第97話 幸せのざまぁ

3日後。


早朝。


私達はタケルさんに言われたとおり、戦闘の準備をバッチリ整えて、城内の広場に集まっていた。

今日は快晴ではあるものの、不穏な空気が流れる。

そこは城兵が演習をするような大きな広場で、その日は妙に静まりかえっていた。


「うーーむ。武者振るいが止まらんわい」


国王は内政を休んでタケルさんの手助けをすることに決めていた。


マーリア姫は気になっていた事が確信に変わったようだ。


「タケル様がね。城の窓から外を見ていたことがあったの。そこは街外れの森だったわ。おそらく、そこに強敵が潜んでいたのね。タケル様はあの時から、私達には気付かれまいと、強気に振る舞っていたのね……」



ゴクリ、と私は唾を飲み込んだ。

 


タケルさんが強敵って言うくらいだから、相当に強い敵なのかもしれない。

もしかしたら、この中で、誰かが命を落としてしまうかもしれない……?


そんな疑念を晴らすように、ブルブルと頭を振る。


私は僧侶なのよ!

1人だって死亡者なんか出すもんか!


私達が身構えていると、城の入り口から城兵のロジャースさんが歩いてこちらにやって来た。


朝の巡回?

それとも、私達と共に戦う仲間かな?


そんなことを考えていると、彼は国王の前に立ち、後ろに隠し持っていた、一輪の赤い薔薇を渡した。


「は? ロジャース? なんじゃこれは??」


ロジャースさんはニコリと笑うだけ。

すると、また城の入り口から城兵がやって来た。その人も後ろに薔薇を隠し持っており、今度はバルバ伍長に渡す。


「は? おい、これはなんのつもりだ??」


そして、またも城兵が現れて、今度はマーリアさんに薔薇を渡した。


「あの……。私、知らない人からこんなの貰ったら困ります」


城兵は次々に現れる。

今度は私に薔薇をくれた。

次はレイーラさん、アンロンさん、アイカさん。


私達は薔薇を貰う。

全員が一輪の薔薇を貰うと、次はニ輪目、三輪目……。


城兵達は1人1人が薔薇を一輪隠し持っていて、私達にくれる。

気がつけば私達の腕には薔薇の花束が出来上がっていた。


そして、薔薇を持っていない城兵も集まってきて、気がつけば城兵は千人を超えていた。

一同はスタット王国の信仰で有名な讃美歌を歌い始めた。


私達の戸惑いをよそに、タケルさんが現れる。

タケルさんはお菓子の袋を持っていて、それをアンロンさんに渡した。


「これ、みんなで食べてくれ」


その袋には、美味しそうなお饅頭がたくさん入っていて、袋を開けるとチョコミントの香りが広がった。


「アイヤー! これ、私が食べたかったチョコミント饅頭ある!」


あ! それは、私達がタケルさんを尾行していた時に見つけた珍しい饅頭だ!

タケルさんには尾行のことは秘密にしていたのにどうして!?


「タ、タケルさん。も、もしかして、私達の尾行に気がついていたんですか?」


彼はパチリとウインク。


「鋭いお前達のことだから、必ず気がつくと思ったんだ」


「タケルさん……。黙って跡を付けてしまってごめんなさい。その……。これには女性特有の深い悩みがありまして……」


「ふふふ。いいさ。わざと、いつもと違う雰囲気を出した俺も悪いんだからな。お前達が気になるように振る舞った」


「まるで跡を付けさせたみたいな言い方です! 転移魔法で特殊な場所に行って強敵と戦っていたのではないのですか!? 」


「そうだな、特殊な場所に行って家を作っていたんだ」


「家!?」


「住みやすい家を作るのは悩ましいぞ。正に強敵さ。家作りと闘っていたわけだ」


「だ……誰の家なんですか?」


「俺達の住む家さ。大きな屋敷だぞ。みんなで住むんだからな。城の窓から見える町外れの森に作ったんだ。ロジャース達と事前に打ち合わせをしていてな。こっそり計画を練っていたんだ」


「「「「「「「「 計画ぅ?? 」」」」」」」」


「ロジャースには問い詰められたら、強敵と闘っている話をしてもらうように頼んでいた」


「どうしてそんな事したんですか!?」


「サプライズは楽しいだろ?」


そして、私達の前でひざまずく。


城兵達は讃美歌を歌うのを辞めた。

静まり返る広場で、タケルさんの声だけが響く。



「俺は……。どうしようもないのんびり屋だ。だから、そんな男に付いて来てくれる可愛い女の子達がいて、とっても幸せなんだ」



タケルさんは、一番端に並ぶ私の前にひざまずき、左手を取って薬指に指輪をはめた。


こ、これは!?

もしかして!?


次はシシルルアさん。

その次はマーリアさん、レイーラさんと続く。

全員に同じことをすると、再び私達の前にひざまずいた。



「これからも、俺について来て欲しい。俺はお前達を必ず幸せにする。だから……」



私達は感極まって泣いていた。

もうその顔は真っ赤で、薔薇よりも赤い。

彼は、優しく凛々しい声で、私達を包み込むように話した。






「俺と、結婚してくれ!」





私達は涙を流す。

人生の中で、こんなに嬉しくて、心が満たされた瞬間はない。


薬指には結婚指輪がキラリと光る。


泣くのを堪えて、精一杯に返事をした。





「「「「「「「「 ハイ! 喜んで! 」」」」」」」」





私達は、タケル・ゼウサードの妻になった。

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