第102話 妻達の食卓
〜〜タケル視点〜〜
ーータケル邸ーー
昼。
俺の妻達は代わり番子に家事をすることになっていた。
今日の昼食は賢者シシルルアの担当。
彼女は得意のオムレツを作っていた。
外側はパリっと焼かれていて、中は半熟でトロトロ。その中にはトマトや鶏肉、香草といったものが刻んで入っている。特性のデミグラスソースをたっぷりかけて食べる。
当然食べるのは俺だけではない。
妻達は彼女の作ったオムレツに大喜び。
料理を作った者の特典として、俺に一口目を食べさせる権利がある。権利というと、どうにもよくわからんが、僧侶リリーが妻達の意見をまとめて、そんな権利が生まれた。
だからシシルルアがオムレツをスプーンで掬って俺の口の前に持ってくる。
「旦那様、はい、あ〜〜ん♡」
始めはかなり恥ずかしかったが、1週間もすると慣れてしまう。
「モグモグ……。うむ、美味い」
シシルルアは、俺の言葉に全てが救われたようになって、顔を赤くした。
俺みたいな人間の評価で、彼女の1日が決まると言ってもいい。ここで、美味しくない、などと言おうものなら、彼女は落ち込んで寝込んでしまうかもしれない。
これはシシルルアだけではない。
妻達全員がこうなのだ。
だから俺は、彼女達が作った料理を食べた時は、必ず「美味い」と言うようにしている。
幸いなことに、妻達は料理が上手だ。
みな器用で、様々なバリエーションの料理を作る。お世辞など言わなくても毎日の食事が楽しみで仕方がないのだ。
まぁ、1人を除いてではあるが……。
「あ、あのぅ……。こ、このサラダはな。わ、わしが作ったんじゃ」
スタット国王のサレンサは、見た目は幼女だが実質40歳。しかし、幼い頃から領土学を学び、家事などには無縁だった為、俺と結婚してから花嫁修行をしている。
その為、料理の手解きは他の妻達に教わっていた。
「この前、バルバ伍長に教えてもらったからの。オシャレなサラダなんじゃけど……」
「うむ、美味そうだ」
マーリア姫はサレンサの腕を肘で突いた。
「サレンサ! 折角、あなたが作ったんだから、旦那様に食べさせてあげないと」
「あ、う、うん……」
サレンサは国王として、近隣諸国から一目も二目も置かれている、やり手の王である。
しかし、女としての人生は初めてなので、初恋をしている少女のようになっていた。
震える手でトングを掴み、サラダを俺の口の前へと持っていく。
「は、はい。旦那様、あ〜〜ん♡」
「うむ、モグモグ……」
こ、これは!?
甘い! 甘すぎる!!
塩気がほとんどないじゃないか。
そこにスパイシーな黒胡椒の味が合わさって絶妙な味だ。ハッキリ言うと不味い。
さてはサレンサ。砂糖と塩を間違えたな。
それでもサレンサは顔を真っ赤にして俺の反応を待っていた。
「ど、どうじゃろう?」
ここで俺が、不味いと一言言ったなら、彼女の1日は台無しである。国営に影響すると言っても過言ではない。
やれやれ。
俺の一言で国の存続を左右するなんて、とんでもない食卓だな。
「うん、美味い。料理が上手くなったな。サレンサ」
俺は最高の笑顔で答えた。
しかし少々盛り過ぎたかもしれん。
サレンサは立ち上がって喜んだ。
「本当かえ!? 少し甘過ぎるかと不安じゃったが、タケルが喜んでくれたらから最高の気分じゃ!」
「う、うむ。それで、この美味しいサラダは俺が全部食べようと思う」
この言葉にシシルルアはピクリと眉を動かした。
魔拳士アンロンはサラダをフォークで掬った。
「美味しいなら、師匠1人で食べちゃうなんてズルイある。愛弟子にも少し分けて欲しいあるね! モグモグ! んん!?」
俺が止めるより早く、アンロンは眉を寄せる。
「な、なんね!? このサラダはぁ!?」
俺は大きな声を出した。
「アンロン!!」
妻達は俺の顔に注目する。
その眉間はシワが寄り汗を垂らす。
「アンロン、今日は俺と一緒に戦闘訓練の練習をしよう……」
アンロンは目を瞬かせた。
「わ……わかったある……」
シシルルアは目を細めて、サラダをフォークで掬った。
なぜだ!?
そのサラダはダメだ!
「シ、シシルルア。これは俺が食べるサラダなんだ!」
シシルルアは咀嚼しながら更に目を細めた。
これに気がついた妻達は、次々にサレンサが作ったサラダを食べる。
みな、汗を垂らし目を細めていた。
しかし、誰一人として声を発しない。
俺の空気を察してくれる、できた妻である。
サレンサは大喜び。
「おお! ワシが作ったサラダが大人気じゃあ!」
僧侶リリーは苦笑い。
「サレンサさん。今度、私の得意なサラダを教えてあげます」
これを皮切りに、妻達は笑顔で声を上げる。
魔法使いレイーラは不敵に笑った。
「私はワインビネガーのサラダを教えますよ」
マーリア姫、キャンドル職人アイカと自慢のサラダをサレンサに教えることになった。
妻達の思いやりにサレンサは目を潤ませた。
「みんな優しいからワシは嬉しいのじゃ。結婚して友達が増えた感覚じゃなぁ」
シシルルアは目を細めてニンマリとしながら俺を見つめていた。
やれやれ。
妻達の優しさに救われた感じか。
サレンサが傷つかずに済んだな。
思わずポロリと出る。
「みんな、ありがとう」
妻達は微笑みながら食事をするのだった。
温かい食卓。
今日も平和である。
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