第43話 グレンの土下座 【グレンざまぁ回】

ーーデイイーアの公園ーー



俺達は地下水道を出て公園の広場で休んでいた。

僧侶リリーの回復魔法のおかげでメンバー達は傷を癒すことができた。


勇者グレンはうずくまり震える。


「お、俺……。の、呪われちまった……」


地下水道で突然起こったグレンの発火現象。

魔王軍四天王呪術師ジャミガは身体に触れるだけで相手を呪うことができる。

つまり、グレンの腹部を踏まれた際に呪われたと推測される。


「ニャアニャア!」


リリーが抱きかかえる紫色のシャム猫が、何かを訴えかけるように鳴く。

この猫は妖艶な魔法使いレイーラが呪われた姿である。

巨漢の戦士ゴリゴスは頭をかいた。


「レイーラどんが猫にされてしまったでごんすからな。これは王国に連絡する必要があるでごんすな」


これにはグレンが黙っていなかった。


「おい、ざけんなよ筋肉! んなことしたら、ぶっ殺すぞ!!」


「いや、しかしでごんすな。グレン様も呪われてしまったし、パーティーの誰かに大きな負傷が出た場合は王国に連絡するのが勇者法律で決まっているでごんす」


「ば、馬鹿が! んなことしてみろぉお、俺の勇者としての立場が無くなっちまうだろがぁぁぁあああ」


うーーむ。

グレンの立場などどうでもいいが、炎の呪いをなんとかしなければ、呪いが発症すると焼け死んでしまうな……。

呪われたメンバーはこれで3人になった訳か。

ママジャン王国の姫マーリア。勇者グレン。魔法使いレイーラ。

ジャミガと俺の力量の差は圧倒的に俺が優位ではあるが、寸でのところで逃している。

そのことで被害が拡大していると言っても過言ではない。

デイイーアの街は人口10万人。そんな人数をどれだけ守れるかは疑問だ。

1人でも被害を減らしたいからな……。ならば応援を要請するのが最も効率的か。


「もうすぐすれば、バルバ伍長のスタッド王国第二兵団小隊が、ワーウルフ退治を終えてこの街に帰ってくる。彼女らに状況を報告して応援を頼もう」


グレンは俺の襟首を掴んだ。


「ざ、ざけんなよタケルゥゥウウウ! んなことしたら俺の評価が下がるだろがぁぁあああ!!」


俺は睨みつけた。


「貴様の評価など知ったことか! そんなことより街人の安全が最優先だ。ジャミガは魔王軍四天王だ。今後、更なる被害が予想されるだろう。1人でも街人を助け、避難、誘導、救助の為には小隊の力が必要不可欠だ」


マーリアは凛々しい声を張り上げた。


「流石はタケル様です! 私もそう思います! タケル様がお強いとはいえ、1人でも多くの街人を救うのが私達の使命!」


グレン以外のメンバーは俺の意見に同調する。

グレンは俺の襟首を掴んだまま項垂れた。


「ざけんなよ……。ざけんな。んなことしてみろ……。お、俺の評価が…………」


叫ぶ。




「助けてくれ!!」




一同、目を見張る。

あのグレンが俺に助けを乞うているのだ。



「タケル、お前があんなに強かったなんて全くわからなかったぜ! お前、闘神の体を持ってるんだろ? だったらその力でさ、俺を助けてくれ!!」


「………………」


俺は蔑むような目で睨んだ。



「た、頼むよ! な、な!? お、俺、呪われてんだぜ!? いつ発火するかわかんないんだ! このままいったら死んじまうよ! 可哀想だろ? お前だったらさ。その闘神の力でジャミガを倒せるんだろう?」



「………………」



グレンは掴んだ手を離し、手を合わせて懇願した。

俺の冷たい視線は変わらない。



「た、頼む! 頼みます!」



「………………」



「わ、悪かったよ! 悪かった!! お前を解雇にしたことは反省してるんだ。許してくれよ! な!?」



「俺も反省している…………」



「は……? 反省?? そ、そか! 闘神の力を隠してたんだもんな! だよなーー! お前も人が悪いよ! でも俺は優しいからな、許してやるよ! これで仲が戻ったからさ! 前みたいに俺のパーティーに戻ってきてくれるか?」



「お前を甘やかし過ぎた」



「え……?」



「もっと教育すべきだった……」



「は…………はい?」




「まさかここまでクズだったとはな」



グレンは震えた。

そして、再び俺の襟元を掴んで気持ちを爆発させる。




「ざけんなぁぁあああ!! 偉そうにしやがってぇぇええええ!! 闘神に選ばれたかなんだか知らねぇがな。てめぇは城兵だろうがぁぁぁああああ!! 勇者の俺の方が100万倍も偉いんだよぉおおおおおお!!」



「だったら自分でなんとかしろ」



「この野郎ぉぉおお!! む、無能の癖にぃぃいい!! 無能の城兵の癖にぃぃいいい!! 勇者の命令を聞けぇえええええええ! 俺の命令は絶対なんだぁぁぁああああああああ!!」



「そうだな……。俺がお前の部下だったら、今頃、何も文句を言わず、お前の命令に従っていただろうな。何しろ、俺はしがない城兵だからな。でもな——」



俺は目を見開く。







「お  ま  え  が  !  俺  を  ク  ビ  に  し  た  ん  だ  !」 






グレンは奥歯をギリギリと噛んだ。

俺はめんどくさそうに嘆息。





「お前の命令など、1ミリも聞く必要はない」





ドン…………!



それはグレンが俺の胸を叩く音。



「ざけんなぁぁあ……」



ドンッ!  



「ざけんなよぉぉ……」



ドンッ!!  






「ざけんなよぉぉぉおおおおおおおおお!!」





グレンの目からは大粒の涙が滝のように流れ出た。




「でめぇ、ブチ殺じでやるぅうぅぅうぅうううう!! 絶対許ざねぇぇえぇええぇぇえぇ!!」




すると、グレンの拳から炎が上がる。

マーリアの呪いと同じく興奮すると発症するようだ。



「あ……ああ! 燃えてる!! 燃えてるよぉぉぉおおおおおお!!」



再びグレンの懇願。



「た、頼む!! 助けてくれ! お前の闘神のスキルで火が消せるんだろ? 俺の炎を消してくれ!!」



「…………………」



「お、おい! 冗談はよしてくれ!! も、燃えちまう!!」



いい寄るグレン。

炎は俺にも乗り移る。

しかし、俺は動かなかった。



「おいタケル! お前も死ぬぞ! 早くスキルでなんとかしろぉぉおお!!」


「お前は、全属性の魔法が使える優秀な勇者ではなかったのか? 氷の魔法、使えないのか?」


「う、うるせぇ! は、早く治しやがれぇぇえ!!」


「…………俺は無能の城兵だからな」



「ぎゃぁああ!! 炎が強くなった!! た、助けてくれ!」



「…………………」



「タ、タケルゥゥウウウウウウウ!!」



「…………………」



ゴン!



それはグレンが土下座をして額を地面に打ち付ける音。







「た、頼む! 助けてくれ!! 死んじまうよ!! 頼むぅぅううううううううう!!」





ゴン!



再び深々と頭を下げる。

俺は目を細めた。






「断る」






ゴン! ゴン! ゴン!



何度も額を地面に打ちつける。





「悪かった! 悪かったぁぁああ! 全部反省する! 全て俺が悪かったよぉぉおおおおおお! 呪文だってもっと使えるように努力する!! だからぁぁぁああああ!! だから頼むぅぅうううう!!」



「………………………」



「あ、熱い!! 炎がぁぁああ!! 死んじまうぅぅう死んじまうよぉぉおおおおおお!!」



グレンは再び、その燃え盛る手で俺の襟首を掴んだ。



「あ、熱ぃいよぉぉおお! 死んじまうよぉぉおおお! 炎を消じでぐでぇぇえええええええ!!」



俺は目を逸らす。





「困ったな……。俺は無能だからな……。何もできん」




グレン再び号泣。

その大粒の涙さえも呪いの炎は燃やし尽くした。




「ああああああ熱いぃい………死ぬ……死ぬぅううううううう」




泣き崩れるグレン。

炎は俺とグレンを包む。





「ブリザーーーーーード!!」





賢者シシルルアが放つ氷の魔法が俺とグレンを包む。


呪いの炎は鎮火した。


グレンは地面に四つん這いになり泣く。

俺は冷たく言い放った。




「良かったな。仲間がいて……。もしも、俺とお前だけだったら、2人とも焼け死んでいたな」





グレンの嗚咽が公園に響いた。




「うう……ぁあ…………ぅ……ぅ……うう」

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