第117話 巨獣ハンター



ーーコルポコの宿屋 食堂ーー


俺とリリーは着物を着た男とダボダボの法衣を着た女の子から訳を聞いた。


「巨獣ハンターギルド?」


俺が小首を傾げると男は下駄を履いたまま脚を組んだ。誇らしげに膝を叩く。


「おいの名前は坂白 虎逢真さかしろ こおま獣罵倒士ビーストスランガーやっちょります。ほいで、この転移魔法使いがユユいうがや」


ユユと呼ばれた少女は眠そうな声で笑った。


「よろしく〜〜」


転移魔法は上級魔法だ。

こんな幼い女の子ができるなんて、相当に優秀だな。

この虎逢真の獣罵倒ビーストスラングも相当に威力の高いスキルだ。

2人共、Sランクの冒険者と言っていい。


聞けば、2人は巨獣を狩るギルドに所属して、世界各国を旅していた。


巨獣とは体長100メートルを超える魔物の総称で、あの大蛇がそれに当たる。

虎逢真はテラスネークと呼んでいた。


「おいとユユは巨獣を狩って、人々に平和を提供しとるんじゃ! 誇り高き巨獣ハンターなんぜよ!」


威勢が良いな。

尻叩きの事情を聞きたいが、とてもそんな空気じゃないぞ。


まぁ、察するに、巨獣を逃がすと被害が大きいからハンターギルドのギルド長にお仕置きされるんだろうな。


こんなに凄い使い手2人に尻叩きしてしまうんだから、あのギルド長も相当な使い手だ。


「よぉし! ほなら、互いの自己紹介も済んだんじゃき。酒呑んで夜を明かすぜよ!」


「いや、もう寝る時間だが?」


「なんちゃ酷い! タケルとは死闘を繰り広げたばっかりじゃ! そんな感じの悪い状態で一晩明けるんもバツが悪いっちゃよ! それにテラスネークの倒し方を相談せんと海も渡れん! 町人に被害が出る。じゃからな、酒呑んで! 計画を立てるんじゃ、計画をーー!」


うーーむ。確かにそうかもしれんが……。しかし、酒を呑んで建設的な話ができるのだろうか?


俺と僧侶リリーは顔を見合わせた。



──30分後。


「ガハハハ! そしたらおいがメガゴリラの肛門に入ってしもうたんじゃ! ユユの転移魔法がなかったら今頃、糞だらけで死んどったわ! ガハハハ!」


「そうか。ではそろそろテラスネークの討伐計画を練ろうじゃないか」


「なんじゃあ! タケルはおいの酒が飲めんいうがかぁ? もっと飲みぃ! 今晩は全部、おいのおごりじゃき!」


虎逢真は全身を真っ赤にして叫んでいた。


こうなると思ったんだ……。


ユユはオレンジジュースを飲みながら頬を染める。


「タケルはーー。ロメルトリアにどうして行くのーー?」


「仲間がいるんだ。内戦で困っているかもしれん」


「ふ〜〜ん……タケルは優しいなぁ」


「ユユはお酒呑んでないのに顔が赤いな?」


「え? あーー? なんでだろ? 不思議ーー」


そう言ってチラチラとリリーを見やる。


「リリーとタケルはどういう関係ーー?」


俺がリリーを見やると、彼女は頬を染めて身体を寄せた。


「彼女は俺の妻なんだ」


「「 ええッ!? 」」


「なんじゃあ! タケルは結婚しとったんかぁ! にしても小さい嫁さんじゃのう! 法律的には大丈夫なんかいのう!?」


ユユは眉を寄せた。


「リリーは何歳なの?」


「13ですが?」


「うう……。わ、私と同じ歳だぁ」


「おお! ほしたら、おいとタケルが20歳じゃから、おい達は同じ歳のタッグじゃのぅ! ま、こっちは恋愛感情なんざ、微塵も持っちょらんが」


「虎逢真はビジネスパートナー。彼氏とかオゲェって感じーー」


「ガハハハ! おいはもっとこう、平べったい胸より、大きいボインボインの方が良えきに! ガハハハ!」


「最低ーー。デリカシー無さすぎーー。ユユが彼氏にするならーー。えーーとーー。なんていうかーー。もっとーー。紳士的なーー。人が良いーー」


そう言って俺の方をチラチラ見て頬を染めるのだった。


やれやれ。

まぁ、2人共、悪い人間では無さそうだ。


「タケル! 呑め呑め! 今夜は運命的な出会いじゃき! ぱぁーーっといくぜよ! ぱぁーーっと!」


テラスネークの話。

とてもできそうにないな。



──翌日。


ーーコルポコの港ーー


「うう……。頭が割れそうじゃあ。テラスネークの攻撃が効いちょるぅうう」


「単なる飲み過ぎ〜〜」


やれやれ。

1人で2樽も飲んだんだからな。

そりゃ2日酔いにもなるだろう。


海を見ると沖の方でテラスネークがザプンザプンと身体をくねらせていた。


港は人だがり。

テラスネークの被害で顔を寄せる。


漁師や渡船の船長は嘆く。


「あんな大きな蛇がいたんじゃ、船が出せない〜〜」

「船を出せばたちまち沈められてしまう」


このままでは町の経済が滞るな。

それに、またテラスネークが津波で町を襲うかもしれん。そうなれば被害は甚大だ。


ユユは町長にテラスネークの話をして報酬の交渉をしていた。

町長は白鬚の老人で、俺達に土下座をした。


「どうか! どうかこの町を救ってください!!」


「町長、安心せぇ! おいが来たからにはテラスネークなんざ蒲焼きにしちゃるきに!」


「おお! なんと頼もしい! 昨日は凄まじい津波でした! あれを回避してくれたのもあなた達、巨獣ハンターですかな?」


「え? あーー、えーーと、それはぁ〜〜」


昨日の津波は俺が水龍操で回避したからな。虎逢真が詰まるのも頷ける。

だが、そんなことはどうでもいい。俺はロメルトリアに行きたいだけだ。


俺は目を閉じて黙った。


「なはは! つ、津波はここにいる、タケルがやったんじゃ」


言わなくていいのに……。


「なんと! あなた様が!? ありがとうございます! あの津波を回避しただけでも、命の恩人でございます!! あ、あなたも巨獣ハンターなのですか?」


「いや俺は──」


「そ、そうなんじゃ! タ、タケルも巨獣ハンターなんじゃ! じゃから、おい達に任せておいたらいいっちゃよ!」


おいおい。

適当なことを言うなよ。


町長は眉を寄せた。


「おおーー! それならば安心して任せられますな! それで討伐の期間はどれほどですかな?」


「そうじゃのう〜〜。1ヶ月。いや、2ヶ月は欲しいのぅ」


「そ、そんなにかかるのですか?」


「うーーむ。あれだけ大きな巨獣はおい達も初めてじゃからなぁ。しかも身動きが取りづらい海の中じゃあ。陸地に誘き寄せて戦うしか手がないっちゃよ」


「はぁ〜〜。そ、それまで、船が出せないなんて……。コルポコの町が終わってしまう」


やれやれ。

1ヶ月も待ってられるか。

早くロメルトリアに渡ってオータクに会いたいんだ。



「今日でけりをつける」



俺の言葉に場は騒然と化す。


「「「「「 えッ!? 」」」」」


俺は海に飛び出した。


「スキル闘神化アレスマキナ 神速!」


海の上を高速移動!



ダダダダダダダダダダダーーーーッ!!



そして、テラスネークの背に神腕を喰らわせた。



ドパーーーーーーーーーーーーンッ!!



凄まじい水飛沫が上がる。


港に集まった人々は騒然。

町長は開いた口が塞がらない。



「はぇ〜〜!! きょ、巨獣ハンターってのは凄まじいですなぁあ」



虎逢真は汗を垂らした。


「ま、まぁな。……ナハハ」

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