第65話 バルバ伍長とデート
ーー草原の都 フッサフッサーー
俺達一行は港街ザザームを出て、海辺から離れて内陸へ。ロメルトリア大陸の中心都市フッサフッサに来ていた。
そこは人口30万人。あの呪術士ジャミガと戦ったデイイーアの街の3倍の大きさである。
周囲は長いイネ科の植物に覆われて、緑豊かな都市である。
その草は糖質が高く、汁を煮詰めると黒い砂糖を作ることができた。
女子達はお菓子の店を見つけてはキャッキャッとはしゃぐ。どの店に行ってもスイーツが美味しいのだ。
この都市の名物は『焦がし虫の黒糖茶』である。
草原で獲れるバッタを焼き、そこに甘い黒糖を溶かしながら熱湯を注ぐ。
バッタの旨味と黒糖の甘味がハーモニーを醸す、実にユニークなお茶である。
バッタというと抵抗があるが、味は海老と言っていい。
だから若干、お茶というより甘い汁物に近い。ご飯によく合うお茶である。
そんなお茶を飲みながら、今日はバルバ伍長を待っていた。
俺の場合、待ち合わせ場所はカフェが定番になりつつある。
大好きなお茶を飲みながら、どこを観光するかを考えるのが至福の時間だ。
そうしているうちにカフェの扉が開き、バルバ伍長が現れた。
軍服ではない私服のバルバ伍長である。
彼女の美貌は群を抜いていて、店に入った瞬間から空気がガラリと変わる。
上は肩が見える白い服。下は薄いブルーのミニスカートだった。ハイヒールでコツコツと音を立てながら歩いてくる。
店内は伍長の存在に目を見張る。
男も女も、その美貌に顔をほころばした。
「はぁ〜〜綺麗な人だなぁ〜〜」
「うわッ! スッゲェ美人だぞ!」
「綺麗な人ねぇーー」
「モデルかしら?」
「う、美しい……」
バルバ伍長は俺と目が合うとニコリと笑った。
「待たしたか?」
「いえ、そんなには」
バルバ伍長は頬を膨らませた。
しまったな。
お嫁さんギルド長のリリーからはバルバ伍長たっての希望で『お前』と呼ばなければならないんだった。
つまり、敬語はNGだ。
俺はコホンと咳払いをした。
「お前の私服。初めて見るが似合っているな」
彼女は顔を赤らめた。
「そ、そうか……。アハハ……。あ、ありがとう。結構、色んな男に褒められる方なのだがな。タケルに言われると、照れてしまうな」
これからはバルバ伍長ではなくて、バルバと呼び捨てにすることになるな。
この人は俺の上司なのだがな。
いいのだろうか?
俺達はカフェでしばらく会話を楽しんだ後、街をぶらつくことにした。
◇◇◇◇
彼女はパスタを食べたいという。
俺達は街で一番人気のパスタ屋に来ていた。
12時には長蛇の列。
その店は細い路地にある隠れ家的な場所なのだが、評判が広まって隠れ家のかの字もなかった。
列は大通りまで繋がっており、馬車が通る度に列は細い路地に詰め込まれてぎゅうぎゅうに押された。
バルバは俺の前に並んでいたが、俺の方を向き顔を寄せる。
俺がその混み具合に辟易していると、彼女は顔を真っ赤に染めた。
「今日はついてる……」
「どういう意味だ? 辛くないのか? 混みすぎだと思うが?」
「だって……。タケルと……。くっ付けるじゃないか」
「…………」
俺が返答に困っていると、大通りでまた馬車が通った。列は路地側に押される。
「ああッ!」
バルバの声が漏れた。
それは苦痛というより、喘ぎ声に近い。
みんなの前で声が色っぽすぎるな。
「バルバ。大丈夫か?」
「タ……。タケル、う、嬉しい」
「…………」
またも返答に困る。
嬉しいの意味がわからない。
詳しく聞くのも気が引ける。
再び大通りで馬車が通り、行列は押されて、俺達は身体がぎゅうぎゅうに挟まれた。
「ああッ!!」
熱い吐息が俺の胸にかかる。
もう明らかに喘ぎ声である。
「タ……タケル。もっとぎゅうぎゅうに強引に私を抑えつけてくれ」
いや、場所を考えてくれ。
まだお昼前なのだ。
再び馬車。
「ああッ! タ……タケル! もっと強引にお前のやりたいように、私をめちゃくちゃにしてくれ!」
どこから突っ込むべきなのだ!
声の質、内容、表情。
全部間違っている!
これは注意すべきだろうか?
いやしかし、今日は彼女にとって、待ちに待った俺と過ごす日なのだ。
できる限り彼女が喜ぶようにしてやりたい。
よし、ならば、とことんまでやってやる!
次の馬車が来た時を見計らって、ここぞとばかりぎゅうぎゅうに彼女を抱きしめた。
「いやぁ……」
「嫌なのか?」
「い、嫌じゃないけど……」
そして、また馬車が通る。
「ああん! いやぁ〜〜」
もうとんでもなく色っぽい喘ぎ声が響いた。
嫌なのかもっとして欲しいのかよくわからんが、全身を汗ばみながらも恍惚とした表情を見せる。
「凄い……」
バルバは満足そうに俺に寄り添った。
俺の為に結成されたお嫁さんギルドに加入している女の子達には、それぞれ俺に求めるものがある。
俺はその全てを叶えてやる必要があるのかもしれないな。
それが彼女達にとっての幸せだ。
今、ここにいるバルバも、こうしてやることで幸せになれているのだ。
いわば、これは俺の責務!
またも大通りを馬車が通る。
よしきた!
俺はここぞとばかりバルバをぎゅうぎゅうに抱きしめた。
「ああん! タケル……ダメェェエ……もっと……」
気がつくと店員が俺達を睨みつけていた。
「お客様。席が空きましたから店に入ってくださいな!」
俺とバルバは真っ赤になって入店するのだった。
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