第96話 強敵

〜〜僧侶リリー視点〜〜


タケルさんの尾行には魔拳士アンロンさんと私がすることになった。


まずは、敵がどんな存在なのかを掴まなければならない。

そして、なにより知りたい。タケルさんが隠す理由。


ーースタット王国 街中ーー


スタット城からタケルさんを付けてやって来た。


「アンロンさん。くれぐれもタケルさんに気付かれないようにしてくださいね」


「任せるある! アイヤー! リリー、あそこのお饅頭が美味しそうあるよ! チョコとミントが入っている珍しい饅頭ある!」


チョコミントの饅頭?

それは珍しい!

いやいや、今はそんなこと言ってる場合じゃない!


「んもう! そんなことよりタケルさんです!」


「大丈夫ある! うーーん。あのお饅頭、美味しそうあるなぁ」


大丈夫かなぁ?

前を見ると誰もいない。


「あ、タケルさんがいなくなりました! んもう! アンロンさんがお饅頭なんか見てるからですよ!」


アンロンさんは私を抱きかかえると凄い速さで飛び出した。


「きゃっ!」


「リリー安心するね! 私は師匠の一番弟子ある! 凄まじい速さで移動しても私なら見切っちゃうある! 魔拳士アンロンの力、見せてやるね!」


アンロンさんは凄まじいジャンプ力で建物の屋根に登り、建物の間をピョンピョン飛んで移動した。


地上に降りると息を殺す。


「リリー、あれを見るね!」


「は!?」


そこは街外れ。

タケルさんは怪しい建物に入る瞬間だった。


アンロンさん、意外とできる人だったな。馬鹿にしてごめんなさい。


なんて思っていると、その建物の入り口には見慣れない魔法使いが2人。タケルさんに会釈をしていた。


中で何をしてるんだろう?


「リリー、建物の後方的部分に窓があるね! そこから中が覗けるある!」


私達は裏口に回る。そこから中を覗いた。

そこには数人の魔法使い達。

中央には大きな魔法陣がある。

タケルさんはその中央に立つ。

そして、


「あ!」


思わず声が出た。

タケルさんは、そこから転移魔法で姿を消したのである。


タケルさん、一体何と戦ってるんですか?


私達はすぐに城に戻り、TOG《タケル・ゼウサードお嫁さんギルド》のメンバーにそのことを伝えた。



◇◇◇◇




ーーTOG《タケル・ゼウサードお嫁さんギルド》専用室ーー



国王は眉を上げる。


「何!? 街外れから転移魔法を使った?」


「魔法使いが何人もいました」


「うーーむ。おかしいのう。国内で邪悪な魔物が現れた場合、自警団がかならず取り締まる。我が国の自警団には優秀な賢者や魔法使いが多いから、魔物などは瞬時に見つかるはずなのじゃが……」


バルバ伍長は腕を組んだ。


「そうなると国外に強敵がいるのか? 国王と私にそんな情報が入らないとは、これは相当にヤバイ敵なのかもしれない。そうなると、そこにいる魔法使いを拉致して尋問。タケルの転移先を聞くのがもっとも有効な手段ではあるな」


「ら、拉致して尋問ですか? なんだか物々しいですね。穏便に済ます方法はないですかね?」


シシルルアさんは眉を寄せる。


「やっぱり、タケル本人に聞くのが一番じゃないかしら? そもそも、どうして跡をつける話になったの?」


言い出しっぺは私なんだけど、理由を話しにくいなぁ……。

あーー、でもTOG《タケル・ゼウサードお嫁さんギルド》で隠し事はダメか……。


「あのぅ……。言いにくいんですけど……」


一同は私に注目。


「タケルさんが、もしも、可愛い女の子と会っていたらどうしようかな?って心配しちゃったんです」


一同爆笑。

お嫁さんギルドのリーダーが、彼の浮気を心配していたのである。


「でもでも、みなさんは不安になりませんか? もしもタケルさんに好きな人が現れて、その人だけを愛することになって、TOGを解散。私達は捨てられる。そんなことになったらどうします?」


場は沈黙。

妙な空気が流れた。


マーリアさんは汗を流す。


「タ、タケル様に限って、そんなことはないと思いますが……。ね、念のため、念のために確認しましょう!」


「そうじゃそうじゃ! 奴に限って、そんなこと……絶対するはずがない! 絶対に……」


「で、でもよ。男は自分勝手でわがままな生き物だぜ。俺達を捨てて新しい女の子にうつつをぬかす、なんてことも考えられるぜ」


シシルルアさんは全否定。


「そ、そんなこと! タケルに限ってあり得ないわよ!」


レイーラさんは目を細めた。


「私も……タケルはそんな男じゃないのはわかっているけど……。あの男はモテるからな」


「「「「「「「………………」」」」」」」


やっぱり確認しなくちゃ!

私達の不安は爆発しそうだった!


◇◇◇◇


ーーTOG《タケル・ゼウサードお嫁さんギルド》専用室ーー


次の日。


私達はタケルさんを部屋に呼んだ。

この部屋へタケルさんを入れるのは初めてである。ただならぬ雰囲気を感じたタケルさんは、珍しく緊張しているようだった。


「なんだお前達。改まった顔をして、何か問題でも起こったのか?」


しらを切る姿に、私達は頬を膨らませる。

私が先陣を切った。


「タケルさん! 私達に隠し事をしているんじゃないですか?」


「なんのことだ?」


「私達、聞いてしまったんです! 城兵のロジャースさんから! タケルさんが強敵と戦っているって!」


「何!? ロジャースめ。あれほど黙っていろと言ったのに。口の軽い奴だ!」


「その……。ごめんなさい! タケルさんの様子がおかしいから、私達で調べさせてもらったんです。ロジャースさんを攻めないであげてください!」


跡を付けていたことは内緒にしよう。

タケルさんの浮気を疑っているなんて、やっぱり知られたくない。


タケルさんは嘆息。


「ハァ……。しかし、そうか……知ってしまったのならば仕方ないな。お前達には心配をかけさせまいとしていたことだったのだがな」


「タケルさん! なんでも話してください! タケルさんが困っているなら、私達、力になりたいんです!」


「うむ……。実は特殊な場所で強敵と戦っている」


「「「「「「「「 !? 」」」」」」」」


それは驚きと同時。


特殊な場所、とは転移して行く所だ!


跡をつけていたことは秘密にしていたので、自ら語ってくれた。

自分から言うなんて、やましい事が無い証拠。やはり、本当に強敵と戦っていたんだ! 浮気じゃない!


私達から安堵のため息が出る。


「ああ、良かったぁあ」


その光景にタケルさんは目を見張る。


「お前達。何を隠しているんだ?」


「タケルさん……。も、もしかして……。私達に飽きちゃったのかな? なんて不安になってしまったんです」


「なんの話だ?」


「だって、1人で何も言わずに街へ出るんですもん。もしかして、可愛い女の子と仲良くなって、TOG《タケル・ゼウサードお嫁さんギルド》が邪魔になっちゃったんじゃないかと思ってしまったんです」


「タケル! ワシ達を捨てんよな?」


「タケル様! 信じてついていっても大丈夫でしょうか?」


「師匠! 私達を捨てないで欲しいある!」


『特殊な場所で強敵と戦っている』と言われても尚、各々が不安の声を漏らす。

安心と混乱が入り混じった妙な気持ち。

いつの間にか、みんなはポロポロと涙を流していた。


タケルさんは困り顔。


「やれやれ、俺がお前達を捨てる訳がないだろう」


その優しい言葉に私達の涙腺は崩壊した。


号泣。


「タケルさぁ〜〜ん」

「タケルぅ〜〜」

「タケル様ぁ〜〜」

「師匠ぉ〜〜」

「疑ってすまん〜〜」


一同は大泣きでタケルさんに抱きついた。


「やれやれ、困った奴らだな」


「だって、だってぇ〜〜タケルさんが今までとは雰囲気が違ったんですもの〜〜」


私はタケルさんの体に顔を擦り付けながら泣いた。


タケルさんは私達の気持ちが落ち着いたのを見計らって話す。


「心配させまいとした行為が裏目に出てしまったようだ。では、お前達の力を借りても良いか?」


「もちろんです! なんでも言ってください!!」


「よし、じゃあ3日後。明朝から出発する! 用意を万全にしておいてくれ!」


「「「「 「「「「 ハイッ!! 」」」」」」」」



私達は気を持ち直した。

そして湧き上がる闘争心。


みんなは円陣を組み、手を重ねる。

私は号令をかけた。



「TOG最高! おーー!」


「「「「「「「 オーー!! 」」」」」」



タケルさんは赤くなって呟いた。


「そのノリ。何度見ても恥ずかしいな」

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