第47話 闘う者

〜〜賢者シシルルア視点〜〜


私達はジャミガの発生させる炎の狼、イフリートウルフと戦っていた。


「ブリザード!!」


私が氷の魔法で凍らせたイフリートウルフを戦士ゴリゴスの巨大ハンマーでかち割る。


「いくでごんすぅうう!! うらぁあ!!」


この連携で5体のイフリートウルフを倒した。

しかし、体力の限界である。

私とゴリゴスは肩で息をしていた。


ああ、こんな時に魔法使いレイーラさんがいてくれたら、同じ氷魔法のブリザードで応戦してくれたのに……。


「ニャニャニャニャーーーーン!」


僧侶リリーは暴れる猫をたしなめた。


「ダメですよ、レイーラさん! 私達から離れたら危ないです」


この紫毛色のシャム猫はジャミガに呪われたレイーラである。



ドパン! ドパン! ドパパパーーン!!



タケルが敵を粉砕する音が響く。

彼はたった1人で100体以上ものイフリートウルフを倒していた。

しかし、ジャミガの力は凄まじい。炎を象った狼は奴の身体から離れて200、300と出現する。

周囲を囲まれたタケルは狼の一斉攻撃を受けてしまう。

少しでも噛まれればたちまち炎の呪いに身体を病まれて終わる。

タケルの姿はイフリートウルフの姿に埋もれて見えなくなった。


私は叫ぶ。


「タケルゥウウ!!」


そんな私に、2匹のイフリートウルフが襲いかかってきた。


ああッ! ブリザードが間に合わない。

私も呪われてしまう!



「ガイアウォオオオオオル!!」



私の前には、隆起した大地の壁が現れてイフリートウルフの攻撃を防いでいた。

この現象は勇者最大の防御魔法ガイアウォールである。この魔法が使えるのは1人だけだ。


私は目を見張る。

目の前に現れたのは、1人だけで逃げたはずの勇者グレン。

その姿は聖剣ジャスティスソードを身構えて、凛々しくも頼もしい。


「グレン様! ありがとうございます!」


「礼は助かった後だ! ブリザードの準備をしろぉ!」




ドパパパーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!


それは凍りが粉砕し弾け飛ぶ音。

タケルは襲いかかる全てのイフリートウルフを凍らせて破壊した。

私達の目の前にいる狼さえも粉砕する。


「ほぉ……」


彼はグレンの姿を確認した。


「遅い登場だな? グレン」


「うるせぇ! お前は闘神の力を持ってんだろが! だったら早くジャミガを倒しやがれ!」


「お前は全属性の魔法が使えるんじゃなかったのか?」


「うっせぇッ!! んなもん、この闘いが終わったら直ぐにでも習得してやらぁ!!」


「ふ……。では俺が逃したイフリートウルフはお前に任せればいいのか?」


「やってやらぁ! 命に変えても、この街を守ってやらぁあああ!!」



タケルはもう一度笑った。





「任せたぞ。グレン」





グレンは叫ぶ。



「シシルルア、ゴリゴス! 俺達はリリーとマーリアを囲んで戦うぞ!」



私は目を見張る。


何があったのグレン? 

まるで別人のよう。


「シシルルア。お前のブリザードを俺の剣とゴリゴスの大槌に付与できるか?」


「はいできます!」


「よし! なら、作戦はこうだ! 後方のリリーは回復に徹しろ! 火傷したメンバーをすぐに回復するんだ! ゴリゴスと俺はシシルルアとリリーを守りながらブリザードを付与した氷攻撃だ!!」



効率のいい作戦だわ!

賢者の私を補助に徹しさせて、回復役のリリーさんを守りながら攻撃に転じる。

これならみんなの力が均等に分散されて疲れにくい。

魔法使いのレイーラさんがいない状態を上手くフォローしている!


グレンの氷を付与した一閃がイフリートウルフを切り裂く。



「ブリザード スラーーーーシュッ!!」



グレンがこんなにも変わるなんて!


でも……私にはわかる。


タケルが彼を変えたのね……。

タケルの熱い心が、グレンを変えたんだわ。

あの、自分のことしか考えなかったどうしようもない勇者グレンが、こんなにも勇しくなって帰ってきた。

私なら騙して操ることしかできなかった。

グレンの心を変えるなんて、とてもそんなことはできない。

いや、誰もそんなことはできないだろう。

グレンの心を動かせるのはタケルだけだ。

やっぱりタケルは凄い! 凄すぎる!!



ドパパパーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!



再びイフリートウルフが破壊される音が響く。

そんな中、マーリアは眉を寄せた。


「シシルルア。どうしてタケル様は絶対零度のスキルでジャミガが倒せないの?」


私もそれを考えていた。


「おそらく、全体を一気に破壊できないからだと思うわ!」


「どうして?」


「絶対零度のスキルは体に触れた時だけ可能。あまり長く接触していると呪われてしまうから、凍った部分を瞬時に神砕破で破壊しているのよ。しかしそれだと、凍っていない部分が残ってしまう。そこからジャミガが再生してしまうのよ」


「つまり、全体を凍らすことができないから倒せないってこと?」


「そうね。私の氷の魔法でも一部分しか凍らすことができないから、どうすればいいかわからないわ」


「そう……。じゃあ、一気に全体を凍らせれば、あとはタケル様がなんとかしてくれるのね……」


そう言うと、マーリアは両手を組んで力を溜め始めた。


「え!? マーリア、何をするつもり!?」


「姫だってね……。女の子だってね……。闘えるんだから……。みんな闘っている。私だって闘う!!」


マーリアの体に青い血管が浮き上がる。

内包した氷の呪いがドンドン膨れ上がった。


「マーリア! やめなさい!! 呪いの力を使えばあなたの身体に根付いてしまうわ! 一生溶けない氷に包まれてしまうのよ!」


「タケル様が言ったんだから!」


マーリアは勇しく笑った。



「闘う者は美しい!!」

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