第62話 お嫁さんギルドのリーダー

ーードントコイラの街ーー


宿屋。


部屋内でどよめきが起こった。


1人を除いて、全員が同じ人物を指差していたのだ。


リリーだけがバルバ伍長を指差していた。


リリーは目を丸くする。



「え? どういうことですか?」



そんな彼女を指差していたのが、私達全員なのだ。

一番驚いたのはリリーである。



「えええええええ〜〜〜〜!!」



バルバ伍長は笑った。


「満場一致ではないか。これは文句がないな」


「あ! でもでも! 私、一番歳下ですよ!」


だから良いのだ。

しっかり者で歳下。

これほどリーダーに適任した者はいない。


バルバ伍長は眉を上げた。


「ではリリー。1つ聞かせてくれ。リーダーとして、一番大事なものはなんだと思う?」


「え!? い、一番大事なものですか? うーーん。えーーと……」


リーダーの資質。

13歳の少女にとって、最も難しい質問だろう。

でも、リリーの答えは早かった。

平然と答える。


「リーダーとしてというか、そういうのはよくわかりませんが、上下関係を作らないことだと思います。このギルドはタケルさんと私達の為の存在です。そこに上とか下があると厄介だと思います。あくまでもまとめ役。リーダーに特別な権限があったりすると揉めると思うんですよね……」


彼女は、勇者グレンのパーティーでリーダーの嫌な部分をたくさん見てきたのだろう。女のグループで最も重要な部分を的確に突いてきた。


それは、公平感。


女は上下関係を嫌う。上とか下とか論外だ。

友達感覚。これが一番大切なのだ。


バルバ伍長は笑った。


「最高のリーダー誕生だな」


私も同じ気持ち。


「素敵なリーダーだと思います」


シシルルアはパチパチと手を叩き出した。

同調してレイーラ、伍長、そして私が叩く。


パチパチパチパチパチパチ!


拍手喝采。


リリーは真っ赤な顔になって照れていた。


「わ、私! が、頑張ります!」


みんなの拍手は更に大きくなった。



◇◇◇◇



ーードンドコイラの宿屋 女部屋ーー


そこにタケル様は呼ばれていた。


状況がわからないタケル様は珍しく緊張しているようだ。


女の意見をまとめたリリーが経緯を伝える。


「わ、私達。タ、タケルさんの、お嫁さんギルドを作ったんです」


タケル様は少しだけ眉を寄せた。

嫌、というより困っているようだ。


「お嫁さん……ギルド……………………?」


状況把握の為、黙ったまま熟考する。

その間に、リリーはお嫁さんギルドの全貌を伝えた。


基本理念がまだまだ不確定ではあるものの、その存在をタケル様に認知してもらうのが目的だ。

迷惑がられては元も子もない。


一通り伝え終わったリリーは確信に触れる。


「お嫁さんギルド……。作ってはダメですか?」


私達は大真面目。

彼は人の気持ちが人一倍わかる人間だ。

だから、無下に断ることはない。

それは確信めいてわかっているものの、緊張する。


彼は落ち着いて話した。


「お前達が真剣に考えてくれているのはよくわかった。しかし、全員を面倒見切れるかどうかが心配だ。なにせ、俺は一介の城兵に過ぎんからな」


この後も、みんなの面倒を……。みんながもしもの時……。みんなが……。


と、自分より私達のことばかり。


このギルドはタケル様を想う女ばかりが集まった組織。タケル様には自由にしていただいて、好きな者だけを、いつでも、どんな時にでも、会いたい時に会って、自由にしてくれればいい。そう何度も伝えた。

にも関わらず。彼は、私達みんなのことを最優先で考えてくれる。全員の面倒をみる心配ばかり。そんな男性だから、私達は夢中になっているのだ。


このギルドの説明をしてる時でも尚、私達は顔を赤らめて、彼に対する想いを強くしていった。


タケル様ならば、一国の主になるのも容易いような気がする。

できればそうなってもらいたい。

女の子全員が、そんな風に考えているのではないだろうか。

でも、そんな私達の気持ちを、彼に押し付けるのは良くないことだ。

タケル様のことだから、私達が要望を出せば、きっと何かの努力をしてくれるだろう。

でもそれは、彼にとって、大きな負担になってしまう。

だから、絶対にそんなことはできない。

私達はタケル様に付いていくだけなのだ。


私がそんなことを考えていると、全く同じ内容をリリーがタケル様に伝えてくれるのだった。


「タケルさんには自由に生きてもらいたいんです。私達はタケルさんに付いていくだけですから。ただギルドの存在を認めてくれれば、それだけでうれしいんです」


「……うむ、そうか。わかった。そこまで言うならば認めざる得ないな」


「わぁッ!! ありがとうタケルさん!」


リリーは飛び跳ねて喜ぶ。

その勢いでタケル様に抱きついた。


私達も負けてられない!


「狡いわよリリー! あなただけ!」


私がタケル様に抱きつくと、シシルルア、バルバ伍長と続いて彼に抱きついた。


「お、おいおい、お前達」


困っているタケル様を、私達はぎゅうぎゅうに抱きしめた。今までの話しで、私達の想いは更に膨れ上がったのだから!


「タケルさん!」

「タケル!」

「タケル様!」

「タケル!」


各々の気持ちが爆発する。


「大好き!」

「大好きよ!」

「大好きです!」

「好きだ!」


こうして、お嫁さんギルドは正式に認められて結成したのだった。

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