐な山賊は生まれなかったのだ。


許せない。



"アスラさえいなければ、大好きな父さんと母さんは殺されなかったんだ!!"



こいつは仲間じゃない!

倒さなければならない、悪の根源だ!!

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