第63話 リリーとお嫁さんギルド



〜〜タケル・ゼウサードの視点〜〜


僧侶リリーをリーダーに、お嫁さんギルドが作られてしまった。

何やら、俺のお嫁さん希望の女の子達だけで作られたギルドらしい。


詳しい運用方法やルールは全くわからないが、俺を強く想ってくれている女子達が、自らの意思で結成した団体なんだそうだ。

こんな、お茶が趣味の呑気な俺に、なんだか申し訳ないな。

一夫多妻になるのは王族だけだと思うが、一介の城兵である俺が、こんな身分になってもいいのだろうか?

とはいえ、リリー達は真剣だ。

そんな気持ちを無下にするほど、罪深いことはないだろう。なんとか彼女達の気持ちを汲み取って、良い人生に導いてあげたい。例えそれが、俺への恋心でなくてもだ。


彼女達はまだまだ若い。俺以外にも素敵な男を見つけて結婚する人生もあるのだ。俺との時間は自分の人生を見つめ直す機会でも良い。彼女達の幸せは俺の幸せでもあるのだ。恋人という側面、大切な仲間でもあるのだから。



ーードントコイラの街ーー


お昼。


今日はリリーと2人きりで昼食を食べて、買い物をする予定だ。

今はカフェでお茶を飲みながら、彼女を待っているところである。

小さなカフェ。俺は窓際に座った。


リリーは俺の予定を聞いて綿密に計画を立てているようだった。

もちろん、お嫁さんギルドの計画である。


昨日、宿で見かけた手帳には、ビッシリとシフトらしきモノを書いていたが、俺が覗き込むと怒られてしまった。


『ダメですよ! タケルさんが見たら私達に気を使っちゃいます。タケルさんは自由にしてくれていれば良いんです。私達はそれに合わせるだけなんですからね。タケルさんの負担になるのは絶対に避けたいんです』


だそうだ。

このギルドは俺のことを最優先に考えてくれているらしい。

なんだかいじらしいな。

詳細はよくわからんが、ギルドと俺の付き合いは始まったばかりだ。

とりあえずはリリーに任せてみよう。



しばらくするとカフェの扉が空いてリリーが入ってきた。

彼女は俺と目が合うやいなや、満面の笑みで手を振る。

店内にいた男客はリリーに釘つけ。

まだ13歳ではあるものの、美少女すぎて注目を浴びてしまうのだ。

日の光に照らされた真っ白な肌と、ミニスカートから見える細い脚。

そして輝く笑顔。男客らはリリーが歩く方向へと目を動かしていた。

俺の姿に気が付くと、「くそ〜〜いいなぁ」という声が漏れる。


やれやれ。

リリーと二人きりで会うと、注目を浴びてしまうのがネックだな。


そういえば、こんな風に彼女と会うのは初めてである。

なんだか新鮮な気持ちだ。


「タケルさん! 今日は付き合ってくれてありがとうございます! 」


「まぁ、急ぐ旅でもないしな。ゆっくり旅を楽しもう」


「えへへ、そうですね!」


輝く赤毛、大きな瞳。

今日のリボンは見たことのないピンク色だ。


「そのリボン似合っているな」


「ほ、本当ですか! あ、ありがとうございます。タ、タケルさんに見せたかったのでこの前買ったんです。えへへ……」


リリーは大喜び。

そのままカフェでお茶をして会話が弾む。


彼女の話では、お嫁さんギルドはいつでも活動していて、俺の指名があればいつでもどこででもその子と会えるそうだ。


「だから、二人きりで逢いたくなったらいつでも言ってくださいね」


そう言われてもな。

しかし、そうなると、均等に会ってやらんことにはみんなに不平感が湧いてしまう。


リリーは微笑んだ。


「タケルさんは一人になりたい時もあると思うんです。だから、何も考えず、自由にしてもらって、逢いたい時に私達に言ってください。私達はタケルさんに付いて行くだけです」


「しかし……。なんだかそれは申し訳ない感じがするな」


「何も気にしないでください。私達が勝手にやっているギルドですから。あと、ギルドに加入する女の子はタケルさんが選んでくださいね」


「加入者が増えるのか?」


「それは今後の動向しだいですが、まぁ、タケルさんの魅力なら増えると思いますよ」


うーーむ。

俺はお茶が好きなのんびり屋で、一介の城兵。

そんな魅力は微塵もないのだがなぁ。


「そ……。それでですね。ギルドから一つお願いがあるのですが……い、いいですか?」


リリーはモジモジしながら言いにくそうにした。


「なんだ? 俺にできることなら努力するぞ」


「あ……。じゃ、じゃあお願いしてしまうのですが……」


「ふむ」


「私達のことを……」


「うん」


「『お前』って呼んで欲しいんです」


「うん……?」


「これは女の子達、みんなの希望です。タケルさんに『お前』って呼んで欲しいんです」


なんだその希望は?

目的が全くわからん。


「ギルドの中にはバルバ伍長もいるんだろ? 流石にそれは難しいんじゃないだろうか? 俺は彼女の部下だからな」


「実は、この発案はバルバさんからだったんです。彼女は敬語を使われるのが嫌みたいで、名前で呼んで欲しいし、お前って言って欲しいみたいです」


伍長、自らの願いか……。そうなれば聞かざる得んな。


「バルバさんからの希望なのですが、かなり強い口調で、若干ののしる感じで『お前』って呼んで欲しいみたいです」


俺はどう対応したらいいんだ?

わかった、なんて気軽に言えんぞ。

これは詳細を彼女に直接聞くしかないだろうな。

とりあえず、マーリア姫を含めてみんなのことは「お前」と呼ぶことにしよう。


お茶を飲み切ったところで、俺達はカフェを出た。



◇◇◇◇



ドントコイラの街を歩く。


買い物をしたり、風景を見たりする。


リリーは俺の腕を組み、終始笑顔である。


「そんなに楽しいのか?」


「当たり前です! タケルさんと二人きりなんですよ! 私もう……天国にいるみたいです!!」


「俺と歩いてるだけで天国とは、なんだか安い場所だな」


「いいんです。私はこれだけで幸せなんですから。あーーうーー……タケルさ〜〜ん!」


そう言って俺の腕を強く抱きしめるのだった。


やれやれ。困ったもんだ。

リリーは、やっぱり妹みたいだな。



◇◇◇◇



ーードントコイラの展望台ーー


夕方。


山の斜面の高い場所に展望台はあった。

そこからは街全体が見渡せて、遠くの海も見える。

オレンジ色の空。夕日が全てを包み込む。

爽やかな風が葡萄畑から甘い香りを運んでくる。


俺達は二人きりだった。


「タケルさん……」


リリーは改まった表情を見せた。


何か決意めいたモノを感じる。


「なんだ……?」


「私のこと……妹みたいって思っているでしょ?」


鋭いな……。

どう答えればいいのだろう?


彼女は少し悲しそうな顔になって、俺の胸にもたれ掛かった。



「タケルさん……。私……。もう子供じゃないんです。赤ちゃんだって産めます」



大人として見て欲しいのか……。



「わ、私はまだまだ……。胸とか小さいですが……。そ、その内、大きくなります……多分」


「そんなこと気にしてるのか?」


「だ、だって! マーリアさんとかシシルルアさん……。私以外、みんな大きいんですもん」


「お前は可愛いから、今のままでも十分だよ」


「タ、タケルさん!」


彼女は俺を抱きしめた。

俺も彼女を抱きしめる。


リリーの潤んだ瞳を見つめた。




「お前のことを大人として見てもいいのか?」




彼女は顔を赤らめた。




「は……はい」




俺は彼女の頬を持ち、ゆっくりと顔を近づける。



リリーはそっと目を閉じた。



日は落ちて、暗くなった展望台に抱き合った二人の影が映る。











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