第116話 虎逢真とユユ

男の攻撃が俺を襲う。


獣罵倒ビーストスラング  威奴牙過忌いぬがすきィィイッ!!」


俺はスキル闘神化アレスマキナ神眼を使って軌道を読んだ。


やれやれ、こいつ。威勢が良い割には攻撃を当てる気がないな。


俺は何もせず、笑う。


「あ! こ、このバカチンがぁ!!」


ズシャンッ!!


奴の攻撃は俺を逸れる。

側面の地面が爆ぜた。


「ど、どういうつもりじゃあ! おんし、死ぬ気か!? 獣罵倒ビーストスラングを食らってただで済むと思うとるがか!?」


「ふ……。当てる気などなかっただろう?」


「……おんし、本気で何もんじゃあ?」


「スタット王国の城兵。タケル・ゼウサード」


「じょ、城兵ぃ? う、嘘つきぃ! そんな城兵がいやせんわい!」


「お前に嘘をついて、俺になんの得があるんだ?」


「……あ、謝れ!!」


「なんの話だ?」


「おいのテラスネーク退治を邪魔したからのぉ! おんしには謝ってもらわんとこっちの面子が立たんのんじゃ!」


「断る」


「なんじゃとッ!?」


「お前の面子など、知ったことか」


「もう許さんぜよ! 次は絶対に当てるがよ! ええか! 次は絶対に外さん! おいの獣罵倒ビーストスラングは大船も一撃で噛み砕く最強のスキルじゃあ!! 当たれば即死! 一溜りもないぜよ!」


「やれやれ。随分と入念だな。やりたいのならやればいいのではないか? まるで避けて欲しいと言わんばかりだ」


「バカチンがぁ! 余計なこと言わんでええ! おんしが謝れば許してやるぅ言うてるきに!!」


「だから、断る」


「頑固もんッ!!」


男は大きく飛び上がり力を貯めた。


「スキル獣罵倒ビーストスラング……」


男の掲げた両手に光りの牙が宿る。



威奴牙過忌いぬがすきィィイッ!!」



俺は神眼で見切った。


ほう……。次は本当に当てる気だな。


この光る牙は神界域の力に似ているな。

極限まで物理法則を無視して、どんな硬い物体も噛み砕く。そんな技なのだろう。

ならば……。


「な、なんで避けんのじゃぁあ! このバカチンがぁああッ!! 逃げい! 逃げい! 逃げぇえええええい!」


ふっ……。

逃げろだって?




「断る」





ガッ!!




辺り一面に衝突の閃光。


「な、なんじゃと!?」


俺はスキル闘神化アレスマキナ神腕を発動。男の手首を持って、攻撃を防いでいた。


不敵に笑う。


「スキルの力が付与されているのは、お前の両手だけだ。だから手首を持って防いだのさ」


俺は男の腹部目掛けて蹴りを入れた。


ドンッ!



「ゲフゥッ!!」



3メートルほど吹っ飛ばす。



「まだやるか?」



男は腹を抱えながら起き上がった。



「こんの野郎ぉ〜〜」



これらを観ていたダボダボの法衣を着た女の子が眠たそうな声をあげた。


「虎逢真ーー。もう辞めようよーー。テラスネークは逃げちゃったんだしーー」


「ユ、ユユは黙っときぃ! おいがこん野郎に謝罪させんことには、おい達がとんでもない目に合うんじゃからなぁ!」


とんでもないこと?

何か事情がありそうだな。


すると、俺達の目の前に大きな転移魔法陣が現れた。


「き、来たぁ! このバカチンがぁ!」


慌てふためく男。

女の子は恐怖でプルプルと震えていた。


一体、誰が来るんだ?


魔法陣からは黄金に光り輝く美しい女性が現れた。背は大きく3メートル以上ある。


魔法……いや、スキルのようだな?

転移魔法陣でスキルの力を飛ばして、人型にしてるんだ。


「虎逢真、ユユ。テラスネークを逃しましたね?」


「ち、違うんじゃあギルド長! 聞いてくれぇ。ここにおる、生意気な男が、おい達の邪魔をしたんじゃあ!!」


輝く女性は女の子を見た。


「ユユ。虎逢真の言っていることは本当ですか?」


女の子は俺をチラリと見てから、プルプルと首を振った。


「ち、違うと思うーー。この人は普通に戦っていただけーー。そこにユユ達が応戦した感じーー」


「あーー! ユユ! このバカチンがぁ! 余計なこと言うなぁ!」


輝く女性は眉を寄せた。

しかし、心なし笑っているようにも見える。


「それじゃあ、テラスネークを逃したのはあなた達の失態ですね」


「ちが、違うんじゃぁ! テラスネークが素早くてぇええ。お、おいが悪いんじゃないんじゃあああ!!」


「お仕置きです」


輝く女性から小さな2本の腕が生えたかと思うと、グニョーーンと伸びてダボダボ法衣の女の子を掴んだ。


「うわーー。やだーー」


女の子は、眠そうな声を出しながらも、助けを求めてバタつく。


一体何が始まるんだ?


すると今度は、大きな腕がグニョンと伸びて着物の男を掴もうする。

男はその腕を避けて叫んだ。


「い、嫌じゃ嫌じゃあ! 獣罵倒ビーストスラング!  憂技贄鞘利うさぎにえさやりィィイ!!」


男の脚は真っ赤なオーラを浴びて、超高速で走り出した。


ギューーーーーーーーーーーンッ!!


速い!

あっという間に見えなくなった。


しかし、輝く女の腕は高速で伸びる。男の走って行った先へと向かった。


遠くで微かな叫び声。


「ぎゃあッ!」


そして、その腕は男をしっかりと掴んでここに戻ってきた。


もがく男と女の子。


「嫌じゃ嫌じゃあああ!」


「助けてーー。許してーー」


輝く女性はニッコリと笑った。



「お尻ペンペンの時間ですよ♡」



パシン! パシン! パシン!


俺は目を疑う。

パチクリと瞬き。


パシン!


「アギャアッ! 痛い! 痛いきに! もっと優しいできんのかぁ!!」


パシン!


「アギャアアアッ!!」


女の子は男より小さな手で叩かれていたが、それでも痛そうである。


パシン!


「ああん! 許して下さいーー」


もしかして……。

男が俺に謝罪を求めたのは、このお仕置きから回避する為だったのか……?


「あ! タケルさん! 無事ったんですね! 良かったぁ」


そこに僧侶リリーがやって来た。

この光景を観て目を見張る。


「な、なんなんですか? これ?」


「いや、俺も教えて欲しいんだ」


パシン!


「アギャア! ケツがもげるぅ!」


パシン!


「ああん! 痛ーーーーい!」


俺とリリーは、尻叩きをされる2人を、ただ呆然と見つめているのだった。

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