第56話 城兵のパーティー 【グレンざまぁ回】

僧侶リリーと賢者シシルルアはグレンの勇者パーティーを抜けて、俺の元へ来た。


グレンは愚痴りながら腕を組む。

そんな中、魔法使いのレイーラが苦笑いを見せた。


「グレン様ぁ〜〜」


「お、おう、なんだレイーラ。俺のこと慰めてくれんのか? もうお前だけしかいねぇよ。俺のことわかってくれんのはさ」


「あたしも辞めるわね!」


「はいーーーーーーーーッ!?」


「気づいたのよねぇ〜〜」


「な、何を気づいたんだよぉお! 俺は勇者だぞ! 国王に認められた男だぁ!! お前が好きな将来性のある男だぁあ〜〜」


「……男は中身かなってね。ごめんなさいね。グレン様♡」


「レイーーーーラァァァァア!!」


レイーラも俺の方へと来てしまった。

残されたのは巨漢の戦士ゴリゴスだけ。

涙を流すグレン。

ゴリゴスは慰めるようにグレンに声をかけた。


「グレン様……」


「なんだ筋肉。お前は黙ってろよ。デリカシーの無さが脳みそ筋肉って言われる理由だかんな!」


「いや、あの……グレン様」


「なんだよ、うっせぇぞ筋肉! てめぇの慰めの言葉なんて、これっぽっちも嬉しくねぇーーんだからな! ちょっと黙ってろ! 俺の心は深く傷ついてんだよ」


「そんな時に言いにくいでごんすが……。おいどんも、このパーティーを辞めるでごんす」


「………………は?」


「いや、だから、辞めるでごんす♡」


「ごんす♡ じゃねぇええええ!! ざけんなてめぇ! 筋肉ゴリラの癖に勝手にパーティー抜けんじゃねぇえええ!!」


「おいどん、考えたでごんすよ。もっと仲間を大切にする勇者が良いでごんす」


「てめぇコラァア! 脳みそ筋肉の癖に俺様に意見ぶっこいてんじゃねぇ!! ぶち殺すぞゴラァ!!」


「意見は言ってないでごんすよ。自分の思ったことを伝えただけでごんす。だからグレン様はおいどんの話を聞かなくてもいいでごんす。おいどんが勝手に、自分の意思で辞めるだけの話しでごんすから……」


「………………」


グレンは何も言えなくなった。

そして、ゴリゴスも俺の方へと来てしまった。


俺が呆れていると、ゴリゴスはボソボソと話す。


「こんなこと、とてもグレン様には言えないでごんすが。あの人と旅をしていたら命がいくつあっても足りないでごんすよ。魔王の所に行く前に野たれ死んでしまうでごんす。一度、国に戻って新しく任命された勇者と出直すでごんす」


うむ。確かにゴリゴスの言うとおりだろう。

グレンは彼を盾役にしていたが、指示の出し方、戦闘の振る舞い、全てが雑だった。

いくら心を入れ替えたといっても、まだまだ根本は変わらんからな。


俺はグレンの前に立つ。

こんなことを言うのは気が引けるが、こいつの為だ。



「グレン、最初から出直せ。全属性の魔法だって半分も覚えていないだろう? お前の闘いはこれからだ」



しかし、焼石に水。

まぁ、こうなるのはわかっていた。


グレンは俺の襟首を掴んだ。


「てめぇぇぇえええええ! タケルゥゥゥウウウウ! 貴様ぁあぁ! ぶっ殺してやるぅぅううう!」


グレンは大粒の涙をボロボロと出して泣いていた。


やれやれ。

今日からは別々の道を旅する訳だから、こいつの愚痴を聞くのも最後になるな。

仕方ない。黙って聞いてやるか。


「てめぇ、勝った気でいやがんなぁぁあ!! 城兵の癖にぃぃいいいいいい!! 俺の方が偉いんだぞぉぉぉおおおおお!! なのに、なんでみんなは俺を認めない! みんな俺から離れていく!! 俺は……俺は勇者なのにぃいいい!!」


グレンは今回の件で悟ったはずだ。

デイイーアの街を救い、民衆に認められたのは俺ではない。

マーリアだ。

彼女は姫だから認められたんじゃない。

命をかけて闘ったから認められたんだ。

それと同じことが、今ここでも起こっている。

みんなが俺の元に来ているのは、俺が城兵だとか、そんなことは関係ないのだ。

信頼や、心のより所を求めて、グレンを離れ、俺の元に来ている。


グレンは俺の胸をドンドンと叩き始めた。



「クソッ! クソッ! クソがぁぁああああ!!」



そこに、なんとか従者を振り切ったマーリアが戻ってきた。


「きゃぁッ!!」


彼女は驚く。

俺とグレンが喧嘩をして、俺が殴られていると勘違いしたのだ。


「いや、マーリア。安心しろこれは違うんだ」


この言葉にグレンは発狂し、大きく拳を振り上げた。

正に俺を殴りそうな勢いである。


「このクソがぁぁぁあああああああああ!!」


咄嗟。マーリアは手をグレンにかざした。



「ハァーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」



彼女の手からは冷気が発せられグレンは真っ白な霜に覆われた。



「タケル様に暴力を振るうなんて、この私が絶対に許しません!!」



これには場が騒然。


どうやら彼女の身体にはジャミガから受けた氷の呪いがまだ残っているようだ。

しかし、呪いは侵食することもなく、スキルとして根付いていた。


相手を凍らせるスキル。


闘う姫としては、なかなか似合っているかもしれんな。

さてグレンだが……。


「あ……あぐ……。つ……冷……た…………」


「安心しろグレン。氷は太陽の熱で溶けるから、死にはしない。丁度いいだろう。少し頭を冷やせ」


僧侶リリーは、そんなグレンが気になるようだった。


「グレン様……。ちょっと可哀想ですかね?」


俺は彼女の頭を撫でる。


「あいつは勇者だ。少しは自分と闘わないと、強くなれんさ」


「えへへ! そうですね! 散々、周りに頼り切ってましたからね。1人になって頭を冷やすのはグレン様にとって良いことかもしれません!」


「そういうことだな」


さぁ。

お別れの時間だ。

きっと縁があれば会うこともあるだろう。


俺達は凍ったグレンに手を振った。



「グレン! 達者でなぁーー!!」



グレンはわめくことも泣くこともできず、ただそこに突っ立って、氷が溶けるのを待った。

彼の目には、笑いながら楽しく歩く俺達の姿がしっかりと焼き付いたのだった。

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